第303話 乱入者

「……俺は勇者だぞ。お前らとは存在としての格が違うはずなんだ……なのに、どうしてこんな……」

「何をブツブツ言ってるかわからんが、今が好機だ。早く奴を仕留めるぞ!」


 ラミエルの号令に合わせ、全員が動き出した。

 先陣を切ったのは珍しくアイトだった。探し続けていた人物を見つけたからか、いつも以上に昂っている。

 イーリスに光を纏わせ、勇者へと突撃していく。その行動に、イバラは少なからず驚きを感じた。

 だが、一声かけることを忘れない。


「アイトさん! 無理は禁物ですよ! 闇聖剣に気を付けてください!」

「わかってるさ! 俺は……やる男だぁぁ!!」


 魔道具に関わるときと同じようなハイテンション。イバラは不安な気がしてならなかった。


「勇者だかなんだか知らねぇが、おととい来やがれ! 今、お前に構ってる暇はねぇんだ!」

「!? ……俺は、勇者だぞ!! 跪いて頭を垂れろ、雑魚がっ!!」


 アイトの言葉が、天馬の怒りにさらなる火をつけた。

 その感情に呼応し、天馬の持つ闇聖剣からとめどなく闇が溢れだしてくる。

 闇は徐々に形を成し、刀身が二倍以上の大きさに変化した。

 天馬は大剣と化した闇聖剣を、アイトに向け無造作に振り下ろす。


「は……うそっ、だろ!?」


 危険を感じたアイトは、横に大きく跳び緊急回避を試みる。

 辛うじて大剣を避けることはできたが、叩きつけられた衝撃で弾けた闇に左腕が侵食されてしまう。


「ぐっ……あぁぁ!」

「アイトさん!? 大丈夫ですか!?」

「……これ、想像以上にやばいな……。技術なんて欠片もないが、あの闇が本当にまずい。一瞬で左腕の感覚が消えた……」


 闇に侵食されたアイトの左腕は、動かそうとしてもピクリとも動かない。

 すぐ側に落ちていた瓦礫に触れるがその感触はなかった。

 アイトの左腕を確認しようとしたイバラを制止する。


「やめといた方がいいかもしれない。イバラちゃんにも闇が侵食する可能性があるしな。対処法もわからねぇ。左腕は使えないものと思った方が良いだろう」

「……大丈夫ですか?」

「心配いらねぇ。やるときはやる男だぜ?」

「でしらた、無暗矢鱈と突っ込まないように。その程度で済んだことを幸運だと思ってくださいね」

「……ご、ごめんなさい」


 イバラの笑顔の圧に負け、アイトは頭を下げた。

 その後ろから、楽しそうに笑い声を上げラミエルが近づいてくる。


「仮にも神に選ばれた勇者だ。その能力は私たち天使ですら計り知れない。そのことを頭に入れておくが良い」

「はい……」

「それに――どうやら勇者一人ではなかったらしい。魔族とは、無粋な輩しかおらんのか?」


 誰かに問いかけるように声を上げる。

 すると、笑い声と共に天馬の真横に魔族の男が姿を現した。

 右手には真っ黒な短剣。左手にナイフを数本持ち、大きな翼を広げた黒肌の魔族は、楽しそうに笑う。


「ハッハッハ! 熾天使が三体、鬼の少女に騎士王の子孫! 此度は勇者のお守りであったが、我慢できず姿を晒してしまったではないか! だが、まあ良い。姿を見せたからには名乗り上げるのが戦士としての礼儀。我が名はベリト! 魔将軍の一角にして、魔王アザゼルの忠実なる臣である! さあ、貴様らの武勇、我に見せてみよ!!」







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