第224話 瑠璃の乙女
手紙を読んだ三人が向かった先は、「グランドアーサー」最上層にある王侯貴族専用の客室。
煉たちが使用している部屋よりも豪華で広く、さらに警備も厳重。
その客室の扉を一目見ただけでどれほどの金を費やしたか想像できる。
お付きのメイドが部屋の主に確認を取っている間、三人は扉の両脇に立っている護衛に不審な目を向けられていた。
そんな中でも煉は平然としており、嫌そうな顔を隠そうともしない。
煉の後ろでイバラとアイトは緊張に体を硬直させ、破裂しそうなくらいうるさい心臓を何とか抑えようと、必死に深呼吸を繰り返していた。
「……マジで嫌なんだけど」
「おまっ! 王族の手紙を無視するわけにはいかないだろ! 我慢して、ただニコニコしてろ! 絶対に、変なことは言うなよ!」
「……そう言えば、お前も一応王族だろ。なんでそんなに緊張してんだよ?」
「バカなこと言うな! 俺なんて、見向きもされない小国の元引きこもり王子だぞ! 大国の王族と一緒にするな!」
アイトが鬼の形相で煉の言葉を否定する。
あわよくば、アイトに全て任せようとしていた煉の目論見は外れた。
こんなに緊張していては、アイトの方が何かやらかしそうな気がした煉だった。
「ど、どうして私がこんなことに……私とソラは部屋で待っていても良かったじゃないですか。私なんかが居ても役に立たないのに……」
「仕方ないだろ。手紙に三人で、と書いてあったんだから。王族の手紙を無視するなって言ったのはアイトだし、それに同調したのはイバラだろ?」
「うぐっ! し、失敗でした。まさかこんなことになるなんて……」
「――お待たせいたしました。やんごとなき御方がお待ちでございます。どうぞ、中へ」
三人の下へ、穏やかな風貌の老執事がやってきた。
立ち居振る舞い、視線、足さばき、どれをとっても隙が無く煉は嘆声を漏らした。
「いかがなさいましたか?」
「いえ、何でも」
三人は老執事のあとに続いて部屋に入る。
すると、鈴を転がしたような声が耳に届いた。
「――ようこそおいでくださいました」
声の方に視線を向けた三人は、固まった。
ラピスラズリのような蒼髪に淡い青のドレスを身に纏った、まるでその身で海を体現しているかのような美少女がそこに居た。
その姿を見たアイトが呆然と呟く。
「『瑠璃の乙女』……」
「あら……恥ずかしいですわ。そのような名で呼ばれるのはあまり慣れておりませんから」
美少女はクスクスと楽しそうに笑う。
そして側に控えていたメイドに促され、名乗り始めた。
「申し遅れました。私は、ネプテュナス神王国第一王女、リルマナン・エル・ネプテュナス。突然お呼びたてして申し訳ございません。どうぞ、そちらにお座りください。『炎魔』レン・アグニ様にお願いしたいことがございますの」
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