第268話 vs 金獅子(決)
――楽しい!
やっぱりウチの思った通り、お兄さんと戦うのは楽しい。
準備運動で魔力を消費してから戦うのは初めてだった。
最初から神気解放して戦うほどの相手なんて今までいなかった。
だから、ウチは知らなかった。神気解放した状態でいつまで戦えるのかを。
ウチの戦意がある限り、いつまでだって戦える!
それに、お兄さんは戦いながらいろんなことを教えてくれる。
視線、重心移動での攻撃誘導、魔力操作に最適な体の動かし方まで。
お師匠が教えてくれなかったことばかり。
『お前の頭では理解できんかもしれんが、その分獣のような本能で似たようなことをやってのける。今のお前にはそれで十分だろう』
お師匠の言ってることはよくわからなかったけど、今なら分かる。
お兄さんがやっているみたいなことを、ウチはいつも無意識でやっていたらしい。
お師匠もお兄さんも、ウチのことをバカだって言う。
確かにウチはバカかもしれない。だから、ウチがバカじゃないってことを今ここで証明してみせる!
「――はっ!」
ウチは思い切り踏み込み、お兄さんへと突っ込んでいく。
真っ直ぐ向かってくるウチに対して、お兄さんは右足を一歩引いて構えた。
よく見るとお兄さんの足場は崩れかけ、激しい衝撃には耐えられないかも。
それなら――。
「〈金獅子・翔波〉!」
神気を凝縮させた拳を、お兄さんの足元を目掛け放つ。
お兄さんはウチの攻撃が届かないことを察し、一歩も動くことなくウチが来るのを待っていた。
でも、ウチの狙いはそこじゃない。
ただでさえウチらの戦いの衝撃で崩壊している足場が、ウチの攻撃によってさらに破壊され、お兄さんが態勢を崩した。
その隙にウチはお兄さんに近づき、目の前で右手に神気を集め左足に重心を傾ける。
すると、お兄さんはウチの狙いを察知したのか自分の左腕に炎の盾を生み出した。
――かかった。
「はぁ――!!」
「っ!?」
ウチは集めた神気を右足に集中させ、お兄さんの右側から回し蹴りを放つ。
お兄さんは吃驚した顔を浮かべていたが、咄嗟に右腕でガードした。
「ぐっ……!」
感触でわかる。お兄さんの右腕を折った。
この時初めてお兄さんに大きなダメージを与えたことで一瞬気が緩み、お兄さんが集めていた魔力に反応が遅れた。
「――〈
ウチらの目の前で小さな紅い星が大爆発を起こした。
「うわぁぁぁぁ――!?」
「ぐはっ――!!」
咄嗟に神気で障壁を作っても、激しい衝撃によりウチの小さな体は吹き飛ばされてしまう。
さらに障壁を抜けた熱でウチの腕が焼ける。
ヒリヒリと感じる痛みに顔が歪む。いや、そんなことよりお兄さんだ。
さっきみたいに吹き飛んで視線が外れた隙を狙ってくるはずだから。
ウチは転がりつつ態勢を立て直し、視線を巡らせる。
お兄さんの姿はない。それ以上に爆発によって起きた砂埃で視界が最悪。
これじゃお兄さんもウチのことは視えていないんじゃ……。
「はっ――!?」
「遅い!」
気が付くと、ウチの視線の先には青い空。
そしてウチの顔の前に拳を突き出したお兄さんの姿。
最後何をされたのか理解できないが、一つだけわかる。
「……お兄さん、負けるってこんなに悔しいんだね。初めてだよ……」
「そうか、良かったな。これからもっと強くなれるぞ」
そう言って、お兄さんは笑った。
そして試合終了を告げる鐘が鳴り響き、静まり返った闘技場は大歓声に包まれたのだった。
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