第144話 問答

「俺の中で消化しきれない疑問はかなりある。本当に何でも訊いていいんだな?」

「どうぞ。でも、私が知っていることしか話せないわ」

「構わないさ」


 自分の疑問を解消するため、一切遠慮せず訊ねる前に一応確認を取った煉。

 ミユは煉の勢いに押されつつも、苦笑交じりに頷いた。


「まず一つ目。大賢者とは何者だ?」


 根本的な問題として、「大賢者」と呼ばれる人物がいたことしか伝えられていない。

 大賢者について記載されている文献にも、何を為した人物なのか書かれておらず、偉大な魔法使いであるということのみが後世に伝えられている。

 ただ、ある一冊の神話にのみ、「大賢者」という人物が自分の持つ全てをある場所に残したと記載されているのを煉は見つけた。

 その遺産が世界中で話題にすらなっていないことから、未だ遺産は見つけられていないと推測し、そして簡単に手の届かない場所にあると考えた。

 結果、辿り着いた答えは「七つの死界デッドリィ・セブンス」のどこかにあるということ。

 自分の推測に確信を得るために、煉はまず「大賢者」という人間を知ろうとした。

 しかし――。


「……ごめんなさい。彼については話すことができないわ。それは契約違反だから」

「……そうか。まあいい、次だ。二つ目、これを作ったのは大賢者か?」


 そう言って煉が見せたのは、この世界へ転移してから渡されたステータスカード。

 この世界の人間が当たり前のように所持しているものだ。

 なぜステータスカードについて訊いたのか、少し後ろで話を聞いていた二人には疑問だった。

 一方、ミユは煉がステータスカードを所持していることが意外なのか、驚いた顔をしていた。


「レンがそんなものを持っているなんて。びっくりだわ」

「その反応は、大賢者が作ったものじゃないんだな」

「ええ。それは、ざっくり言えば、神が作ったものよ。これだけ言えばあとは分かるかしら?」

「ああ。大体想像できた」


 煉は呆れた様子で大きく頷いた。

 自分で予想を立てていた通りの答えを得られたらしい。

 ステータスカードの秘密について気になるのか、後ろで大人しくしていた二人が食いついてきた。


「レンさん、そのカードがどうかしたんですか? 何か大事なことが判明したんですか?」

「なあ、レン。俺にも教えてくれよ」

「あとでな。今はこっちが優先だ。三つ目、大賢者の遺産とは具体的になんだ? 魔導書か? それに類するものか?」

「言葉通りよ。『我が叡知』……つまり、彼の全てが遺されているわ。どのような形にして遺したかは私も知らないけれど」


 大賢者の遺産とは、「大賢者」と呼ばれる所以となった知識や魔法、その他の様々な力のことを指す。

 煉はそう推測し、次の問いを投げかけた。


「これで最後だ。『六つの世界』、ここで言う世界とはおそらく死界のことだろう。ただ、六つとはどういうことだ? この世界に死界と呼ばれる地は七ヵ所ある筈だ」

「そうね。この森も死界の一つ。貴方たちは私と出会ったことで死界は攻略しているのよ。それは理解しているわね?」

「「えっ!?」」

「ああ、もちろんだ」


 晴れて死界攻略者となった三人だが、その内の二人は攻略していたという理解すらなかった。

 イバラとアイトは愕然としている。


「そうね……簡単に教えるのはあまり面白くないわ」

「さっきは何でも訊けって言ってたのにか?」

「ええ。でも、ちゃんと答えたじゃない。だから、最後の質問にはヒントをあげるわ」


 そう言ってミユは指を立ておどけたように笑う。

 あまりの可憐さに、アイトはほぅっと息を吐いた。

 ニヤニヤした顔にイラついた煉は、アイトの足元を軽く燃やす。

 ひぃっ、と声を上げ尻もちをついたアイトを無視し、ミユはヒントを告げた。


「ヒントは、そうねぇ……[時系列]かしら。後は、これから残りの死界を攻略していくと思うけれど、私が伝えた言葉を忘れないことね」




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