第39話 鬼族

「いつまで寝てんだい! さっさと起きな!」


 その声と同時に叩き起こされた。

 そう、文字通り叩き起こされたのだ。


「……痛い」

「当たり前だろ。いつまでも寝れるのが悪いんだ」


 おそらく彼女の家のリビングだろう。

 生活感のある部屋だった。

 ソファに寝かせてくれていたみたいだ。


「さっさと話を済ませるよ。時間は無駄にしない主義でね」

「あ、ああ」

「それで? あんたの目的は?」

「武器を作ってほしい。それと冒険者っぽい服装はないか?」

「なるほどね。いつまでも素手で戦って、かつその妙な格好。冒険者とは思えないね。馬鹿なのかい、あんた」


 全てを察したかのようにそう言う。

 否定したいところだが、その通りでもあるので何とも言えない。


「あんたの武器は刀だね。さっきのでなんとなくわかったよ。何振りか作るから、その中から自分に合ったのを選びな。服も考えとくよ。一週間くらいはそのままでいな」

「一週間で済むのか?」

「あたしを誰だと思ってるんだい?」

「自分勝手で理不尽なSランク冒険者」

「Sランク以上は大抵の奴がそうだよ。覚えておきな」


 マジかよ。Sランク冒険者ってみんなこいつみたいなのばっかりかよ。

 数人くらいはまともであれよ。


「SSランクなんてのはそれ以上だ。気まぐれで地形を変えるような連中だ。あんたも気を付けなよ」

「化けモンじゃねぇか……」

「その分、五人しかいないからね。国によってはあいつらを天災と思っているところもあるくらいだ。……そんなことよりあんた、その子のことを少し教えな」

「なぜだ?」

「訳ありだろう? 異様な力を感じる。それはあんたもだけど、その子は別だ。この街で何か起こるのなら、あらかじめ何か知っておいた方が対処しやすい」

「確かにそうだが………………わかった」


 了承してイバラにフードを外すように言う。

 イバラは少しためらったが、彼女を信用してもいいと思ったのだろう、徐にフードを取った。

 すると、クレニユが驚いたように声を漏らす。


「こいつはたまげたね。まさか鬼の末裔とは」

「知っているのか?」

「特殊な力を持つ亜人の一緒さ。かつては大陸のいたるところに小さな集落があったんだが、ある鬼が凶悪な力を持っていた。その力は近くの国を亡ぼすことで露見し、鬼族を討伐するために冒険者や騎士たちが躍起になったほどだ」

「そんな危ない力だったのか?」

「詳細はあたしもそんなに知らないよ。長命種だから存在自体は知っていたがね。今の人間たちはほとんど知らないんじゃないかい」


 そんなに希少な種族だったのか。

 俺はクレニユにかいつまんでイバラの事情を話した。


「……そうかい。領主様がねぇ。まあ、何かしているだろうとは思っていたが。あの貴族家は『戦争狂』って呼ばれる連中でね。他国の戦争に介入するほど戦争が大好きなことで有名なのさ。だから、あんたも戦争に利用されていたんだねぇ。どうするんだい?」

「助けるって約束したからな。どうにかするさ」

「当然だね。助けるとか言っておきながらほっぽりだすなんてことをしたら、ぶっ飛ばしてたところだよ」

「やめてくれ。冗談に聞こえないから」

「そうそう。昔国を亡ぼした鬼の力なんだがね」

「何か知っているのか?」

「詳しいことは知らないって言っただろう? でも魔法名についてだけは伝えられている。確か……『降霊魔法』って言ったかな」


 降霊魔法って確かイバラも持っていた……。

 イバラが動揺したように視線をさまよわせる。

 自分の魔法が国を亡ぼすほどの力を持っていたなんて知らなかったのだ。

 一体どんな魔法なのだろうか。


「ほれ。もう帰んな。あたしはこれから仕事をするんだから」

「あ、ああ。一週間後にまた来る。金は――」

「金はいいさ。それより、あんたについて教えな。それが対価だ」

「そんなものでいいのか? 今話すが……」

「仕事するって言っただろう? とっとと出ていきな! あたしは忙しいんだ!」


 そうして俺たちは追い出されるように店を出た。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る