第46話 ゲンシロウ

「ふ~ん、なるほどねぇ」


 クレニユの家でこれまでの経緯を説明した。

 イバラの正体や能力、侯爵の目的、それと俺の能力についても。


「まさか、領主様がそんなことを考えていたなんてね。正直思ってもみなかったよ」

「表では普通に将軍として活躍していたからな。……まあ、いろいろと悪い噂も多い男らしいが」


 ゲンシロウがお茶を飲みながら言った。


「大して強くはなかったが、国のお偉いさんなんてそんなもんか」

「SSランクと比べてんじゃないよ。国一番の強者でもあんたみたいな化け物に敵うわけないだろ」

「それにしたってもう少し歯ごたえがないとな」

「……そんなことより、俺は早くイバラを助けたいんだ。もういいだろ」


 俺がそう言うと、二人の視線がこちらを向いた。

 その目からは呆れが感じられた。


「はぁ……。焦るなって言っているだろう。侯爵がまた動きだすのにももう少し時間がいるはずさ」

「だからと言ってイバラを放っておくことはできない。消沈している今のうちに叩いておくべきだ」

「――――青いなぁ」

「あ?」


 ゲンシロウの言った言葉に心の炎が刺激された。

 一瞬で何かが燃え上がったのを感じた。


「無策で突っ込んでどうする。あの男に苦戦していたお前さんじゃ今はまだ勝てねぇよ」

「舐めんな。次はあいつに勝つ」

「無理だな。そんな様子じゃ返り討ちにあうのが関の山だ」

「……お前に何がわかる」

「わかるさ。そっちこそ舐めるなよ青二才」


 お互い相手を睨み合う。

 今にも刀を抜きそうな険悪な空気になった。

 前にギルドの前で会った時はこの男の威圧感に少し恐怖したが、今は不思議とそうは思わない。

 勝てそうにないのは変わらないが、逃げる気はさらさらなかった。


「ハイハイ。あたしの家で喧嘩するんじゃないよ。そういうのはあとでやんな」

「……」

「わぁってるよ。こんなところで暴れる趣味はねぇ」

「それならいいさ。それとレン、あんたも落ち着けって言ってるだろ。焦る気持ちもわかるが、このバカの言う通りだ。今のあんたじゃ領主様には敵わないさ」

「……あんたもそう思うのか」

「そうさ。領主様は冒険者で言ったらSランクの上位レベルだよ。いくら特殊な力を持っているあんたでもそう簡単に倒せるもんじゃない。まずは冷静に力量を見定められるようになりな」


 確かに焦りすぎていたのかもしれない。

 前はこんなことなかったのに。もしかしたら感情を持たない方が良かったのかもしれない。

 そうは思うが今さら元に戻る気もないから、とりあえず深呼吸して落ち着こう。


「まずはあんたの装備を何とかしよう。今作っているものを速攻で仕上げるよ。だからそれでは待ちな。いいね?」

「どれくらいかかる?」

「二日で終わらせる。やると決めたらやるよ、あたしは」

「わかった」

「じゃあ、それまで俺が鍛えてやろう。クレア、下借りるぞ」

「あいよ。変に壊すんじゃないよ。弁償してもらうからね」

「はいはい。おい、坊主。付いてこい」


 そう言って俺の返事を聞くこともなくゲンシロウは地下に向かった。

 まだ承諾していないのに、勝手な。

 イバラのことはクレニユに任せ、渋々俺も地下に行くことにした。


「なあ、聞きたいことがあるんだが」

「俺に答えられることならな」

「……どこで花宮心明流を習った?」

「なんだぁ。お前さん、同門か? こいつぁ驚いた。それじゃお前さん――――んだなぁ。それにだ」

「あ? どういうことだよ。てか質問に答えてねぇぞ」

「それは後で教えてやるさ。その前にお前さんを何とかしないとな。七魔人の一人、『憤怒』の継承者」


 どういうことだ。なぜそれを知っている。

 さっきの説明を聞いたとしても核心だけは話さなかったはずだ。

 まさかこいつ……。


「改めて自己紹介してやるよ。俺はゲンシロウ。SSランク冒険者にして、『大剣豪』の異名を轟かせた世界最強の剣士。そして――――七魔人の一角『強欲』の継承者だ」






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