第265話 報告と手紙
悪魔の討伐が完了した煉は、意識を失っている魔族とギルを持ってギルドへと戻った。
騒がしかった街も静かになり、空には太陽が昇り始めていた。
煉がギルドに入ると、不機嫌そうな顔をしたゲンシロウとクレアが魔族を身柄を取り上げ地下牢へと歩いていく。
誰もその二人に関わろうとはしなかった。
そして煉はギルドで疲れ切った表情をしている冒険者たちにギルを預け、王女と二人ギルド長の下へと向かう。
「おう、ごくろうさん。殿下も、御無事で何よりです」
ギルド長室に入ると、机に向かって書類の処理をしていたガイアスが手を止めて声をかける。
するとリルが深く頭を下げた。
「ご迷惑をおかけいたしました。あの、お兄様たちは……?」
「ご心配なく。悪魔召喚を行ったにしては、お二人とも無事だと言えるでしょう。ただ――手足の感覚は失ってしまったみたいですが」
「そうですか……。いえ、命があるのですから喜びましょう」
「ええ。しかし、もう彼らが王位を継ぐことはないでしょう。悪魔召喚は禁忌指定の魔法です。隠し通すこともできない程、大事になってしまった。誰も、二人を支持することはありません」
「それは、お兄様たちが背負うべき罪です。私を排除しようと強引な手段を取ってしまった。もしかしたら民に被害が及んでいたかもしれない。王族として許されざることです」
「そうなると、次代の王はリル殿下しかおりませんな」
ガイアスがそう言うと、リルは露骨に嫌そうな顔をした。
その表情を見てガイアスは楽しそうに笑う。
「本当に王位を継ぐのが嫌なのですね。それでしたら、断ればいいでしょう。王位継承権を持っている者はもう一人いらっしゃいますし」
「叔父様のご子息ですか? キアト君はまだ三歳になったばかりです。彼に押し付けるのは少々……」
幼い従弟に国の未来を託し、自分勝手に生きるのは心苦しい。
そんなことをリルは想っていた。
しかし、リルが王位を継がなければそうなるのは必然。
リルの中に迷いが生まれる。
「この話は国王陛下とよくお話しください。――おい、レン。勝手に寝るな」
「あぁ……夜中に叩き起こされて逃げ出した魔族の捕獲と悪魔討伐、王女さんの保護だぞ? 疲れてんだよ……」
「ああ、はいはい。わかってるよ。わかってるから、報告してくれ。悪魔はどうなったんだ?」
「消えた」
「消えた? それだけか?」
「他に説明のしようがない。逃げたわけでもない。ただ、消えた」
「そ、そうか。まあ、いい。魔族も捕獲し、悪魔は消えた。……依り代となったギルはどうした?」
「両腕は斬り落としたけど、他は無事。数日もすれば目を覚ますんじゃないか」
「……両腕、か。生きているのなら問題はない。了解した。ご苦労だったな」
報告が済んだ煉は立ち上がり、早々に部屋を出ていこうとした。
「そうだ。明日……いや、もう今日か。こんな事態だ。試験は中断せざるを得ないだろう。王子の護送もしなくてはならない。昨日までの結果で試験結果を決めることになる。ゆっくり休めよ」
「それは無理だな」
「ん? どうしてだ?」
「ここまで来て中断するのは反感を買うぞ。特にコノハから。あいつはなぜか俺と戦うのを楽しみにしてた。それなのに、試験は中断です戦えなくなりました。なんて言ったら暴れだすんじゃないか?」
煉がそう言うと、ガイアスは「確かに……」と呟き考え込む。
しかし、これほどの騒動が起きたのに武闘大会決勝を開催してもいいのか。
頭を悩ませていると、ギルド員がガイアスの下へ一通の手紙を持ってきた。
「……これは。ふむ、そういうことなら。――レン。本日正午より決勝を執り行う。しっかり休めよ」
その言葉を聞いて、煉はニヤリと笑う。
「当然だ。……楽しみなのはあいつだけじゃないからな」
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