第49話 破綻
――――冒険者ギルドにて。
アリシアが困ったような表情を浮かべ、受付カウンターの前に立っていた。
そのアリシアの視線の先、ギルド内にはあたかも逃げてきたような格好の使用人たちが、困惑した顔で勢揃いしていた。
「……えーと……どういうこと?」
「さてな、俺にもわからん。先日の津波といい、一体何が起こってやがる。事情を知っていそうな野郎は言うだけ言ってどっかに消えやがったし」
そう悪態をついたのはリヴァイア支部のギルドマスター。
強面で子供が寄り付かないことを気にしている。
「この人たちって、侯爵家の方々ですよね? おそらく使用人全員でしょうか……」
「その通りでございます。我々は旦那様が何か良からぬことを企んでいることを察し、こうして救援をお願いしに参ったのです」
「領主様が、ですか? 確かに先日のことも領主様によるものだと聞いています。SSランク冒険者がそう言うので間違いないかと。国王にも報告してありますが、人を集めるのに時間がかかりますよ」
「それでもです。早く旦那様をお止めしないと、この街のみならず被害がっ」
縋りつくように頭を下げる執事に戸惑うが、アリシアとギルドマスターは見過ごすことはできないと思った。
「アリシア、緊急クエスト発注だ。Cランク以上の冒険者に召集をかけろ」
「かしこまりました。すぐに取り掛かります」
アリシアはすぐに行動し、掲示板を埋めるほど大きな張り紙を作った。
「緊急クエスト発令です!! 依頼内容はドナウリア侯爵の陰謀を阻止! 報酬は金貨一枚! Cランク以上からの参加資格を設けます! 人手が欲しいです! ご協力ください!!」
相手は将軍。かなりの覚悟がないと参加できないが、資格のある冒険者はこぞって手を挙げた。
参加するだけで金貨一枚の報酬が魅力的だったからだ。
「ありがとうございます。準備ができ次第、マスターの指揮の下、急ぎ侯爵邸へ向かって――――きゃっ!?」
突如轟音と建物が崩落する音が響き、そして地面が激しく揺れた。
一体何事だと、外に出てみると――。
「な、何だあれは!?」
「あそこには侯爵邸があるぞ!!」
冒険者たちが見たものは、空まで届くほどの極大の火柱だった。
それを見た冒険者たちは急いで準備を進めた。
◇◇◇
「いいかい。一度しか言わないからよく聞きな。まずコートからだ。
このコートは黒竜の皮を使ったあたしの力作だよ。耐魔耐刃に優れ、環境適応にも特化した最高傑作のコートさ。どうして半袖にしているかわかるかい?」
「俺が魔法を使いやすくするためだろう」
「その通りさ。ちゃんと理解しているみたいだね」
時は少し遡り、クレニユの工房。
煉は出来上がった装備の説明を受けていた。
煉がどんな魔法を使うか聞いたクレニユが、煉仕様に作った真っ黒のロングコートだ。
「それはありがたいが、フードが付いているのも意味があるのか?」
「当たり前じゃないか。あんたは悪目立ちしそうだからね、ある程度顔を隠す手段は必要だろう」
「そんなに目立つようなことをするつもりはないが」
「これから侯爵邸に襲撃しようってやつが何バカな事言ってんだい」
煉は確かにそうかと納得してしまった。
「まあ、ありがたく使わせてもらうよ」
「大事にしな。それとそのブーツ。それは翠竜の皮を使ったものだ。軽い上に丈夫。靴を履いている感覚すらないほどのフィット感。最高級のブーツだよ。これらを渡す意味があんたにはわかっているかい?」
「さあ。まったくわからん」
「……期待しているのさ。あんたが大物になることをね。わかったら無茶して死ぬんじゃないよ!」
「ああ、ありがとな」
煉はクレニユに最大限の感謝を伝え、工房を後にした。
そして――――――――。
◇◇◇
「……閣下」
「なんだ!?」
「私の張った結界の反応が消失しました……」
「なんだと!?」
侯爵は怒りを露わにし、魔術師に掴みかかった。
「陣は……陣はどうなったのだ!!?」
「お、おそらく………………跡形もなく……」
「なっ……!」
魔術師がそう言うと、侯爵はあからさまに落胆した。
長年費やした計画が今まさに崩壊したからだ。
そしてその怒りの矛先は煉へと向いた。
「っ!? 小僧……貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「いいねぇ、その顔。最高の気分だ!」
「私の……私の邪魔ばかりしおって! ぽっと出の分際で!!」
「そうやって侮っているから、足元をすくわれるんだ。勉強になったろ?」
「貴様貴様貴様貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
侯爵は腰に佩いた剣を抜き、煉へと襲い掛かろうとした。
しかし、その行動は部下たちに止められた。
「お前ら、邪魔をするな! 私はあの小僧を殺さねばならぬ!!」
「いえ、閣下だけでもお逃げください。時は我々が稼ぎます」
「何を言うか! この私に二度も尻尾巻いて逃げよと申すか!」
「閣下さえ生きておられれば! 我々の夢は終わりますまい!」
部下の決死の眼差しに侯爵はたじろいだ。
そして悔し気に唇を噛みしめ、煉を人睨みし、護衛として側近の一人を連れその場を去った。
「これより先は行かせはせぬぞ!!」
「我らが主をやらせはせん!!」
「言っておくが侯爵は重要参考人としてギルドに引き渡す。殺すつもりはない。だが…………邪魔する奴は関係ないよな」
そう言って煉は不敵に笑う。
残された侯爵の家臣は煉に恐怖を感じながらも、煉を阻むべく立ち塞がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます