第324話 カツアゲ

「……え、えーと……レン様、これは……?」


 積み上げられた巨大な魔石に困惑する受付嬢。

 そうなるのも無理はない。

 数は十を超え、魔石を見れば何の魔獣かすら分かる。

 太陽が頂点に達した時間に依頼を受けたはずの少年が、月が昇り始めた今こうして戻ってきただけでなく、件の魔獣を依頼数を超過して討伐してくるなどと。

 いくらその少年がSランク冒険者だとしても、想像できなかっただろう。

 当の少年――煉は、ただ少し散歩してきただけ、と言わんばかりの様子。


「? サンドワームの魔石。討伐証明は頭って言われたけど、さすがに気持ち悪すぎて全部燃やしたから、魔石だけで勘弁してくれない?」

「そ、それは良いのですが……こ、この数を、お一人で……?」

「まあ、一人で受けた依頼だし。砂漠歩いてるだけで襲ってくるから、探すのが楽だったよ」

「そ、そうですか……はは……ははは……」


 軽い調子でそういう煉に、乾いた笑いで同調する受付嬢。

 両手に魔石を抱え、換金してくると言って受付の奥へ向かった。

 すぐに終わると思い、そのまま受付前で待っていると、煉の背後から声がかけられた。


「……本当に一人であの数を討伐したのか?」


 その声に煉は振り返る。

 大剣を背負い、防具を纏った肌黒の大男が不機嫌そうな顔で後ろに立っていた。


「あー……っと、確かギルマスの弟?」

「アルバスだ! 名前くらい覚えやがれ!」

「そうそう、それ。今日は酒飲んでないんだな。自制してんのか?」

「今、関係ないだろ! それより、俺の質問に答えろ」

「何だよ、随分不機嫌だな。俺一人でやったけど、何か問題でも?」


 煉がそう言うと、アルバスは小さく舌打ちをして吐き捨てるように呟いた。


「……Sランクってのは嘘じゃねぇんだな」

「? なんか言ったか?」

「何でもねぇよ。なぁ、炎魔。お前なら、あの〝女怪〟も倒せるんじゃねぇか?」

「〝女怪〟……?」

「……気にするな。ただの独り言だ」


 踵を返し、アルバスが去って行く。

 それと同時に換金を終えた受付嬢が戻ってきた。


「あれ。今アルバスさんと話してました?」

「大したことじゃない。それより、依頼達成で良いんでしょ?」

「はい。レン様が討伐したサンドワームの魔石は計十五個でした。依頼達成報酬と超過討伐の追加報酬で、金貨四枚です。あとギルドマスターから、これからも討伐よろしくとのことで、金貨一枚上乗せさせていただきました。合計で金貨五枚になります」

「……金で懐柔しようとでも思ってるのか? たかがワーム討伐で随分なサービスだな」

「サンドワームは我々砂漠に生きる者にとっては最大の害獣です。それを討伐していただけるのですから、これくらいは安いものです」

「まあ、貰えるものはありがたくもらっておくけど」


 金貨五枚を受け取り、煉はギルドを出た。

 遮るモノの無い砂漠の街では、月明かりだけでもかなり明るく感じる。

 空を見上げると、一面に星が瞬いている美しい景色。

 そんな幻想的な気分を味わいながら、煉は宿へと向かう。

 途中、ふらっと人気のない路地に入り込み、行き止まりで途切れた道で立ち止まった。


「……ギルドからずっとついてきてるみたいだけど、何か用?」


 近くの家の屋根に向かって、煉は声を掛けた。

 すると、ローブを纏い顔を隠した人影が姿を見せた。

 数は六人。


「金貨五枚。置いて行け。抵抗しなければ痛い目を見ることはない」


 そのうちの一人が、低い声で煉を脅す。

 だが――相手が悪かった。


「カツアゲか? そういうのは人を選ぶもんだ。俺を狙ったからには――容赦はしない」



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叛逆の大罪魔法士 あげは @Ageha5472

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