10:初めてのバトルに挑みます



■シャルロット 15歳

■第500期 【女帝の塔】塔主



「はぁ~~~~、終わったぁ……」


「お疲れさまですお嬢様。今、お茶をお出しします」



 やっと塔主総会が終わりました。宝珠オーブから手を離すと同時にドッと疲れが押し寄せます。


 人前で――画面前ではありますが――【女帝】っぽくするのは大変です。

 毎日エメリーさんから淑女教育を受けておいて良かった。少しは立派に見えたでしょうか。


 リビングに移動し、エメリーさんとお茶を飲みながら一息ついて振り返ります。



「エメリーさん、大丈夫だったですかね?」


「ええ、凛として淑女らしい振る舞いだったかと思います。ご立派でした」


「良かった……表情に出そうで怖かったです」


「わたくしは後ろから見ていて、かなり気を張っているのが分かりましたが、あの画面越しでしたら問題ないかと。これを自然に出来るようになるまでは日々精進です」


「はい……」



 淑女、女帝になるまでの道のりは厳しい……。


 でもエメリーさんが付いていてくれて本当に感謝です。心の支えです。

 戦いから家事から私の教育まで、全部お任せしちゃっているので心苦しいですが。



「しかしDランクとは少し意外でしたね」


「ですね。私も良くてEランクだと思ってました」


「TP取得二位、撃破率一位でしたか。それほど撃破率が高いとは思いませんでした」



 やっぱり注目されて侵入者が多かったというのもあると思います。

 そして一階層、二階層と何も障害がないですから途中で侵入者が引き返すという事もない。


 立ちふさがるのはエメリーさんただ一人。

 そこさえ抜けられればと、無理矢理斃そうとする人もいれば、複数パーティーで抑え込もうとする人、他の人が戦っている最中に走り抜けようとする人など。

 エメリーさんはそのことごとくを斃しました。素直に逃げ帰る人は放っておきましたが。


 で、結果が撃破率一位だと。見ていた私には納得です。


 しかし全く塔の構成をいじっていないので、塔主としてちゃんと管理していたのかと言われると首を傾げます。

 それでDランクというのは、エメリーさんが強すぎだと見られたのか、神様の印象がなぜか良かったのか……。



 ともかくこれでオープン前の仕事が増えたのは間違いありません。

 Dランクとなれば一階層の大きさも、直径700m、天井の高さ7mまで広がります。


 そして三階層だったのが七階層まで増えます。

 何もない状態から一週間で、その構成を考え、創らなければなりません。


 ……いえ、その前に明日塔主戦争バトルがあるのですね。

 今はそちらを考えないといけません。そこで負ければ私の命は終わりなのですから。



「でも、″最悪″を想定していて正解でした。おかげで冷静さを保てましたから」


「そうですね。あらかじめ決めておいて良かったです。十分に想定の範囲内と言えるでしょう」



 初めての塔主総会で何が起こるか、エメリーさんと事前に色々とお話しました。

 ″同盟″と″塔主戦争バトル″の話は出ると思っていたので宝珠オーブで予習をしておきました。

 そして新塔主の評価のような話が出てもおかしくないと。


 【女帝の塔】の評価が高いとは思いませんでしたが、目立っている・注目されているという自覚はあります。

 二十神秘アルカナですし、神定英雄サンクリオも引き当てましたし……。



 それに密偵のように普通のFランク侵入者に混じっていた強者の存在。

 おそらく情報を探る為に送り込まれているのだろうと、これはエメリーさんも同意見でした。


 それが侵入者側の密偵か、はたまた塔主側の密偵か。どちらも可能性はあります。

 仮に塔主側だった場合、私を味方にしたいのか、敵と見なしているか、そこでもまた分かれます。



 そして″最悪″を想定するならば、『敵となる塔主と総会で対立する』というのも考えられました。


 一番の″最悪″は『高ランクの塔主に塔主戦争バトルを挑まれる』という場合です。

 相手が熟練の塔主ともなれば塔の創りも立派でしょうし、魔物も強い、罠も的確、経験もある……と、さすがにエメリーさんでも勝ち目は薄い。

 その場合は勝負を回避するか、最悪でも日にちを伸ばす方向で考えていました。


 逆にF~Dランク、最高でもCランクくらいであれば勝負を受けてくれ、とエメリーさんは言います。

 なぜかと聞けば、他の『塔』の創り方を勉強できる、実際に体験できるからと。


 これから先、私が立派な【女帝】として塔を創る上で、他の塔を調べるというのは必要なこと。

 伝手もお金もない私は情報戦で圧倒的に負けている。

 だから塔主戦争バトルを挑まれたら極力受けるべきだと言いました。



 もちろん私は不安ですし怖いです。しかしエメリーさんは「絶対に負けないのでお任せください」と。

 強いのは重々承知しているのですが、それでも大事なエメリーさんを戦わせてばかりなのは辛いのです。


 悩んだ末、結局私は【女帝】としてエメリーさんを信頼するしかないと。腹をくくったわけです。



 塔主戦争バトルの形態は攻塔戦アディケイト。それも攻撃側一択です。

 私の塔は未構成で障害もなにもないですし、相手側の塔の様子を探るのが目的なので。


 それにエメリーさんの戦い方を他の塔主の方々に見られたくないので、神様から『観戦禁止』の言質もとれました。

 これでエメリーさんは存分に戦えます。何も心配いりません……と自分に言い聞かせています。



「相手は【正義の塔】ですか。お嬢様は何かご存じですか?」


「えっと、私の【女帝】と同じく二十神秘アルカナの一塔と呼ばれているものです。【正義】というのが抽象的すぎてどんな魔物が出そうとかは分からないんですけど……あ、宝珠オーブの名簿には神賜ギフト神造従魔アニマだったと書いてありました」


神造従魔アニマ……確か普通の魔物に比べて強化されているのですよね?」



 ステータスの強化や固有スキルの取得など、普通の従魔以上の強さを持っていると聞きます。


 ラスターさんという方がどのような神造従魔アニマを持っているのかは分かりません。

 神賜ギフトを受け取る場面は見ているはずですが私の前の98人全てを覚えているわけもないので……多分、蛇か虎か鳥か、だとは思うのですが……。

 でも二十神秘アルカナですし、Eランクに上がった事も踏まえれば、やっぱり強力な魔物ではないのでしょうか。



「ふむ……せめて下位竜くらいの強さであってくれれば良いのですが……」


「えっ」



 竜!? 今、竜って言いました!? 下位竜ってなんです!?





 翌日、昼からの塔主戦争バトルに向けて、朝から気合いを入れて玉座に座りました。

 まずは宝珠オーブで情報をチェックして……と思ったら。



「な、なんですかこれ……」



 そこには大量の『同盟申請』が。

 私はすかさずエメリーさんを呼びました。



「ふむ、十七件ですか。これはまた大人気ですね、お嬢様」


「いや、私、今日の塔主戦争バトルで負けたら死んじゃうんですよ!? なのに同盟申請っておかしくないですか!?」


「お嬢様が負ける事はないのでご安心を」


「エメリーさんが負けないのは知っています! でも他の人はエメリーさんの事なんか知らないですし……」


「おそらく皆さん、お嬢様の勝ちを確信していらっしゃるのでしょう。と言うより、総会での【正義】の方の様子を見て『これは【正義】が勝つ』と思う方はいらっしゃらないかと」



 確かに【正義】のラスターさんは喧嘩腰だったり神様に食って掛かったりと、あまり良くない印象でした。

 実際私がDランクであちらがEランクと評価されたので、こちらが勝つと予想するのも分かるのですが……。


 だからと言って昨日の今日で、もう同盟申請しますか?



「十七件のうち、十五件は同期の方ですね。おそらく一刻も早く庇護下に入りたいのでしょう」


「ああ、なるほど。プレオープンで斃されてしまった方ですかね」


「そういう方が救いを求めて、同期の有力者であるお嬢様に群がるというのも分かります。【赤の塔】の方も同じような状況かもしれません」



 私としては見殺しにしたくない気持ちがあります。いくら塔主同士が基本的にライバル関係にあるとは言え。


 しかし同盟を結んで手助けすると言っても、召喚した魔物を交換とかできませんし、TPも『貸す』はできても『あげる』はできません。


 昨日の総会のように画面をつないで話すことはできますが、私にアドバイスできるほどの知識もありません。

 同盟戦ストルグで共に戦うという事ならばできますが……。



「二件は共にAランクの方ですね。こちらはお嬢様を囲っておきたいのでしょう。考えるまでもなく却下ですね」


「あ、はい」



 エメリーさん的には問答無用で申請却下だそうです。

 私としては高ランクの人の強い同盟に誘われて少し嬉しい気持ちもあったのですが。

 やはり【女帝】はそう簡単に靡くものではないと、そういう事でしょうか。


 いずれにせよ同盟の件は後回しです。

 今は塔主戦争バトルの事を第一に考えないといけませんし、全てはそれに勝ってからです。


 同盟をどうするか。塔の構成も考えたいですし、魔物も召喚したいですし。


 ……やる事いっぱいですね。


 ってやっぱり塔主戦争バトルの後の事を考えてしまいます。いけないいけない。集中しないと。



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