125:どうやら裏に塔主の影があるみたいです!
■シャルロット 16歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
あの後、適当な衛兵さんを捕まえて話しておきました。
ジャーマン商会がヤクザまがいの方法で金貸しや、店の立ち退きを迫ったりしていると。誇張も含みます。
私と契約しているランゲロック商店もその被害にあっていると。
ここぞとばかりに【女帝】の力を使わせてもらいました。
名が知られていて民衆受けがいいそうですからね。こういう時に活かさねば。
そうして私たちは早々とバベルに戻ったのです。
ターニアさん、そして同盟の皆さんと繋げての報告会です。皆さん営業中にすみません。
「ランゲロック商店はまだ大丈夫そうですねぇ~。ジャーマン商会は何やら慌ただしそうですけどぉ」
「慌ただしいとは?」
「偉そうな人があのチンピラたちに叱ってましたわぁ。【女帝】に目をつけられるなって~」
「おお、わりとまともな反応ですね」
「あとはファルタム様に伝えなければ~って」
ファルタム? ……パッとは出てこないですけど。
『ファルタム・ズーロ。Eランク【煙水の塔】の塔主。497期じゃから四年目じゃのう』
「四年目でEランク、ですか?」
こう言ってはなんですけど、その力量でよく大店を取り込みヤクザまがいのことさせますね。
いやまぁ四年目Eランク自体は沢山いるとは思いますけど。
『【霧雨の塔】の同盟ですわよ』
「ああ、なるほど。さらに上がいたわけですか」
【霧雨の塔】はBランクでも上位。ランキングだと24位だったはずです。確か塔主はザリィドさんという男性。
アデルさん曰く、その同盟は
B【霧雨の塔】ザリィドさん
D【偶像の塔】ナップロンさん
D【北風の塔】コルトムさん
E【泥沼の塔】ベックリーニさん
E【煙水の塔】ファルタム・ズーロさん
F【死滅の塔】リープ・モイスさん ということらしいです。
「六塔同盟とかすごく多いですね。しかもランクが……」
『一強って感じやな。寄せ集め感ハンパないで』
『え、これでどうして同盟組めてるんです? ザリィドさんにメリットが……』
ですよね。私もそう思います。
私たちのように仲の良いお友達というのはまずないでしょうし、そうなるとただザリィドさんの足を引っ張るだけのような気がします。
『ターニア様に例の店を張って頂いているのでわしは塔主の方に張っておるが、どうやらこの同盟は上納金制度らしいのう』
『名前を貸すから金を出せと、そういうことですの?』
『ザリィドの集金システムちゅうことかい』
『はぁ~~そんな同盟があるんですねぇ……恐ろしい』
つまりファルタムさんはザリィドさんに払うお金を稼ぐ目的でジャーマン商会を利用していると。
ジャーマン商会側は背後にファルタムさんと、さらに上にザリィドさんという高ランク塔主がいることで強気なヤクザ行為に出られると。
なるほど。それなら少しは分かります。
「これ仮にジャーマン商会からの資金供給が止まったらどうなります?」
『それでファルタムが上納金を用意できなければザリィドが同盟破棄して終わりですわね』
『ザリィドにとっては大した痛手ではないのう』
『そんでまた別のカモを見つけるんやろ?』
『お、お金を払ってでも高ランクの庇護下に入りたいって人は絶対いると思います……』
ですよね。ランゲロック商店を守ることを考えれば、ジャーマン商会を叩くか【煙水の塔】を叩くかなんですが、それが大本の【霧雨の塔】に対して何の効果もない。
まぁ仮に【霧雨の塔】を叩けてもランゲロック商店を守ることには繋がらないので意味はないのかもしれません。
やはり中間のジャーマン商会と【煙水の塔】を何とかしないと。
「ただこれ【煙水の塔】を叩くのも無理ですよね」
『でしょうね。普通に
『ど、どちらも負けが見えてますもんねぇ……』
『仮にどうにかして【煙水】に申請を通しても【霧雨】は斬り捨てるじゃろうな』
うーん、悩ましい。とりあえず【煙水の塔】に申請することで圧力にはなるかもしれません。
しかしそれでジャーマン商会が大人しくなるのかと言われると……まぁランゲロック商会だけは大丈夫かな、という所です。
どうしたものかと頭を悩ませているとターニアさんが「シャルロット様~」と声をかけてきました。
「えっと~裏帳簿がどうとかでなんか慌ててまして~、会長室の金庫に……あ、えっと暗証番号は41264126で~」
「あぁ……」という溜息交じりの声が画面から四つ聞こえます。
分かりました。ターニアさんありがとうございます。それとエメリーさん。
「お任せください。今夜にでも行って参ります」
「お願いします。アデルさん、こういうのって衛兵さんですか?」
『それで大丈夫でしょう。万全を期すならば衛兵本部でしょうが……まぁエメリーさんならどこの誰か一目瞭然ですし』
……しかし尻尾を出すの早すぎません?
もうちょっとこうなんやかんや面倒なことをしなければならないかと思っていたのですが。
『ジャーマン商会とやらがそれほど【女帝】を畏れたということじゃな』
『そら部下が乗り込んだ店にシャルちゃんとエメリーさんおったとか聞いたらビビるやろ』
『そ、それにしてもすごい慌てような気がしますが……』
『まぁジャーマン商会にとってもどちらが上かはっきりしていたということでしょう。【霧雨】同盟と我々とでは』
そうなんですか……いやぁ思っていた以上に【女帝】の世間認知が広まっているということですかね。
しかもやたら強いとか、逆らうと怖いとか、何か変な方向に行っている気がしますけど……。
まぁ上手く事が運べるうちは気にしたら負けですかね。
『とは言え【霧雨】同盟は要注意やで? バベリオの経済に干渉し出す塔主がいるとは思わんかったし』
『や、やっぱりまだ続くんですかね? 元を断たないと』
『街で罪を犯す塔主がいるとは聞いたがのう。街民を使って問題を起こすとなるとは』
『商業を脅かされては街の経済が危うくなりますものね。金稼ぎなど普通に商売するかTPで稼げばいいものを』
それこそ【強欲】のゲーロス商会のように商人さんが塔主になるケースはあるわけで、もしかしたらバベリオでお店を持っている塔主の方はいるかもしれません。
ただ今回のように『塔主が犯罪者として裁けない』犯罪行為を促していたような場合は対処が難しくなります。
もしかすると【煙水】のファルタムさんは別の商会に手を出すかもしれませんし、そうなるとトカゲの尻尾きりを続けるはめになります。
まぁ【煙水の塔】をどうにかしても【霧雨の塔】にとってはトカゲの尻尾なので困った話なのですが。
『念の為、【煙水】に
「ですかね。分かりました」
『フゥ、万が一申請が通っても問題ないやろ?』
『ないのう。すでに手の内は割れておる』
『さ、さすがですね……』
味方ながら恐ろしいですねぇ。では私は【煙水の塔】に
◆
その日の夜、エメリーさんは一人で出かけました。透明外套を着て。
ターニアさんに覗き見してもらいつつ眷属伝達も使いつつだったのですが、特に問題もなく。
……いえ、ジャーマン商会に警備の闇組織みたいな人たちがいましたが、どうやら全員気絶させたようです。
殺さなかったのは偉い。と褒めるべきでしょうか。
ともかく裏帳簿なるものを手に入れて見れば、そこにはファルタムさんにいくら払ったとか、商業ギルドの誰それに払ったとか、とんでもない利率で金貸しをしていたとか、色々と出てきたようで。
それを衛兵さんに手渡ししておしまい。あとはお任せです。
翌日、さっそく衛兵さんたちは動いて下さったようでした。
ジャーマン商会へと衛兵団が立ち入ったとターニアさんが教えてくれました。
そして後日、塔の営業時間外を見計らってランゲロックさんとソフィアさんがバベルを訪れました。
職員さんからの連絡があり、エメリーさんと共に『会談の間』での面会となります。
どうやら初めてバベルの中に入ったらしくお二人とも緊張しているようでした。
「話はお聞きしました。ジャーマン商会の件は本当にありがとうございました」
「伝わっていたのですね。どうもあの商会は裏金で色々やっているようだったので衛兵さんが早く動いてくれましたね。あれから特に問題は起きていないですか?」
「ええ、おかげさまで。それで今日は試作をお持ちしたので是非見て頂きたいと」
机に出されたいくつかの瓶をエメリーさんがチェックします。
かなーり真剣ですね。なかなか見ませんよこんな目付きは。マモン戦くらいですよ。
「これはこれでいいですが、次回以降はこちらのオイルを小さじ一杯分足しましょうか。多少の濃度が欲しいです」
「分かりました。やってみます」
「ではそれでまずは全て五本ずつ注文いたします。……で、よろしいですかお嬢様」
私には全く分からないのでそれでいいです。
エメリーさん基準でお願いします。
「それとこちらの商品なのですが、その、売り出しても良いのでしょうか。もちろん契約の上、売上の何割かをお納めするという形で――」
……どうやら商売を始めることになりそうです。
……これはセーフですよね? 【煙水の塔】みたいな感じじゃないからセーフですよね?
その後、ランゲロック商店はバベリオ中のご婦人方に注目される店となり、謎の【女帝ブランド】が流行するのですが、それはまた別のお話なのです。
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