295:竜翼の塔を進軍します!



■ドロシー 24歳 ドワーフ

■第500期 Cランク【忍耐の塔】塔主



「強気で勝気なお貴族様が″見″から入るとはなぁ。ある意味意表をついとるわ」


「攻勢に出てくれたほうが助かったのですがね。五竜王ドラゴニアは伊達ではないということですか」


「向こうからしても同じことでしょう。それでドロシー様、作戦は継続ですかね」


「せやな。みんなは準備しとってくれるか」



 フゥが調べといてくれたから向こうの策はお見通しや。

 転移門に攻撃陣を布いてないのも分かってるし、前日に眷属の竜人と打ち合わせていた作戦内容も知っている。

 【竜翼の塔】の順路も、敵戦力もな。まぁ固有魔物の竜人と竜がどんなもんかは分からんけども五竜王ドラゴニアである以上、Sランクなのは間違いないやろ。



 一番やりたかった手はフゥが【人形の塔】戦でやったような完全引き籠り作戦や。

 向こうの攻撃陣――固有魔物の竜人を【忍耐の塔】の上層まで引き込んで一気に斃す。

 その後に主力全員で【竜翼の塔】に乗り込んで竜を斃すっちゅう方法やな。これが一番勝ちやすい。

 二体の固有魔物を個別撃破できるし、こちらはどちらにも主力総出で当たれるからな。


 しかしそうはさせてくれんらしい。

 フゥからも聞いとるけど、やっぱり向こうはウリエルを警戒しとって、こっちの攻撃陣を【竜翼の塔】の上層まで引き上げて竜に当たらせたいと。

 そこで確実にウリエルを斃してから【忍耐の塔】を攻略したいという算段やな。

 考えていることはウチと変わらんちゅうことや。



 ただの伯爵令嬢様やったら話は楽なんやけどな。

 ウチを亜人の新米塔主と侮って速攻潰しにくるとか、五竜王ドラゴニアとしての強さを前面に出して攻撃して来るとか、そういうヤツだったらやりやすかった。


 ところがジュリエット・ローゼンダーツは想像以上に優秀な塔主やった。見た目や言動は完全にお貴族様なのに、塔運営や塔主戦争バトルはクレバーと言っていいやろ。

 やっぱどこかアデルちゃんと重なるな。まぁアデルちゃんほどの天才ではなさそうやけど。


 いずれにせよこちらの思い描いていた展開とはならず、とは言え向こうの思惑通りにもならずという『初手、双方共に引き籠る』この状況。

 まぁ″後出しじゃんけん″でどうにでもできるんやけど……さてどうしたもんかな。





■ジュリエット・ローゼンダーツ 22歳

■第497期 Cランク【竜翼の塔】塔主



 塔主戦争バトル開始から半鐘分(約1.5時間)ほど経過しましたが転移門に変化はありません。

 こうなるとただの様子見ではなく、『意地でも【忍耐の塔】に引き込んでこちらの戦力を削ぎたいという完全防衛策をとっている』と見るべきです。戦略的に引き籠ってそれを実直に継続していると。


 まさしく″忍耐″の勝負ですわね。

 どちらが先に根負けして攻めに転じるかというせめぎ合いです。

 これでわたくしが先に音を上げ【忍耐の塔】に攻め込めば向こうは喜ぶだけですものね。そうはいきませんわよ。


 まぁどうあがいても長期戦になりそうですからパルテアと交代で仮眠でもとっておきますかね。

 わたくしの手が宝珠オーブに触れてさえいれば画面は見られるでしょうし。



 ……と考え始めた頃、ついに転移門に動きがありました。

 随分と音を上げるのが早かったですわね。【忍耐】のくせに耐えずに焦るとは何事ですか。

 この時点に勝敗は決したようなものです。



 転移門から入って来たのは【忍耐】の軍勢。

 斥候役のヘッジホッグ系統とニードルウルフ(D)。壁役のミスリルゴーレム(B)とクリスタルゴーレム(A)。クリスタルゴーレムはおそらく指揮官ですわね。それと後衛の土精霊ノーム(C)。

 さらに飛行戦力のスフィンクス(A)とガーゴイル(B)。このスフィンクスは眷属でしたわね。こちらも指揮官でしょう。


 そして最後に入って来るのが――ウリエルの天使部隊。やはり出張ってきましたか。


 総数で百五十ほど。

 数自体は少ないですがそれだけ【忍耐】に攻撃向きの魔物がいないということでしょう。おそらく防衛陣のほうが充実しているはずです。



 しかし限られた攻撃陣にクリスタルゴーレム、スフィンクス、ウリエルという主力を固めてきたことから相手の意図が読みとれます。

 【竜翼】が攻めて来ないならば防衛をある程度捨ててでも攻めるしかないと、そういうことですわね。

 攻撃陣を厚くしなければ【竜翼の塔】は攻略できないし、最上階にいるであろう竜は斃せないと。その考えは正しいと思いますわ。


 ただ精一杯厚くしてこの程度しか出せないというのはお気の毒ですわね。

 そこいらのCランクの塔が相手ならば十分すぎる戦力なのかもしれませんが五竜王ドラゴニアを嘗めないで頂きたい。

 まぁ見誤って下さってありがとうございますとでも言っておきましょう。



「想定よりもだいぶ早いですね。こちらとしては願ったり叶ったりですが」


「望む展開になったとはいえ油断はなりませんよ、パルテア」



 八、九階層に引き上げて確実に潰します。

 わたくしの【竜人将パルテア】(★S)と【翼蛇竜アンピプテラ】(★S)で【忍耐の天使ウリエル】を確実に斃す。まずはそれのみを考えておきましょう。





 【竜翼の塔】は五竜王ドラゴニアの中でも飛竜系の魔物が多い塔として有名です。

 それは大ボスのアンピプテラに限らず、ワイバーン(B)やワイバーンロード(A)、ファイアドラコ(C)やエアロドラコ(C)などの属性小飛竜種、フェアリードラゴン(C)などの妖精種などなど。そういった類の魔物が豊富であると。


 その他に地上戦力としてエアロリザード(B)などの蜥蜴系やフューリードレイク(A)などの地竜系。蛇系などもおりますし、リザードマン(E)系で言えばリザードキング(A)まで全ての職種が召喚可能。

 偏りはありますが攻撃・防御・物理・魔法・地上・飛行と全てにおいて高水準と言えるでしょう。


 欲を言えば人型や小型の高ランクがもう少し欲しいだとか、回復役が足りないとかはありますがね。

 そのために【忍耐の塔】と戦ってウリエルの召喚権利を得たいと、そう思っています。



 さて画面で見る敵攻撃陣の様子ですが、今は一階層の『坑道迷路』を行軍中。

 下層はリザードマン系統と蛇たちが主力ですから屋内構成でも問題ありません。飛行戦力が出て来る中層からが本番ですね。


 本当は下層でいくらか削りたいところですが……飛んでいる天使系は無理ですし、前衛のゴーレム部隊がまさしく壁ですからね。

 後衛の土精霊ノームが狙い目なのですが脇道から奇襲をかけるくらいしか手がありません。

 まぁそれも<魔力感知>で気付かれる上、魔法を放たれればどうしようもないのですが。



「分岐は上手い事正解の順路を引いているようですが……しかし歩みが遅いですね」


「ええ、ゴーレムの進軍速度に合わせているのでしょうがあれでは天使の持ち腐れですわ」



 せっかく機動力がある飛行部隊を攻撃に組み込んでいるのにゴーレムのせいで非常に遅い。なんとも勿体なく感じてしまいます。

 せめてもう少し動ける壁役がいれば……いえ、いないわけはないですね。防御特化の【忍耐】であれば。

 ミスリルゴーレムとクリスタルゴーレムが壁役として優秀すぎるということでしょう。現在の【忍耐】にとっては。



 そんなことをパルテアと愚痴りつつ見ていたわけですが次第に訝し気な表情になっていきました。

 あまりにも正解の順路を引きすぎていると。

 迷路であるのに全く迷わないなどありえません。仮に事前に調べていたとしてもわたくしは毎晩修正しておりますから無駄ですし。



「ジュリエット様、一体これは……」


「…………可能性は三つですわね」



 一つ目は『ウリエルがそういったスキルを持っている』。

 固有魔物の大天使ですから何かしら特殊なスキルは持っていることでしょう。

 その中に、例えば最短経路が分かるようなものがあるのかもしれません。



 二つ目は『【忍耐】のドロシーがこちらの罠や魔物の配置から順路を推測して指示を出している』。

 敵が罠のスペシャリストというのは世間的にも評判です。侵入者の思考を読んだような罠の配置はあまりに凶悪だと聞きます。

 それをわたくしの塔に当てはめた場合、こちらの罠配置から順路を特定するような真似ができたとしても不思議ではありません。



 三つ目は『限定スキルで諜報されている』。

 【忍耐】が限定スキルを取得しているとは考えにくいですが【女帝】や【赤】ならば……いえ、本来ならば二年目で取得など考えられませんがBランクに上がったことを考慮すれば可能性はなくもない。

 それでこちらの塔の情報を覗いて、同盟相手の【忍耐】に伝える。【忍耐】からウリエルたちに伝えている、といった感じですか。


 しかし限定スキルを取得している可能性も低い上に、仮にそれだけTPを所持していても諜報型――それも塔主戦争バトル中ずっと覗いていられるようなもの――が都合よくリストに並ぶものでしょうか。


 そう考えると、一番可能性の高いのは二つ目……【忍耐】のドロシーに見抜かれているとなりますかね。


 思わずギリッと歯噛みします。

 わたくしが苦心して創っている塔が亜人ごときに見抜かれるなど屈辱以外の何物でもありません。



 ……いえ、冷静さを失ってはいけませんね。大きく息を吐きます。

 最早迷路は意味をなさないと割り切りましょう。屋外地形で削り、八・九階層で一気に叩くと。それに集中します。



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