第15話 日記

 煉は自分のステータスの変化について頭を悩ませながら元いた場所に戻ってきた。

 なんとなくそこが落ち着くというのと、少し気になることがあったからだ。


「確かこの辺に…………あった。これか?」


 サタンと契約した際、魔法陣の輝きによって周囲が照らされた。

 その時にたまたま視界に入っただけだが、煉は違和感を感じて今調べてみた。

 契約中はぼんやりとしか見えていなかったが、しっかりと確認するとそれは小さなドアのような形をしていた。

 洞窟の壁に小さなドア。煉は何かの小部屋があるのではないかと予想した。

 ドアには鍵がかかっておらず、簡単に入ることができた。


 予想した通り、中は小さな部屋で、煉の身長では頭を上げることができないくらい低い天井だった。

 そしてどこか生活感のある部屋だった。

 まるでここに誰かが住んでいたかのように。


「誰かも何も、サタン以外にいないよなぁ……」


 煉はとりあえず部屋の中を物色することにした。

 スキルがよくわからないが、先ほどしたように右腕に炎を纏わせ明かり代わりとした。


「これだとあんまり明るくな――――――うわぁっ!!?」


 部屋の中を照らして部屋を見渡した煉はあるものを見つけ、びっくりして思わず尻もちをついた。

 ひとりでよかったと思いつつ、恥ずかしそうな顔をして立ち上がる。


「おいおい。やめてくれよ、マジで。お化け屋敷じゃないんだからさぁ……」


 煉が見つけたのは、白骨死体。

 部屋にあるベッドの上で安置されていた。

 誰の死体かは考えるまでもなかった。

 そしてベッドの横には低い天井ギリギリの本棚。

 本だなには数冊の本しかなかったが、どれも宮殿の書庫では見たことのないものだった。

 読んだことのない本に好奇心が刺激され、煉は迷わず手に取った。

 しかし、そのうちの数冊は読むことができなかった。

 言語理解のスキルがあるにも関わらず、言語を解読することができなかった。

 仕方なく読めない本をアイテムボックスに詰め込み、一冊の本を手に取った。

 タイトルもなく、他の本よりも薄い。

 その本を開くと、内容は日記だった。


「×××年、自分の魔法によって地形が変化した。何よりも深く、そしてでかい谷。その谷底に俺は封印された。俺の力ではもうここから出ることは叶わない。いずれ俺と契約できる人間が現れるまで、この谷の底でひとり待ち続ける……」


 初めの一ページ目に書かれていたことを口に出して読んだ。

 この日記はサタンのものであり、日記の始まりは今からおよそ数百年は前だと理解した。

 そして煉はページをめくり続ける。

 しかし、ほとんど変化はなく同じような内容が続くだけであった。


「なんだ? 同じことしか書かれてない………………これを数百年毎日残したのか。どんな思いでこれを書いていたんだろうか」


 読み進めるうちに煉は想像してしまう。

 いつ現れるかわからない待ち人をひとりきりで待ち続ける苦痛。

 その心に宿る悲しみや寂しさ。

 サタンにとって、煉との出会いは奇跡のような出来事なのだと。

 煉はそう感じてしまう。

 もしかしたら自分もそうなっていたのではないかと。

 そうして読み進め、最後のページで煉の手が止まった。

 最後のページだけこれまでとは異なることが書いてあった。


『いつか来るであろう契約者。

 そのころには俺はもう魂だけの存在となっているだろう。もしかしたらもう存在すらしていないかもしれない。だが……もし俺と契約をするものが現れたときのためにこの日記に記しておこう。

 契約者に託した力。それは大罪魔法と言う。七柱の大悪魔のみ使用できる強力な力だ。つまりこれは悪魔との契約とも言える。しかし、安心してほしい。魂を喰らうことはない。俺の願いは神を滅ぼすこと。それだけだ。

 俺が託した大罪魔法は「憤怒」。望むままに炎を操ることができ、使用者の心に宿る憤怒の感情や想いの強さによって炎は燃え上がる。

 だが、気をつけろ。憤怒に呑まれるな。それだけは心に留めておけ。

 最後に一つ。神の住まうと言われている地についてだ。天空都市について調べろ。奴らはそこに居る。必ずだ。

 健闘を祈る。それじゃ』


「なるほどなぁ。大悪魔の力か……。そりゃ神殺しにはぴったりかもな。しかも大罪魔法ってことは、俺の他に六人いるのか? それだけいて神を殺せてないってことは……まだ何かあるってことか。正直面倒だが、約束だからな。役目は果たすさ。だから……安心して眠っててくれ。な?」


 そう言って煉は白骨の死体に手を合わせ、黙祷した――。





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