第253話 二人の王子
街の一角、厳重に警備された屋敷――リヴァイア領主邸。
そのすぐ側に建てられたひと際豪奢な屋敷には領主邸以上に警備の騎士が配置されている。
それは王族が訪問された際に使用するための屋敷。
使用人の質も騎士の力量も他の貴族邸とは比べ物にならない程洗練されている。
今まさに、その屋敷はネプテュナス神王国の王子たちが利用していた。
月明かりに照らされた部屋では二人の王子の他に、武装した男女数名が膝をついている。
「――言い訳を聞こうか」
王子の一人が苛立った様子で膝をつく男に問いかける。
男は何も言えず、ただ顔を伏せていた。
「留学中の妹にわざわざSランク昇格試験を受けさせるのは骨が折れた。最小限の護衛しかつれて行かなかった妹の守りは手薄だ。いくらイザナミが手を貸そうが大したことはない。海賊や破落戸に襲わせれば確実に妹を捕らえることができる。貴様はそう言わなかったか?」
「……おっしゃる通りです、ヴァルナ―様」
「だが、貴様が立てた策は悉く失敗。妹は無事リヴァイアに到着し、Sランク昇格試験を受けることとなった。一次試験中事故に見せかけ妹を排除することも失敗。妹についているメイドと執事の力量を見誤っていた。これは我々の落ち度だ。
しかし……今日のあれをどう説明するつもりだ?」
第一王子ヴァルナーは藍色の瞳で鋭く睨みつける。
膝をつく男の頬から一筋の汗が滴り落ちた。
すると、横から軽い調子の声が割り込んでくる。
「兄さん、こいつらを絞り上げても仕方ないんじゃねぇの? 所詮はBランクの大した実績もない冒険者だしぃ」
「ガラ、冒険者を使うと言ったのはお前だぞ。私はこんな卑賎な者を使うつもりなどなかったのだ」
「そうは言ってもさぁ、俺たちが表に出るわけにはいかないじゃん? だからこうして冒険者を使ったり、『シャリア』の連中を招いたりしてるわけじゃん」
第二王子のガラージヤは、唇を尖らせ反論する。
二人の目的は一致している。どちらも妹を排除し王太子の座に就くことだ。
しかし、ヴァルナ―は堅実に、ガラージヤは大胆に妹であるリルマナンを排除しようとしていた。
「表に出るわけにはいかないからこそ、小細工を弄さねばならない。この程度の小細工もできなければ王など務まる筈がないだろう。ガラ、お前はもう少し頭を使え」
「そんな面倒な事したくないわ。もっと派手にドカーンとぶっ殺せばいいじゃねぇか」
「あからさまな殺害方法では、私たちが首謀者だと感付かれる。そうなっては本末転倒だ。いかに、自然に妹を排除するかが重要なのだ。だからこそ、暗殺することこそが確実だったのだが……」
「ああ……『炎魔』ねぇ」
二次試験での策が上手くいかなかったときの保険として、ヴァルナ―は他国の暗殺者を雇っていた。
他国でも有名な暗殺者で、誰もその暗殺方法を知らない。
故に成功を確信していたのだが、それは煉によって阻まれてしまった。
「下賤な冒険者風情が、私の邪魔をするとは……」
「『炎魔』って結構有名だよなぁ。確か、死界攻略者だとか」
「何を馬鹿なことを。ガラ、そのような噂を信じているのか?」
「イザナミでは実際に空中庭園が墜ちたのを見たとか言われてるぜ。だから、半々かなぁ」
「あそこは数年に一度小さな戦争が起こる。イザナミから死界を攻略した冒険者が出たとなれば、周辺国は攻めてこないと思っているのだろう。それくらいの仕掛けは容易に考えられる。だから、もっと頭を使えと言っているのだ」
「うーん……まあ、そうか。死界攻略なんて人にはできるはずがないし。そんなの神様くらいだよなぁ」
「そうだ。そんなくだらないことを考えていないで、次の手だ。ここまで来たら『シャリア』の連中を使うしかない」
「それも失敗したら?」
ガラージヤが訊ねると、ヴァルナ―はニヤリと怪しい笑みを浮かべた。
「奥の手は最後まで取っておくものだ。妹の切り札はおそらく『炎魔』だ。これ以上はない。確実に妹を――リルを殺す。王になるのは私だ」
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