第134話 魔力ソナー

「何だったんだ……マジで」


 煉は呆然とそう呟いた。

 そんな煉の元へ、イバラとアイトが駆け寄ってきた。

 二人も煉と同様に困惑した顔を浮かべている。


「突然帰ってしまいましたけど、どうしたんですか?」

「知らねぇ。なんか忠告も受けたけど、ほんと何しに来たんだろうな」


 考えても仕方ないと、煉は切り替えようとした。

 そんな中、一人興奮気味な男がいた。


「な、なぁレンさんや」

「ん? どうした?」

「天使って……めっちゃ美人なんだな! あんな美人がお前に会いに来るなんて、羨ましいぞ!!」

「はぁ………………」


 アイトが興奮した様子で煉へと詰め寄ってきた。

 それを見た煉は、深く盛大なため息を吐き、面倒くさそうに顔を歪めた。


「アホか」

「バカか、煉は! 天使がめっちゃ美人な女の子しかいないってことは、かなり戦いにくいってことだぞ! 何か対策をしなければならないじゃないか!」

「対策も何も、俺の邪魔をするなら容赦しないぞ。まあ……殺しはしないが」

「お前、美人な女の子を殴るつもりか……? それは男としてどうなんだ」

「俺にだって良心くらいはあるさ。それを捨ててでも成し遂げなきゃならんことがある。そうしないと、美香もお前の大事なアリスも助けられねぇぞ」

「むっ。それは困るな……。だが、女の子を傷つけるのは俺のポリシーに反する……」


 アイトはそのままブツブツと考えこみ始めた。

 その様子から、長くなると思った煉はアイトの服の襟をつかみ引きずるようにして歩き出した。

 煉の足取りは濃霧の中でも道がわかっているかのように迷いがなかった。


「レンさん、道わかるんですか?」

「ああ。なんとなくこの森の歩き方が理解できた。これは美香のおかげだな」

「先ほどの……?」


 イバラは首を傾げた。

 特にミカエルが何かしていたようには思えず、煉に視線を向ける。

 煉は真っ直ぐに前を向き、体から少しだけ魔力を放出し始めた。

 その魔力は煉の前方へ徐々に薄く広がっていく。

 そして煉は何かを感じ取り、その方角へと歩を進めた。


「今のは?」

「さっきの美香もやってたんだがな、自分の魔力を広げて周囲を感知するんだ。これなら数十メートルくらいの地形は完璧に把握できる。あんまり広げすぎると曖昧になっちまうけどな。簡単に言えば、ソナーみたいなもんだ」

「そなぁ……ですか?」


 イバラはキョトンとした顔で聞き返した。

 煉ははじめその顔の意味を理解できなかったが、ソナーがこの世界にはないことを知り、ああ、と声を出して説明を始めた。


「ソナーってのは、音を出して物を探知する仕組み?って言えばいいのか。それを魔力で代用してやってるって感じだな。音の反響より、魔力の方がより正確に把握できる気がする」

「なるほど……?」


 イバラはいまいち理解していないようで、不思議そうに首を傾げていた。

 煉も感覚で行っているため、どう説明すればいいか悩んでいる。

 以前のように美香の見よう見まねでやっているから、詳しい原理を理解していない。

 開き直って煉は、イバラに説明するのを諦めた。


「まあ、時間あるときにやり方を教えるよ」」

「そうですね。そのほうが私も考えやすいですし」

「暗に、俺の説明が下手だと言っていないか……?」

「気のせいです。ほら、さっさと行きましょう」


 イバラは煉の背中を押して、先を促した。

 背中を押された煉は渋々と言った様子で、アイトを引きずりながら先を目指した。

 煉に進む道、その先はこれまでと比べ物にならないほどの濃霧で包まれていた。





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