第162話 罠

「――というわけで、依頼書に書いてあったハイゴブリンキングの棲家にやってきたのだが……」


 グラムが最後に告げた情報が煉を動かした。

 あの後すぐに、三人は移動を開始した。

 また魔導船に乗り、ミズハノメに戻り、そして船に乗って魔郡帯へと向かった。

 魔郡帯にある島の中で、ぽっかりと穴の開いた場所が目立った。

 そこが煉が炎上させ沈めた島である。

 ミズハノメに一番近い魔郡帯の島であるため、特に注目が集まるみたいだ。

 しかし、今回向かった島は、その反対側。

 いくつもの島を通りすぎた先にあるとても小さな島だ。

 ミズハノメから一番遠く、そして実りの少ない島故に、人があまり立ち寄ることがない。

 だからこそ、グラムのもたらした情報はとても貴重なものだった。


「それにしても、ゴブリンの死骸が放置されたままとは……」

「ハイゴブリンだから、ホブゴブリンよりもさらに人間に近い見た目をしているし、なんか人が死体みたいだな」

「俺も思ったけど、わざわざ言葉にするなよ……。もうそれにしか見えないじゃんか……」


 アイトが口元を抑え、目を逸らす。

 洞窟の入り口にはハイゴブリンの死骸が五体ほど。

 全ての死骸の脳天に矢が刺さったような傷しかない。

 グラムの弓士としての力量が垣間見える光景だった。

 煉はその死骸を燃やしながら、洞窟の中を見据える。


「中にも同じような死骸が大量にあるのか。面倒な後処理を押し付けられた気分だな」

「迷惑をかけたのですから、それくらいはしましょう。それに本来なら私たちが討伐するべき魔獣でしたし、楽させてもらってると思いますよ」


 イバラは周囲に魔力を広げ、洞窟内の生体反応を探った。

 普通であれば、数分もせずにある程度把握できるのだが、イバラは難しい顔で首を傾げた。

 そして再度魔力感知を行う。


「どうした?」

「どうしてか魔力感知が上手くできなくて……。違和感というか、何でしょうこの感じ。妨害されているわけではないのですが、何かが邪魔をしているような……」


 イバラは何度も試行し、その何かを探ろうとしたが答えは得られなかった。

 煉も同様に魔力感知を行ったのだが、イバラと同じく何かに邪魔をされたような違和感を覚えた。


「何だこれ。変な魔力が洞窟内を漂っているみたいだけど、なんか妙な感じだ」

「もしかして、ヤバイ奴なんじゃないのか……?」

「かもなぁ。まあ、行けばわかるか」

「そうですね。とりあえず中に入りましょう。どちらにしろ、ハイゴブリンキングの討伐証明を持ち帰らないといけないので」

「やっぱりそうなるのか……。わかってはいたけど、俺だって心の準備くらいはしたいぞ」

「――ここに何かあるなら、それは空中庭園の手掛かりになるかもなぁ」

「――――何やってんだ! 二人とも、早く行くぞ!」


 ボソッと呟いた煉の言葉が、アイトのやる気を引き出した。

 自分の恐怖心よりも、空中庭園に行きたいというアイトの魔法好きな気持ちが勝ったらしい。

 いつの間にか、煉よりも前に出ていた。


「待てよ。入り口に何かあるかもしれな――」


 ――カチッ。


 そんな音が三人の耳に届いた。

 無警戒で一歩踏み出したアイトの足が、何かのスイッチを踏み抜いたようだ。

 すると見たこともない巨大な魔法陣が、三人の足元に出現した。

 徐々に強くなる魔法陣の光に、アイトが顔を青くした。


「やらかしたかも……」

「かもじゃなくて、やらかしてるわ」

「アイトさん……」


 二人の目が、残念な子を見るようなものに変わった。

 アイトの悲しい叫び声が、島中に響き渡る。


「す、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ――!」


 そして、魔法陣が消えると同時に三人の姿も消えた。

 三人が立っていた場所には、とある文字が刻まれていた。



 ”SSランク迷宮「毒女帝の遺跡エンブレス・オブ・ポイズン」 魔を極めんと欲するものに罰を”





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