第261話 奥の手
「――どういうことだ? 状況を説明しろ」
とある屋敷の一室。
豪奢な椅子に座った第一王子ヴァルナ―は、苛立った様子で膝をつく部下に問いかける。
部屋には重苦しい空気が漂いヴァルナ―の怒りが伝播しているようだ。
部下の男は顔を青くし、ヴァルナ―の問いに答えようとも、震える声ではまともに話すことさえできない。
「そ、それは……」
「たかが王女一人殺すだけだ。下等な冒険者は使えん。期待はしていなかったが、それ以下だ。だからこそ『シャリア』を動かしたはずだ。なのに……何故『シャリア』の工作員がギルドに捉えられているのだ? 私が納得をする説明をしてみせろ」
「……わ、わかりません。殿下の御命令通り、『シャリア』に王女暗殺の、依頼をしました。で、ですが、彼らは何故か王女ではなく『炎魔』を狙っていたようで……」
「何故、『炎魔』を狙うなどということになる!? その説明をしろと言っているのだ!!」
「ひっ! も、申し訳ありませんっ!」
ヴァルナ―の怒鳴り声に反応し部下はさらに深く頭を下げる。
苛立つヴァルナ―の後ろからガラージヤが顔を出した。
「兄さん、少しは落ち着けよ。こいつにキレたって意味ないだろ?」
「なら『シャリア』の誰かを呼んで来い! ミガリはどうした!!」
「ミガリは『炎魔』との戦闘からまだ目が覚めていないんだ。そのせいか『シャリア』の連中にまとまりがない」
「ちっ。こうも無能だとは思わなかった」
「それで、どうするんだ? 冒険者も使えない、『シャリア』も役に立たない。このままじゃ試験終了までにリルを殺せない。ああ見えてあいつは魔法に長けている。並大抵の奴じゃ返り討ちに遭うだろうな。あとは……兄さんの言う奥の手だけだ」
「こんなもの、使うつもりはなかったんだ。だが、そうも言っていられない。確実に妹を消すためには、手段を選んではいられない。もう準備は済ませてある。ガラ、お前も手を貸せ」
「あいよ」
ヴァルナ―が立ち上がり部屋を出ていく。
それに付いていこうとしたガラは、扉の前で立ち止まり頭を上げない部下に訊ねた。
「なあ、『シャリア』の連中は何故『炎魔』を狙ったんだ? 何か言ってなかったか?」
「は……はっ。微かにですが、『奴は”シンテキ”である』とだけ……」
「ふーん。どういう意味だろうな、それ」
「おい、ガラ。さっさと来い」
ヴァルナ―に急かされ慌てて付いていく。
二人が向かったのは屋敷の地下室。
領主でさえ足を踏み入れないほど薄暗く汚れた部屋の中心に、一人の男が縛られた状態で椅子に座っていた。
男は暴れることなく真っ直ぐヴァルナ―へと視線を向けている。
そんな男の足元には魔法陣が描かれていた。
「……これは?」
ガラが訊ねると、ヴァルナ―は近くのテーブルに置いてあった古書を手に取りあるページを開いて渡す。
それを見たガラの目の色が変わる。
「兄さん、これは……」
「城の禁書庫で見つけた。我らが生きるこの世界とは別の次元に、”悪魔”という存在がいるそうだ。魔族とも思ったがどうやら違うようだ。これはその”悪魔”を召喚する魔法陣。だが、悪魔とは実体を持たない存在らしい。故に依り代が必要だ。それも恨みや嫉妬、復讐心などの感情に囚われた人間がな」
「それで、こいつがその依り代だと? まあ、確かに。この眼は確かに恨みがありそうだな。……いいぜ。俺は何をすればいい?」
「この魔法を使うための魔力が足りない。私とお前、それと魔術師が数人。それで強力な”悪魔”を呼び出せるはずだ」
「なるほど。”悪魔”ならリルも殺してくれそうだな。これで王位は確実か」
「ああ……」
そうして王子たちは悲願成就を想像し笑う。
その後、数人の魔術師を連れ地下室にて悪魔召喚は行われた。
赤い光を放つ魔法陣の中心で、変色していく金の鎧。
縛られたままの男は怪し気に笑みを浮かべたのだった。
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