126:女帝の塔の最前線、更新です!



■モッダ 25歳

■Cランク冒険者 パーティー【百火霊爛】所属



 例の五連戦から【女帝の塔】はさらに人気が高まった。今日も一階層などは大混雑だ。


 俺たちは二月ほど前から入り始めて最前線を張り続けている。この塔だけで言えばベテラン扱いされる部類だと思う。



 【女帝の塔】は他のCランクに比べて魔物のランクがやや低い。

 しかしおそらくクイーンの影響からか統率がとれていて、見た目以上に手強いという印象だ。


 罠の配置も厭らしく、話に聞く【忍耐の塔】と似たような創りになっているのだと思う。

 まあ、同盟を結んでいるのだから当然と言えば当然なのだが。



 俺たちも最初は苦戦した。魔物は弱いのに思っている以上に進めない。やけにダメージをくらうと。


 特に三階層以降だな。ここから罠の難易度が増す。

 また三階層はラミアがいるのも厄介だ。火魔法一辺倒というわけにもいかない。


 元々俺たちのパーティーは盾戦士の俺と、軽戦士、斥候、魔法使いが二人という計五人。『守備に重きを置いて魔法で攻める』という構成だ。だからこそ三階層もなんとか突破できた。



 しかし四階層からはさらに罠の難易度が半端ではない。

 魔物はアラクネや蜂なので火魔法で十分だが罠の多さはどうにもしようがなかった。


 そこで俺たちは斥候をさらに一人加えた。

 パーティーメンバーと死に別れして途方に暮れていた女だ。顔見知りだったしランクも同じだしということでメンバーに加えた。

 盾役タンク、軽戦士、斥候二人、魔法使い二人という尖った構成になったわけだ。


 これが思いの外当たった。罠は時間をかければ問題ないし、魔物とも戦いやすくなった。

 安全性が増したのだろう。メンバーも「これならいける」と口をそろえた。



 そして今日、俺たちは念願の四階層突破を成し遂げた。

 中ボスにアラクネクイーンでも出てきたらどうしようかと考えていたが杞憂に終わった。四階層は最後まで罠だったと。


 五階層への階段を上る。浮かれていたメンバーも気を引き締め直した。



 階段を上れば往復魔法陣が見えた。これで俺たちは明日から五階スタートだ。もうあの四階層に行かなくて済むと安堵した。


 そして見える景色は――



「屋外地形かよ」

「お城の中庭って感じかしらね、右側は。左は森だけど」

「明らかに右に行けって感じよね。モッダ、どうする?」

「情報を持ち帰るのが最優先だ。どちらも調べるだけ調べよう」



 とりあえず右の庭園に行ってみる。草で創られた塀は微妙に俺の身長より高い。見晴らしがいいとは言えない。


 そうした塀が大部屋を構成するような仕切りになっていて、部屋の中は花壇があったり植樹してあったりと、まさに庭園そのままといった印象だ。



 魔物の存在もすぐに確認できた。花と少女が一体となった見た目の魔物――つまりアルラウネだ。

 蔓や根を伸ばして攻撃もしてくるが、どちらかと言えば状態異常攻撃が怖い。


 毒はアラクネ対策で薬を用意しているが、麻痺は後衛が一本ずつしか持っていない。

 それに麻痺をくらうとポーチから薬瓶を出して飲むというのが困難なのだ。誰かに飲ませてもらうしかないだろう。


 もし後衛が麻痺になったら……というか明らかに群れで襲わせる配置をしているし。蜂も飛んでいるし。



「進むのなら薬の用意と陣形の見直しが必須だな」

「今日はあきらめるか」



 俺たちは一度引き返し、左側の森へ行ってみた。

 森と言っても範囲も限られているし、鬱蒼とした森という感じではない。

 近付いて見ればある程度は奥まで覗けるわけで――



「!? シッ! シッ!」



 前に出ていた斥候が急いで下がれと身振り手振りで伝えて来る。

 階段の所まで下がって聞いてみれば



「ユニコーンがいる。しかも何体か」

「はぁ? え、いきなりユニコーン!? ボスじゃなくて!?」

「ここまでDランクばかりだったのに、なんでいきなりBランク……?」

「なるほど、【女帝】が本気を出していたってことか……」



 今までの階層が楽だったとは言わない。しかし質が高いとは決して言えないものだったと思う。

 塔主戦争バトルであれだけ高ランクの塔を斃しているのに、それに見合った魔物のランクではないと。


 だから「【女帝】はすでに何体もクイーンを抱えている」「上層にいるのは確実だ」「他にも高ランクの魔物がいるに違いない」そんな噂を山ほど聞いたし、俺たちもそうだと思っていた。


 その結果がこれだ。五階層からいきなりBランク。しかも滅多に見ないのに名は知られているユニコーンだ。

 俺たちは改めて【女帝の塔】の恐ろしさを知った気がした。



 ギルドに戻り報告を行った。もちろん大喝采だ。

 五階層一番乗りは【百火霊爛】だと周りの皆が騒いだ。悪い気はしない。

 報酬は後日、どこかのパーティーが到達し検証を行った上で渡されるという。


 とにもかくにも今日は祝い酒だ。パーティーメンバーとたらふく飲もう。

 おそらく他の連中から酒を驕ってもらったり、色々聞かれたりと忙しくなるだろうな。


 そこで俺たちは語るのだ――【女帝の塔】の恐ろしさをな。





■シャルロット 16歳

■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主



「「「「おおー」」」」パチパチパチ



 ついに侵入者の方が五階層に到達しました。おめでたい。


 斥候二人、魔法使い二人の六人体制とかなり珍しい布陣でしたが、このパーティーは安定していましたしずっと最前線でしたからね。

 最初に四階層を抜けるならこのパーティーかなぁと思っていました。


 しかし安全性を求める性格が災いしたのか、それとも幸いだったのか、すぐに帰っちゃいましたね。


 あのままアルラウネと戦ってくれれば足元のキラースプラウトに奇襲をくらってましたし、無視して突っ切っても奥にはビークイーンがいました。


 そこら辺を体験してから退散、というのが理想だったのですが……次回を期待しましょう。



「ユニコーンもばれちゃいましたね」


「これで近づかなくなるでしょう。あの子たちは静かなままにしてあげた方がいいのですよ」


「分からないわよぉ? Bランクだからって余計にムキになって挑んでくるかも」


「そしたら返り討ちでしょー。森の中でユニコーン三体なんてBランクパーティーでも厳しそうだしー」



 神聖魔法を使えるというのが厄介でしょうね。相手からすれば。

 まぁ普通なら戦わないと思います。

 あの人たちも明日から五階層スタートになりますがおそらく庭園にしか行かないでしょうし。性格的に。



「シャルロット様、六階層まで行くのはすぐだというお話でしたが階層や魔物配置はいじらないでいいのですか?」


「すぐにいじるつもりはありません。どうせなら八階層あたりまで進んで欲しいとさえ思っています」


「私は九階層まで来て欲しいのですがねぇ」


「あたしもー。でも八階層は無理でしょー。何パーティーか一緒じゃないと」



 仮にいじるとするならやはりこの二体のどちらか、もしくは両方を召喚でしょうね。


=====

□ウィッチクイーン/A/18,000TP

□ナイトメアクイーン★/S/64,000TP

=====


 眷属化は無理ですが一応召喚しておいて、配下を統率してもらいつつ数を増やすという感じが一番いいと思っています。


 珍しくTPが余っている状況なので召喚してしまってもいいのですが、そこまで緊急を要していない。

 であるならばもう少し我慢して【限定スキル】に手を出すのもありかなと思っています。


=====

□女帝招集令/250,000TP:指定した眷属を塔主の元に集める

□帝政統治 /370,000TP:指定したエリアのTPを加算することでTP収入を増やす

□女帝の号令/600,000TP:自陣営全てに対して命令を下す(攻勢、守勢、撤退、etc)

=====


 【傲慢】対策を考えるならば<女帝の号令>なのですがいかんせん六十万は高すぎる。

 なので<女帝招集令>か<帝政統治>を狙っています。



「やっぱり<帝政統治>ですかね。TP収入増加はありがたいですし。どんな感じに増えるのかは分かりませんが」


「この先もずっとTP不足に悩まされるのでしょうしね」


「安全性を考えれば<女帝招集令>なのですがそこはエメリーさんとクイーンの皆さんを信頼します」


「お任せ下さい」



 やる気になっているようで何より。

 これで訓練にも身が入り、また塔主戦争バトルで戦わせろという話になったらそれはそれでちょっと困るのですが……まぁその時はその時ですね。


 では一先ず<帝政統治>をとる方向で考えます。


 すっご~~く無理をすれば――お金をTPに変えるなどして何とか――今でも取得できるのですが、せめてもう少し余裕をもってからにしたいです。

 そこを目標にしばらくは頑張りましょう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る