第47話 約束を果たすために

「『強欲』だと……? あんたが?」


 七人のうちの一人がこうして今目の前にいる。

 その事実に驚きを隠せない。


「世界っていうのは意外と狭いもんだなぁ。俺以外の大罪魔法士に会ったのはお前さんが初めてだ」

「なんであんたが『強欲』なんだ? そうは見えないが」

「そんなもん見た目で判断できるもんじゃないだろう。俺からしたらお前さんが『憤怒』っていうのが分からん。そんなに感情を表に出すような人間じゃない。違うか?」


 確かにそうだ。

 そう考えると、自分の性質とは関係ないのかもしれない。


「まあ、今はいい。それよりさっきの質問に答えてないぞ。どうして花宮心明流を使う? 誰に教えてもらった?」

「それが知りたかったら俺を納得させてみな。言ったろ? お前さんは中途半端なんだ。力も技量も心も、何もかもが全て。そんなんじゃ誰も守ることはできないし、理想なんて叶いやしない」


 そんなもの、俺が一番よくわかっている。

 まだ手探りだ。正直人を殺す覚悟もない。

 だが、それが良くないことだけは理解している。

 だからこそ俺は証明しなければならない。

 侯爵を討つことで俺の心を定めなければならない。


「……だからそれを邪魔する全てのモノを俺は――――焼き尽くす。そう誓ったんだ」

「ほう。いい目をするようになったな。だがまだ足りない。それを教えてやるよ」


 そして、二日限りの世界最強の剣士との修行が始まった――――。




 ◇◇◇




 未だにイバラは苦しそうな表情で眠りについたまま。

 起きる気配はない。


「ほれ、とっとと行ってきな。あの男から学んだことを無駄にするんじゃないよ」

「わかってるさ。………………止めようとは思わないのか?」

「今さら何言ってんだい。自分で決めたことだろう」

「だが、俺は今から領主を」

「別にあたしには関係ないね。どのみちあの領主のことは、ギルドを通じて国に報告されている。そのうち騎士やらなにやらが派遣されることさ。そんなのを待っていたらこの嬢ちゃんは間に合わないかもしれないがね。だからあんたが行くんだろう。心配しなくていい。ギルドマスターにはあたしから言っておく。犯罪者扱いはされない。それにあいつからも話はいっているはずさ。助けるって約束したんだろう? 男が一度交わした約束破るんじゃないよ」

「……ああ、わかった」


 クレアの言う通りだ。

 これは俺が決めた事。誰になんと言われようが俺は侯爵を討つ。

 そのためにもう制服は脱ぎ捨てた。俺には必要ない。

 高校生阿玖仁煉ではなく、冒険者阿玖仁煉として生きる。


「じゃあ、イバラ。行ってくるからもう少し我慢してくれ」


 クレアからもらったロングコートを靡かせ、家を出る。

 これは俺の誓いを証明するため、そして約束を果たすための戦いだ。

 絶対に成し遂げる。決意を新たに侯爵邸へと急いだ



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