第250話 白狼族のヴェイン
王女暗殺騒動で、試験は一時中断を余儀なくされた。
しかし、当の王女の意向によりすぐに再会することとなった。
煉を含めた最終グループの六名がステージに上がる。
空中庭園の攻略者として誰よりも注目を集める煉。誰もが「炎魔」の名を叫んでいる。
客席の歓声を受け流しぼんやりと空を見上げる煉の下へ、憎々し気に顔を歪めたギルが近づいてきた。
「あまり調子に乗らない方がいい。今日ここで、真実が白日の下に晒されるのだからね。君の名声もここまでだ」
「……」
「何かな? 名誉を失うことが怖くて声も出なくなってしまったのかい?」
「いや……いつも同じことばかりでもうちょっとレパートリーはないのかと思って」
「……いつまでそんなふざけた態度でいられるか、見物だね」
そう言い残し、ギルは離れていく。
他の冒険者と何か話しているようだ。
その様子をボーっと眺める煉の下へ別の人物が近づいてくる。
背後に気配を感じた煉は、後ろに視線を向けた。
煉の後ろには、煉と同じくらいの体格で白い狼の耳と尻尾が特徴的な少年。
ニコニコと満面の笑みを浮かべ、煉に手を差し出した。
「初めまして、『炎魔』さん。僕は、獣王戦士団所属白狼族のヴェイン。見ての通り獣人だよ。君の噂は耳にしているよ。どうやら噂通りみたいだ。君とはあまり戦いたくないかな。どうせなら仲良くしようよ」
ヴェインと名乗った少年は、人懐っこい笑みを浮かべ友好的に握手を求めてきた。
煉は素直に差し出された手を握り返す。
「俺はあんたと戦ってみたいけどな。相当強いだろ? あの金色勘違い剣士より全然」
「そんなことないよ。僕なんて他の団員に比べれば大したことない。あの剣士君は特に君を目の敵にしているみたいだね。彼らと結託して君を陥れようとしているのかもしれない。……まあ、君がその程度でやられるなんてことはないかな」
「まあな。いちいち突っかかってきて面倒だから、ここで徹底的に叩き潰すつもりだ」
「それは怖いね。それじゃ僕は……あそこの狂信者と遊んでいるとするよ」
そう言ってヴェインは、膝をつき祈り続けている神官服の男を指さした。
彼の言葉に棘があり、何かあるのだと察した煉は何も言わず拳を突き出す。
ヴェインが首を傾げ煉の顔を見ると、煉はニヤリと笑った。
「あんたとは気が合いそうだな。いいぜ、ヴェイン。大会が終わったら俺の祝勝会に呼んでやるよ」
「それはとても魅力的だね。でも――僕は負けるつもりはないよ」
「ははっ。それでこそだ」
コツンと拳を突き合わせ、二人は離れる。
そして試合開始の鐘が鳴り、ヴェインは神官服の男へと駆け出して行った。
その勢いに感心していた煉へ、ギルと話していた二人の冒険者がそれぞれ武器を構え迫りくる。
「ギルの話じゃ噂はでたらめらしいな。覚悟しろ、炎魔!」
「全部嘘だって言うならただのガキだ! 手加減してもらえると思うなよ!」
二人は左右から煉を挟み、煉の周囲に煙玉を投げつけた。
大量の煙で視界を奪われた煉へ、右から剣が頭を目掛け振り下ろされる。
同時に左から槍が連続で突き出される。
「――もらった!」
「油断したな!」
そう言いつつも、手ごたえを感じない二人は首を傾げた。
そして自分の胸元に小さな紅い玉が浮かんでいることに気が付く。
それが煉の魔法だと気づかず、二人は触れてしまった。
その瞬間――
「〈
ポンッ! という音と同時に二人の体が吹き飛んだ。
五十メートル四方のステージの外まで飛ばされ、二人はそのまま気を失った。
二人が持っていた武器をよく見ると、先端から半ばまで溶かされたような跡が残っている。
煙が晴れると、無傷の煉が始めに立っていた場所から一歩も動くことなく佇んでいた。
一瞬で二人を倒した煉に、歓声が沸き起こる。
「き、貴様……何をした……?」
「大したことはしてないさ。それで? あとはお前だけみたいだが?」
「僕だけ……? 一体何を言って――っ!?」
ギルが煉の視線の先を追うと、倒れ伏した神官の上に座るヴェインがいた。
観客に手を振り、笑顔を振りまいている。
ヴェインはそれ以上何かするつもりはなく、煉とギルの戦いを見届けようとしていた。
戸惑うギルを、煉は不敵な笑みを浮かべ挑発する。
「俺を倒すんだろ? 来ないのか? 『剣聖会』ってのが何かは知らねぇが、大したことないんだな」
「くっ……! 馬鹿にするな! 貴様のその傲慢な態度、僕の聖剣で叩き切ってやる!」
ギルは腰に下げた剣を抜いた。
金色に光る刀身が太陽光を受けさらに輝きを放つ。
「僕の聖剣カリバーンの前にひれ伏すがいい!」
「やってみろ、三流剣士」
煉も神斬を抜刀し、楽し気な笑みを浮かべた。
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