66:戦いの前から策謀は巡らされているようです!
■ヴォルドック 26歳 狼獣人
■第490期 Bランク【風の塔】塔主
「まさか向こうから申請してくるとは思わなかったな」
こちらがどう仕掛けようかと策を練っているところに【赤の塔】から
まぁ向こうもやる気なのは分かっていたのだが、てっきり″受ける側″だと思っていたのだ。
焦りなのか自信なのかは分からん。どちらともとれる。
おまけにご丁寧にも条件の詳細まで詰めてきたらしい。
=====
・
【女帝】【忍耐】【輝翼】【赤】【世沸者】vs【風】【甲殻】【暁闇】。
・代表者の塔一つずつを出し合っての
・代表者の塔は各同盟Cランクの塔の中から相手側が選ぶことができる。
・その塔の六階層以上を戦場とする。
入口の転移魔法陣から六階に転移できるようにしなければならない。
・戦場となる塔に同盟の魔物を集めても良いとする。
但し自軍総計が千体を越えてはいけない。
・戦場となる塔の塔主討伐、または
報酬の振り分けは同盟内で自由に行う事ができる。
・戦場となる塔主の画面に映る光景を同盟者は見ることができる。
戦場となる塔に同盟塔主が集まって共に指揮することも可能。
但し
・
・神の立会により詳細が確定して以降、戦場となる塔は
但し同盟の魔物を配置する事は許可する。
=====
俺たちも同盟戦は一度しか経験していないが、さすがに条件が詳細かつ膨大だな。
面倒なことこの上ない。だから
こちらも準備していた以上、
向こうは「この条件ならば勝てる」と踏んでいるはずだしな。
注目すべきポイントはいくつかある。
『Cランクの塔を互いに指定か。【風の塔】が使えないってのは痛いな。俺の【甲殻の塔】かペルメの【暁闇の塔】のどっちかを向こうが選ぶと』
『そうなりゃ【甲殻】一択じゃねえか? 俺の塔は暗いからな。夜目が効く魔物なんて限られるぜ。ましてや
俺もそう思う。ヤツらの狙いは【甲殻の塔】だろうと。
俺の塔を避けたいからCランクと限定したのだろうが、神の立会の元で条件をすり合わせるとなれば「同ランクだから公平だ」と認められるだろう。巧い手だ。
そしてもしその条件を飲むのなら俺たちは【女帝の塔】か【赤の塔】を選択することになる。
構成の判明している【女帝】か、それより難易度が高いと噂の【赤】か。
『普通に考えるなら【女帝】だろう。六階層以上が戦場ならクソ長い四階層はスルーできるんだろ?』
『いや六階層以上もキツイぜ? 時間がかかる上に魔物が強い』
『【赤の塔】にしたところで同盟の魔物は配置できるのだから魔物の強さは関係ないだろう』
『九階層を見てみろよ。全部の中ボスを斃さないと進めない構造なんだぜ? スルーもできねえだろうが』
【女帝の塔】は四階層まで侵入者が入っている。ランクアップ前だが。そこまでは市井に情報が流れている。
だから六階層以上という条件をつけたのだろう。
【赤の塔】も三階層までしか情報が出回っていないし、どっちの塔にしてもこちらが塔の構成を知るすべもないと。
まぁ【女帝の塔】に関しては全ての階層を把握しているのだが、それに気付くはずもない。
ペルメの言うとおり【女帝の塔】は六階以上も厳しい。
六階層は明らかに探索を遅らせるのが狙いだし、七階層は迷路の上に魔物が強い。
八階層は単純に魔物が多すぎる。九階層は中ボス全討伐が鍵になっている。
こちらの攻め手にどれだけの戦力が必要なのかという話だ。
じゃあ【赤の塔】にすべきか、とも思うが情報が全くない上に「弱いはずがない」という確信もある。
『いっそのこと条件を変えさせて俺らが【忍耐】とか【輝翼】を選べるようにすりゃあいいんじゃねえか?』
『戦場となる塔のランクが違えば神から修正が入りかねんぞ。公平感のない条件など通るとは思えん』
『そこは攻略する階数に差をつけるとか? Dランクの塔は全七階層で、Cランクなら五階層だけ、みたいな』
ふむ……それも手だな。しかし
【赤】や【女帝】の五階分と【忍耐】【輝翼】の全七階であれば後者の方が誰だって楽に思うだろう。
それだけの差がすでにある。ランキングを見ても明らかだ。
「……ダメ元で打診してみるか。Cランク五階層、Dランク七階層でいいなら受けてやると」
『それで渋るようなら?』
「【女帝】を選ぶ。情報のない【赤】よりよほどマシだ」
『分かった。それでいこう』
■アデル・ロージット 17歳
■第500期 Cランク【赤の塔】塔主
「Cランクで五階層か、Dランクで七階層か選ばせろ、と。ふふふっ」
「まぁそれくらいの頭はあったってことじゃねえか?」
【風の塔】から申請の返信がありました。
返信が早いのは喜ばしいのですが、すぐさま受理とはいきませんわね。
条件を変更するならば受理してやるぞ、といった感じですか。
『それくらいの頭しかない、の間違いじゃろう。クククッ』
画面の先にはフッツィルさん。すでにフードは被っています。
同盟の他の御三方とは繋いでおりません。しばらくはわたくしとフッツィルさんのみで進めさせて頂きます。
しかしフッツィルさんから打診された時は驚きましたわね。
あの祝勝会の日、塔に帰ってすぐのことです。フッツィルさんから通信が入りました。
個人的に通信してくることなど初めてでしたし何事かと思いましたが、その内容は衝撃そのもの。
『シャルに何か仕掛けられた可能性がある』と。
【風の塔】は属性魔力の関係上、フッツィルさんでも情報を探るのは困難だと言います。相手の能力は分からない。
しかしあの時、バベルの一階でヴォルドックとシャルロットさんが握手した時、周りのファムが気付いたそうです。
何かしらの魔力反応があったと。シャルロットさんに魔力の残滓が残るような何かが。
魔法ではない、おそらくスキルである。それも想像できないような『限定スキル』であろうと。
攻撃を加えるようなものではない。であれば状態異常か、こちらの何かを探るようなスキルの可能性が高い。
バベルの中で塔主に攻撃を仕掛けるような真似はできませんからね。
そう予測したフッツィルさんはエメリーさんに忠告し、帰宅後にわたくしにも話がきたのです。
仕掛けたことに気付いたという事実をヴォルドックに知られるわけにはいかない。
だからわたくしとフッツィルさんだけで策を練る必要がありました。ドロシーさんに伝えても良かったとは思いますが、情報を知るのは最小限にしておくべきですわね。
どういったスキルなのか分からなかったので用心に用心を重ねたつもりですが、後日、フッツィルさんが【甲殻の塔】を探ったことで大体は分かりました。
【風の塔】は探れませんから同盟の【甲殻の塔】にファムを張らせ、通信会議の時を狙ったのだそうです。
そこから推測できたのは『シャルロットさんの視界と、おそらく耳も盗んでいる』と。
状態異常や操られるようなものではないというだけマシかもしれませんが、シャルロットさんの見聞きした情報は筒抜けということらしいのです。何とも許しがたいことですわね。
いずれにせよこれで
フッツィルさんがハイエルフであることや、同盟内の戦力についてもシャルロットさんが口にするわけにはいきません。
そこら辺はエメリーさんにお任せするしかありませんね。話を逸らしてもらうだとか……全てを秘匿することは無理でしょうが。
そういったこともあり、
時間を掛ければ掛けるほどに情報が流れてしまう。
それにシャルロットさんが覗き見されている状況は一刻も早く解除しませんと。汚らわしい。
わたくしとフッツィルさんは早急に策を練り、こちらから申請を行ったのです。
向こうは手に入れている情報を有効活用するはず。それは情報に縛られているも同じ。
「知っている」という″安全″に囚われ、未知を予測するといったような思考は鈍る。
ならばこちらは″安全″という餌を用意すればいい。″安全″を探すような条件をつければいい、というわけです。
『細々とした条文には触れず、結局気になったのは″Cランクの塔″という限定じゃったと』
「分かりやすく目立ちますからね。そこを″安全に″と考えれば【赤】と【女帝】は避けたいということでしょう」
「知っている【女帝】を″安全″だと思うようなバカならもっと楽だったんだがな」
それは贅沢が過ぎるというものでしょう。
腐ってもキャリア十年のBランクなのですから。大馬鹿では務まりません。
「んで? 結局向こうの提案は受けるのか?」
「受けますわよ。せっかくそう仕向けたんですもの。ですわよね、フッツィルさん」
『うむ。準備はとうにできておる。こっちはいつでも問題ないぞ』
Cランクの塔五階層とDランクの塔七階層の勝負を受けた場合、向こうが選ぶのは【輝翼の塔】一択です。
我々【
飛行戦力も抱えているようですしね。
向こうがどこをどう攻めるのか分かっていれば相応に防備を固めるのみ。
フッツィルさんの腕の見せ所ですわね。もちろんわたくしも手を貸しますが。
それであとの問題は――
『
「【白雷獣】ディンバー王ですわね。そこが一番の難所ですわ」
「出来れば俺がやりたいんだが?」
どうでしょうね。生前活躍した年代が違うとはいえ、ジータに負けず劣らず、ディンバー王も獣人界の英雄ですからね。
わたくしとしてはエメリーさんを当てたほうが″安全″だと思いますが。
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