第99話 玉座へ

 神殿騎士が急いで準備を整えている中、イリスはキョロキョロと落ち着きなく周囲を見回していた。


「? 隊長? いかがしました?」

「いえ、レン殿が見当たらなくて……。キューネ、彼はどこに?」

「私が知る筈もないでしょう。いつの間にいなくなって……」

「…………………………」

「…………………………」

「「まずいのでは!?」」


 二人はお互いの顔を見合わせた。

 兜をかぶっているため、表情までは分からないが、甲冑の内で二人は大量の冷汗をかいていた。



 ◇◇◇



 イリスとキューネが大慌てしていた頃、城の中を悠々と歩き回る神殿騎士が一人。

 すれ違う役人たちは怪訝な表情を浮かべ、その騎士を二度見する。

 彼らは、なぜ神殿騎士が一人で城の中を歩き回っているのか不思議に思っているのだ。

 それに、つい先ほど聖王からの勅命を受けたはずである。

 異常に思った役人の一人が、王城警備の近衛兵を呼んだ。

 そんなことを気にすることもなく、神殿騎士――――に扮した煉は玉座の間を探す。


「玉座は………………こっちか?」


 と言っても、広い城の中を闇雲に歩き回って見つかるはずもなかった。

 普段の煉であれば、壁を壊しながら強引に見つけ出すのだが、そこまで非常識ではなかった。

 そうして歩いているうちに、廊下の先から近衛兵が三名、走って煉の前にやってきた。


「貴様だな? 聖王様の勅命を無視し、城の中を歩き回っている騎士とやらは」

「何を考えているかは知らないが、ここは聖王様の住まう聖なる城。いくら神殿騎士と言えど、勝手は許されぬぞ!」


 煉は額に手を当て天井を見上げた。

 まるで見つかってしまったと言わんばかりに。

 そうして次の瞬間、良い事を思いついたと手を叩いた。

 そして兜の奥で笑みを浮かべた。


「……こいつらに道案内してもらおう。そうしよう」

「なんだ? ただの迷子か? その年になって迷子とは、呆れたものだな」


 近衛兵の一人がそう言うと、他の二人もクスクスと笑い出した。

 明らかにバカにされているのだが、煉は全く気にすることなく一歩踏み出した。

 踏み出した一歩があまりにも異常で、近衛兵たちはいきなり目の前に煉が現れたように感じた。


「なあ、玉座の間ってどこだ?」

「な、何を言っている!? 神聖な玉座に足を踏み入れようなど、愚か者め!」

「誰が教えるものか! 曲者だ!! 神殿騎士に扮した侵入者であるぞ!!」


 近衛兵が叫び、笛を鳴らした。

 そこで、煉は諦めがついたのか、全身甲冑を脱いだ。

 兜の奥から露わになった深紅の髪に見覚えがあるのか、近衛兵は目を丸くした。


「なっ!? き、貴様はAランク冒険者の――――」

「そう言うのいいから。玉座の場所を教えてくれよ。あのピエロの用があるんだ」

「がはっ!」


 そう言って答えてもいない近衛兵を殴り、気絶させる。

 教えてもらう気があるのか疑わしい。


「なぜここにっ!?」

「玉座は何処だ?」

「教えるものか――かはっ」


 そうして次々と現れる近衛兵を戦闘不能にしては、玉座の間はどこかと問い続ける。

 数十人が全て一撃で倒されていることに、残っていた兵たちは恐怖した。

 そしてなぜか自分の意志とは裏腹に道を開け、玉座の方へと指をさした。


「おっ。そっちね。サンキュー」


 煉は掴んでいた兵を投げ捨て、指さした方へと歩いていく。

 近衛兵たちは煉が通り過ぎていくのをただ見ていることしかできなかった。

 ついに煉は重厚な扉の前へと到着した。

 そして右手の拳に力を入れ、炎を纏わせ盛大なノックをした。

 激しい破砕音を響かせ、重厚な扉は粉々になった。

 砂煙と共に中に入った煉は楽しそうに笑って言った。


「お邪魔しまーす。そして初めまして、天使さん。あんたに聞きたいことがあってきました」


 と。









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