11:初めてのバトルには色々な思いがつまっているようです
■ラスター・ニーベルゲン 19歳
■第500期 【正義の塔】塔主
「くそっ! 俺がEランクで【女帝】がDランクだと!? ふざけるな! あんなメイドしかいないメスガキに負けるわけないだろうが! そうだろ、デュオ!?」
「ガウ」
総会が終わってからずっと俺の苛立ちは収まらない。
百歩譲って【赤の塔】がDランクというのは理解できる。英雄ジータがいるからな。
その優位性は新塔主100人……いや、下手すると古参の塔主より上かもしれない。
だがしかし、あの小娘に負けるなんてありえない。
元々同じ
それがいきなりランクで上にいかれると……こんなもの恥以外の何物でもないだろう。
俺はニーベルゲン帝国第三皇子。
あんな小娘と比べられる事自体が間違っている。
塔主となって最初の
相手がヤツというのは最高だ。新塔主で最初に消えるのが【女帝】となる。
そして俺は500期最初の勝者。しかも
――カラァン――カラァン――
『二人とも準備はいいかなー?』
「おお!」『はい』
『じゃあ始めようか! 制限時間は鐘一つ分(三時間)だよ!
気の抜けるような神の声で戦いは始まった。
ヤツは
ふんっ! 何も手出しできない自分の塔からせいぜい眺めているがいい。
案の定と言うか、転移門から入って来たのは四本腕のメイド、ただ一人。
昨日の今日で攻める為の魔物でも召喚しているかと思ったが……その様子もない。
まさか本当にメイド一人で攻めさせるのか? 馬鹿にしやがって!
俺の塔へと侵入したメイドはぐるりと見回す。四本の腕にそれぞれ武器を持って。
四本の真っ黒なハルバード――何の金属かは分からないがかなりの業物に見える。刃が大きくてまるで″鎌″だ。
それぞれの中心には赤・青・緑・黄の四色の魔石らしきものも見えた。飾りの宝石代わりだろうか。
いずれにせよ四本腕でそれぞれ武器を持つというのは向けられる側からすると相当厄介に思える。
Fランクの侵入者どもが軒並み殺されたのも納得だ。
一度に四連撃するようなヤツはこの世にいないだろうしな。対応できるとすれば高ランクだろう。
メイドはゆっくりとした足取りで歩き始めた。
【正義の塔】一階層は迷路だ。俺が苦心して創り上げた難関迷路。
魔物の奇襲や罠はもちろん、複雑に入り組んだ道は混乱を助長させる。
こっちは鐘一つ分、守りきれば勝ち。メイドは迷路に迷って二階にすら来られない可能性もある。
と、そんな風に思っていると、メイドは徐々に速度を上げ始めた。
やはり時間が気になったのか、早歩き、いや小走りのような探索にそぐわない速度だ。
そんな調子で走れば魔物の奇襲をもろに受けるし、罠にも簡単に嵌るだろう。
急いだ結果、余計に時間を使う事になる。俺は内心ほくそ笑んだ。
「チュウ!」「チュウ!」「チュウ!」
先制は曲がり角から飛び出したスラッシュラット。
【正義の塔】で召喚できる魔物や罠にはかなり偏りがある。
俺の考えでは『剣』『刃』『炎』『聖』といった要素が必要なのだと。
一般的なゴブリン、コボルト、オークなどといった魔物は端から使えない。やはり『害悪』のイメージが強いからだろう。
だから弱めの魔物となるとスラッシュラットの他、一階層の迷路ではソードマンティスやウィスプなどを配置している。
強い魔物ならば聖属性だとか、それこそ『天使系』などもいるが……残念ながらそこまでTPに金はつぎ込めない。
今はまだ我慢の時。強さよりも数だ。いずれランクが上がれば……。
そう思っていると、スラッシュラットはいつの間にか殺されていたらしい。
メイドがハルバードを振ったのもよく見えなかったが、どうやら走ったまま前方に斬り飛ばして、さらに走ったままドロップした魔石を拾ったようだ。
なんと器用な真似を……しかしそんな事を続けられるわけがない。たまたまだろう。
「……ん? あいつ、なんで順路ばかり選んでいるんだ? 全く脇道に逸れないではないか! まさかどこかから情報を得たとでも!? くそっ!」
■エメリー ??歳
■【女帝の塔】塔主シャルロットの
懐かしいですね。こうして石造りの迷路を走っているとついそう思ってしまいます。
元いた世界では『塔』というものではなく、地下に潜るような『迷宮』というものがありました。
わたくしはご主人様や侍女仲間と共に『迷宮組合員』として活動していたのです。
迷宮にもこうして石造りの迷路のようなものがありまして、まるで遠い過去の記憶が甦って来るような気持ちになります。
いけませんね。まずはここを攻略しなければなりません。
とりあえず今回は調査も兼ねていますから、この迷路がどのように創られているのか確認しながらの探索となります。
最初に迷路の壁を斬りつけてみましたが崩れないし傷さえつかない。
つまりは『迷宮壁』と同じように破壊不可という事でしょう。
どれだけ固い石材でもわたくしの【魔竜斧槍】であれば傷くらいつくでしょうし。
さて、慣らす意味でも昔の迷宮探索よろしく少し走るくらいのペースで行ってみましょう。ソロ探索ですから無理はしませんが。
おっと、ネズミの魔物ですね。毛並みと爪が鋭い。これはこの世界特有の魔物でしょう。
とりあえず斬ってみますが……普通のネズミと変わらないですね。魔石はドロップするようなので拾っておきます。
迷路という事でいくつも曲がり角があるわけですが……こちらですね。
<気配察知>で魔物の位置も分かりますし、<罠察知>でどこに罠があるかも分かります。
絶対に順路に来るなよ、とばかりに魔物や罠を配置されれば馬鹿でも正しい順路が分かります。
やはり総会で見たとおり、【正義】の方は頭が弱い。
お嬢様の方が数倍かしこいでしょう。つくづくお嬢様に召喚されて良かったと思えます。
その後も走りつつ、ネズミやらカマキリやらを斃して進みます。
もうそろそろ二階層への階段かと思っていたら、ここで新顔の魔物――ウィスプですか。
これは元の世界でも居ましたが物理が効かないのですよね。普通の前衛には厄介な魔物です。
――仕方ありません。
■ラスター・ニーベルゲン 19歳
■第500期 【正義の塔】塔主
順路を走り続け、気が付けばもう二階層への階段手前だ。
しかしここにはウィスプを何体か配置している。
ウィスプはゴーストなどと同じく魔法でなければ倒せない。
あのメイドは物理攻撃しか手はないはずだ。ならばウィスプは絶対に負けな――
『<
――ゴオオオオオ!!!
「…………は?」
え? な、なんで魔法が使える? 杖など持っていないではないか!
あのハルバードか!? ハルバードを横薙ぎに振るうと同時に詠唱していた! それであれほど強力な魔法を!?
し、しかし魔法を放てる武器など……
まさか
馬鹿な! そんなデタラメな
「くそっ! ……考えても仕方ない。あれほどの魔法、撃てて一発だろう。それを消費できたと思えば安いものだ」
予想より断然早く二階層に上げてしまった。
とは言え、ここから先はプレオープンの二週間でも誰も通り抜ける事は叶わなかった場所だ。
二階層は『連続小部屋』だが、そこいらの塔のものとは一味違う難易度にしてある。
扉から入って、部屋を抜け、また扉に入って、と階層いっぱい使って繰り返すのが『連続小部屋』だ。
しかし俺の場合『連続中部屋』といった規模に大きくしてある。その分部屋数は少なくなるが問題ない。
部屋に入れば大量の魔物がお出迎えなのだ。
ゴブリンを楽に倒せるCランク冒険者も数十の群れに囲まれれば死ぬ。Aランクだって傷を負うだろう。
数は暴力なのだ。弱い魔物を最大限活かそうと思ったら群れで同時に襲わせるのが一番いい。
今はまだ強い魔物を召喚できる余裕などないが、弱い魔物の数をそろえるくらいは出来る。
ましてやメイドは単騎。
盾役もおらず背中を預ける仲間もいない。それでこの『魔物だらけの連続中部屋』を抜ける事など――
「…………えっ」
■エメリー ??歳
■【女帝の塔】塔主シャルロットの
懐かしいですね。
わたくしがよく通っていた『迷宮』にもこうした『魔物部屋』がありました。
一般的には罠扱いされ忌避される場所ではありますが、わたくし達の場合、訳あってその部屋を利用するのを日常としていました。
まさか『塔』で人為的に『魔物部屋』を創るとは……少し評価を上げましょう。上げたところで無駄ですが。
部屋の中には一階層にもいたネズミやカマキリの他、ハチなども居ますね。奥には二体ほど剣を構えたリザードマンも見えます。
やはり『迷宮』の『魔物部屋』ほど雑多な魔物というわけではないですが仕方ないかもしれません。
感慨にふけるのもほどほどに、さっさと殲滅いたしましょう。
と言っても二〇体ばかり。演武のようにハルバードを振るい、斬っていけばあっという間に終わってしまいます。
むしろ部屋中に散らばる魔石の回収に時間がかかる。こんな所にも懐かしさを覚えます。
さて、一つ目の部屋は終わりですね。
奥の扉を開ければ――ほほう、また『魔物部屋』ですか。
もしや二階層はずっと『魔物部屋』の連続?
なかなか良い趣味の階層ですね。評価を少し上げましょう。上げたところでやっぱり無駄ですが。
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