第2話 勇者
「王様……ってことはやっぱりここは異世界なんですね!?」
天馬が興奮を抑えきれずに問う。
その問いに対し、皇帝は鷹揚に頷いた。
「其方らからすればここは異世界であろうな。そして其方らは勇者としてこの地に召喚されたのだ」
「勇者って……」
「そんなのお話しの中だけだろ」
「マジかよ。ありえねぇ」
「今日はアニメの放送日なのに……」
召喚された生徒たちの大半は落胆している。
異世界に召喚された現実を受け入れたは良いが、納得できるかと言えばそういうわけではない。
煉や美香はその場の誰よりも落ち着いていた。
反対に、天馬とその取り巻きたちは実際に起こった非現実に高揚している。
「勇者だって! 本当に物語の主人公みたいじゃないか!」
「それな! ちょっとワクワクしてきたぜ」
「確かに。それ少しわかるわ」
(楽観的と言うか……大丈夫か、こいつら)
(見るに堪えないわね。こんなバカな人たちが一緒なんてこれから先が心配だわ)
煉と美香は落ち着いているというよりも、冷めた目でクラスメイトを見ていた。
全員の反応を一通り確認した皇帝は、冷静に生徒たちの把握に努めていた。
「其方らの動揺は当然のものである。それを承知で召喚したのだから。余には其方らを召喚した者としての責任がある。其方らの面倒は誠意をもって見よう。しかし、こちらとしても其方らを召喚した理由がある。それさえ果たしてくれるのなら、必ずや余が其方らを元の世界に帰すことを約束しよう。それでこの場は納得いただけないだろうか?」
皇帝として頭を下げることはないが、その言葉には王としての重みを感じさせるものであった。
皇帝の想いを感じた生徒たちは渋々ながらも力を貸すことを約束した。
(……なあ、こいつら本当に大丈夫なのか?)
(ダメね。クラスメイトのほとんどは信用しないようにしましょう。できることならこの場から離れたいのだけど、情報がない今、それは得策ではないわ。とにかく私たちもやり過ごしましょう)
(はいはい。姫様の仰せのままに)
(ぶっ飛ばすわよ?)
(こわっ)
「そちらの二人も良いだろうか?」
皇帝から直接二人に対しての声をかけたため、煉と美香に視線が集まった。
二人を狂気に染まった目で見つめる視線-正確には煉一人に対しての視線-に、またも二人は気づかない。
「ええ。構いません」
「そうか。では、話を進めるとしよう」
美香が同意を示したことにより、皇帝は騎士に巨大な水晶玉を持ってこさせた。
「なんだあれ」
「でけぇな。なにすんだ?」
「定番通りならあれは俺たちのステータスを測定ものじゃないか?」
「そう。其方の言う通り、これは其方らの能力を計測ものである。この世界に生きる者すべてに神々よりジョブとスキルが与えられる。ちなみに余は剣聖である。異世界より召喚された其方らも例外ではない。故に、この場で我らにその力を示してほしい」
スキルと聞いて、先ほど困惑していた生徒たちもその顔には期待が表れている。
ただ、美香だけは怪しんでいた。
美香は神々というものを信仰していない。存在していないものを信じる必要性を感じていなかったからだ。
神々と聞いて美香は誰よりもその装置に疑問を抱いた。
(煉。さすがにあれは変じゃない? 神々から与えられるとか言っているのに、どうして水晶玉なんて使うのかしら。そんな仰々しいモノならもっと何かあるじゃない)
(それは分かるが、そんなこと言ったってどうにもならないだろ。ここは異世界だから、実際に神とやらが存在しているのかもしれない。お前は信じていないのは分かっているが、さっきも自分で言ってただろ? 情報がないんだ。今判断すべきじゃない)
煉がそう言うと、美香は渋々と言って様子で納得した。
ちゃんと「煉のくせに生意気よ」と言って頭をはたくことを忘れない。
「おお!」
「やっぱり! さすが天馬!」
「天馬君ならそうよね。それ以外ありえないもの」
煉と美香が密談していると、水晶玉の近くから声が上がった。
一番最初に天馬が水晶玉に触れたらしい。
そのジョブとスキルを見て、周囲がざわついた。
NAME 綺羅阪 天馬
JOB 勇者
SKILL 全魔法適正 聖剣召喚 身体強化(全)聖剣技 アイテムボックス 言語理解
HP 500
PW 500
DF 500
SP 500
MP 500
「おれが……勇者……」
「ほう。やはり勇者がおるとは。やはり余の目に狂いはなかったようだな」
煉と美香は思った。
――――まるでゲームみたいだと。
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