347:プレオープンの途中経過です!



■ドナテア 43歳

■第484期 Bランク【色欲の塔】塔主



「ほら、見てみな、プリエルノーラ。新聞に例の店のインタビューが載ってるよ」


「どれどれ……ああ、店主じゃなくて【女帝】と【赤】じゃん。相変わらずやってんねえ!」


「店主は忙しくて取材どころじゃないだろうさ」



 今朝の新聞にはインタビュー記事が載っていた。

 内容は例のランゲロック商店に関することで、その取材相手は【女帝】と【赤】だ。

 まぁおそらく【赤】の差し金だね。機を見るに敏というか商人も真っ青の巧い宣伝だ。



 ランゲロック商店の移転に関してはわりと早い段階で【女帝】から手紙が来た。

 あたしがジータに伝えてくれとお願いしたから律儀にも教えてくれたのだろう。素直にありがたい。

 それもあって先手もとれたし、開店日から部下を並ばせて商品を手に入れられた。


 従来通りの美容品は別にランゲロック商店じゃなくても一応は手に入る。ギルド加盟の小売店でね。

 だがあたしのお目当ては女帝印とアデルスペシャル。あの店限定の品だ。

 購入数に上限があるのが厄介だけどね。数量限定で生産してるようだから仕方ない。



 しかしおかげで安定して入手することが出来るようになった。

 今じゃ髪はサラサラ肌もプルプルだ。娼館の娘たちにも羨ましがられたね。まぁあの娘たちのお土産に出来るほど手に入れられてはいないんで今は自慢しか出来ないが。


 あたしの情報じゃあ、バベリオの裕福層にはすでにあの店が周知されているようだ。

 ご婦人方の美への意識は計り知れないし、男にしたって妻や恋人が確実に喜ぶってことでプレゼント用に買っているらしい。

 女性の高ランク冒険者とかも買っているそうだね。戦闘ばかりの冒険者もバベルの外じゃただの女ってわけだ。


 あとは他国の商人か。内定式の前にオープンしたってのが上手かった。

 おかげで内定式に群がった人たちの目に留まったんだからね。

 内定式と新年祭は世界中から注目されるバベリオの一大イベントだ。そこに合わすことが出来たのは大きい。



 ところがだ、順調そのものに見えた出だしで訳の分からん貴族のババアが邪魔してきた。


 ったくエルタート貴族はろくなもんじゃないね。あたしも良いイメージが全くない。

 あたしお気に入りの店に手を出そうとは良い度胸だよ。メイドがやってなかったらあたしがヤってる所だ。


 とは言えメイドのおかげで一件落着。店のほうは守られた。

 ついでに「プレオープンでは【白光の塔】が狙い目」とか吹聴してったらしい。やるじゃないか。あたし好みの手だよ。


 結果として店は再び注目されることとなり、【女帝】人気も増すこととなった。

 街の中心部でそんな大騒ぎが起こったんじゃ無理もない。誰だって話したくなるもんだよ。あっと言う間に大ニュースさ。



 そこへ追撃とばかりに今朝の新聞が舞い込んだ。

 【白光】事件が起きて、そこからインタビューをし、記事を作る……相当な早さだよこれは。


 つまりそれだけ早く【女帝】と【赤】が取材を受けたってことだ。おそらくは【赤】のアデルが「早くにインタビューを受ける必要がある」と考えたからに違いない。


 店のことを考える以外にメリットなんてないんだからね。まぁ加えて塔の集客も見込めるっちゃ見込めるが……そこまで切羽詰まっちゃいないだろうし。


 それでまた人気が出てあたしの分が買えなくなっちまうと困るんだがね。なんとか増産してもらえないだろうか。



「まぁ店が盛り上がるのはいいことさ。潰れたり馬鹿貴族の手に渡るより全然いいしねー」


「全くだね。塔主連中の金も街に落ちるだろうし、バベリオも潤うだろうさ」


「んでプレオープンの様子はどうなのさ。その馬鹿貴族の塔は」


「んなもん聞かなくたって分かるだろう? 健気にも若者たちに金をばら撒いてるよ」


「ヒャヒャヒャ! そりゃそうか!」





■シャルロット 17歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



『――という感じじゃな。この調子ではあと何回殺されるか分からん。二週間というのは長すぎるのう』


『きちんと塔を創らないとこうなるのですか……私も教訓にしなければ』


『わ、私以上に酷い感じになりそうですね……それは何とも……』


『地獄やなぁ。あの場でエメリーさんが殺しといたほうがまだ楽やったろうに』


『冗談じゃないですわよ。そんなことしたらエメリーさんもシャルロットさんも消されてしまいますわ』



 新塔主のプレオープンが始まりました。

 内定式から一週間の準備期間を設け、そこから二週間がプレオープンですね。

 その最終日に502期前期の塔主総会があり、さらに一週間の準備期間を設けてからオープンとなります。


 新塔主にとって一月なんてあっという間ですからね。

 毎日が死と隣り合わせですし、そんな経験をしたことのある人なんていませんから、誰しもが厳しい毎日を送ることになります。

 ごく一部のお金持ちだけでしょう。余裕ぶっていられるのは。



 私たちは例によってフゥさんと妖精女王ターニアさんのファム観察を行っているわけですが、やはり502期の陣容を見て冒険者側も盛り上がっているようです。間違いなく昨年以上だと。


 95塔もありますし、名塔も多いですし、それに伴って依頼も多いだろうと思われます。


 高ランクの冒険者や塔主がFランク冒険者に依頼するわけですね。この塔を調べてくれと。

 あとはバベルジュエルを集めるよう依頼するケースもあると言います。高ランク冒険者から。



 シルビアさんの入っていた【氷槍群刃】というAランクパーティーも同じようにしてバベルジュエルを集めていたようです。

 AランクやSランクの塔に挑戦する際にはもはや必需品のようですね。

 持っているだけでとりあえずは死なないのですから、それは確保しておくべきものなのでしょう。


 逆を言えば、バベルジュエルも持たずに危険な塔に探索など行くものではないと、そういう常識があるようです。Aランク冒険者ともなると。


 バベルジュエルは超高品質の魔石でもありますから、冒険者でなくても需要はあるそうです。

 ですが依頼の量としては冒険者が多いのだとか。全てシルビアさん情報です。



 そういったわけで冒険者ギルドには依頼票が並び、Fランク冒険者はこぞって新塔主の塔へと挑むわけです。


 名声のため、お金のため、世界各国から集まった若者たちが挑んでは命を落としていくと。


 無窮の塔バベルは死の螺旋。世界のどこよりも命の価値が低い場所なのですよ。


 で、命を刈り取る役目である私たち塔主は、今もその様子を探っては情報共有しているわけです。

 何とも言えなくなりそうですが、こういう生き物なのですよ。バベルの塔主というのは。



 とはいえ【白光】のザマースィさんは許せませんけどね。

 あれがエルタートで裁けないのであれば、バベルで裁くしかありません。

 塔主が裁けないのなら、侵入者に裁かせるしかありません。そこに慈悲などないです。


 フゥさんの情報ではやはり【白光の塔】には侵入者が群がっているようです。

 おそらくバベルジュエルの依頼を受けた人たちか、単に稼ぎたいと思っている人たちでしょう。


 普通、ただの既出の塔にはここまで群がらないらしいのですがね。やはりエメリーさんの宣伝のおかげなのだと思います。



 塔の創りは、もう本当に典型的な『素人の塔』らしいですね。

 迷路と小部屋を何も弄らずにそのまま配置し、魔物と罠を適当にポンポンと置いた感じの。


 TP不足もあって魔物の数も極端に少ないようですし、これではエメリーさんが宣伝しなくても荒らされていただろうなという感じだそうです。もう呆れるしかありません。


 なんでも生活空間が超豪華らしいですからね。そこにTPを使ったのでしょう。

 それに関しては私は何も言えないのですが……私も相当使いましたので……。



『【風雷】はどうですの?』


『順調じゃな。客足もあるし、二階層の中盤で抑えておる。【審判】が手掛けたのは間違いあるまい』


『なら安心やな。でもそしたらティナちゃんは出番ないんとちゃうの?』


『今のところシフォンの傍で画面を見ているだけじゃな。今後はどうか分からぬが』


「ティナの性格からすれば戦いたくて仕方ないでしょうね。前線に出してくれとシフォン様に直訴するかもしれません」


「そんな方だったのですか、ティナさんって……」



 可愛らしい兎獣人の侍女さんって感じだったのですがね……話を聞くだけですと、ジータさん以上の戦闘狂みたいに聞こえます。

 でもそれくらいの戦闘意欲がなければ侍女内最強とは言われないのでしょうね。【剣聖】と呼ばれていたようですし。



『他に目立った塔はございます?』


『やはり【正義の塔】かのう。塔主は見るからに無能じゃが【大軍師】の手が入っておるから塔自体は立派じゃ。二十神秘アルカナということで人気も高い』


『な、なんかそう聞くと残念な感じですね……』



 とは言え502期トップの成績を収めてもおかしくはないのですよね。

 塔としての人気、塔主は大司教さん、困難な塔構成、そういったものが組み合わさっていますので。


 例え塔主の性格がどうであれ。……見るからに無能ってのもすごいですけどね。どういうことでしょう。



『あとはやはり【橙の塔】じゃな。十色彩カラーズじゃからただでも客は入るが、塔主には知恵も金もあると』


『高評価ですわね。さすがエドワルド前国王陛下ですわ』


『一国の主ともなるとやっぱ塔主としても有能なんやろな。なんとなく納得やで』



 バレーミア王国は西の魔法王国です。東の魔法王国がアデルさんのメルセドウ王国ですね。

 エドワルドさんは世界的にも名高い国を治めていた人ですからね。無能では務まらないと。

 フゥさんが「知恵も金も」と言うくらいですから相当強い塔なのでしょう。



『【毒の塔】はどうなのですか? もう一人の神定英雄サンクリオというのも気になるのですが』


『もちろん客足は多いんじゃが、どちらかと言えば見事な塔構成に目が行くのう。ドロシーに近いタイプの塔主かもしれぬ』


「うわぁ……神定英雄サンクリオ持ちのドロシーさんとか最悪じゃないですか」


『どういう意味やねん、それは!』



 いや、それだけ強敵だってことですよ。

 つまり罠とかそっち方面が上手いんですね。それも【毒】ですから分かりやすいですけど。

 そんな塔が神定英雄サンクリオ持ちとなると【赤の塔】とほぼ同格ってことになっちゃいますよ。アデルさんとジータさんのお二人みたいですし。



『現状、わしの見立てでは【橙】【毒】【正義】が一歩リード、【風雷】【竜牙】【恋人】が次点かのう。まぁまだ始まったばかりではあるが』


『六塔以外のどこかが台頭してもおかしくはありませんからね。侵入者もバラけるでしょうし、そうなるとまた変わりますわ』


『去年の【六花の塔】かて前半は出遅れとったしな』


『そうなのですか。やはり【浄炎】【月】【星】が人気だったということですね……』


『そ、それで1位になっちゃうからシルビアさんはすごいですよね。何が起こるか分かりませんよ』



 そうなのですよね。最初だけ勢いがある塔だってありますし、後半になぜか伸びる塔もあります。

 こればかりは終わってみないと分かりません。塔主総会を楽しみにしておきましょう。




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