第91話 モヤモヤ

 煉たちが情報を提供してから、数日。

 教国内での神殿騎士の動きが活発になっていた。

 国内にいる神殿騎士を総動員してマリアの捜索を行っているようだ。

 しかし、依然として見つけることができていなかった。

 それでも騎士たちは国内を走り回り、マリアを探し続けていた。


 一方そのころ……。


 ゼウシア神聖教国首都ヘーラ。

 冒険者ギルドが管理する宿にて、煉はなぜか暇を満喫していた。


「――――…………暇って素晴らしいなぁ」

「バカなこと言ってないでレンさんも聞き込みしてくださいよ。ギルドからの依頼ですよ」

「そんなもの引き受けた覚えはない。ここのギルマスが勝手に押し付けてきただけだ。俺がやる義理もない」

「そうは言っても……聖女様の捜索ですよ。レンさんも聖女様に仕返ししてやるとか言ってたじゃないですか。それなのに宿に籠ってばかり……」


 ヘーラに着いて煉たちが最初に目指した場所は、ギルドだった。

 Aランクの特権として、優先的に良い宿をギルドから斡旋してもらえるのだ。

 そのついでにマリアについての聞き込みを行っていたのだが。


「だからと言って、なんで俺に依頼すんだよ。他にも暇そうな冒険者いっぱいいただろうが。この国では俺は何もしないと決めている。正直聖女なんかに会ってなかったら、さっさとこの国を飛び出しているところだ」


 煉は頑なにベッドから動こうとはしなかった。


「もう……どうしてそんなに嫌がるんです? 首都まで来たのにレンさんたら宿から一向に出ないじゃないですか」

「別に俺だってずっと宿に居たいわけじゃない。どう言葉にすればいいか……なんとなくだけど居心地が悪いんだよな、この国」

「そうですか? 皆さん、いい人たちですよ。思っていたより閉鎖的でもないし、市場は活気がありました。いい街だと思うんですけどね」

「イバラの言う通り街としては悪くないんだよ。だけどなんていうか……」


 煉自身、どうしてこんなにも居心地が悪く感じているのか、理解できていなかった。

 街を歩くのもためらうほど煉は言葉にできないモヤモヤを抱えていた。


「あー……なんかストレス溜まるぅ」

「はぁ……仕方ないですね。依頼は私がなんとかしておきますから、レンさんは何かできることを考えておいてください。いつまでもそんな辛気臭い顔をされていては、私も困りますからね」

「すまん……」

「何か美味しいモノでも買ってきますから。待っていてくださいね」

「おぉ。よろしくぅ……」


 イバラが部屋を出て、煉は寝直そうとしていた。

 その時――。


「――――レン!!」

「うわっ!? なんだよ、アイトか……。びっくりさせんなよ」


 バァン!と勢いよく扉を開け、アイトが煉の部屋に入ってきた。


「おっと、すまんすまん。ちょっと面白いもんできたから、レンに見せびらかそうと思って」

「見せびらかすって……それで、何ができたんだ?」

「ふっふっふ。聞いて驚け! これはな、超遠距離探知機だ!」

「ふーん。おやすみ……」


 煉は全く興味を示すことなく、頭から毛布をかぶり横になった。

 扉の前ではアイトが悲しそうな顔で立ち尽くしていた。


「お前…………もっと興味持ってくれよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 宿全体にアイトの叫びが響き渡った。








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