09:初めての塔主総会です
■アデル・ロージット 17歳
■第500期 【赤の塔】塔主
時間になりましたので
視界いっぱいに広がる画面は普段のそれとは違います。なかなかの迫力。
画面は細かく分割され、その一つ一つに塔主の方々のお顔が映されました。塔の名前と塔主の名前も表記されています。
なるほど、わたくしも今同じように見られているのでしょう。
つまりはわたくしの背後で画面を見ているジータも他の塔主に見られると。
……まぁ問題ないですわね。元々有名人ですし、わたくしの元に居るとすでに知れ渡っているでしょう。
475人。うち100人が同期。
中にはわたくしと同じように
戦力を隠すという意味ではそれが正しいのでしょうね。
『さあ始めようか! 500期最初の塔主総会だよ!』
一際大きい画面に映し出された少年がそう切り出します。
頭を下げる先輩塔主の方々が多数。なるほどこの御方が……。
『改めて自己紹介しておこうかな。僕がバベルの神。新塔主のみんなも気軽に「神様ー!」って呼んでね!』
やはり。想像していたより随分と若くフランクな神様ですわね。
神々しさはありますけれど気品はない。遊び心いっぱいの少年のような輝きです。
『さて、プレオープンが終わったわけだけど新塔主のみんなはお疲れさま! こうしてみんなの顔を眺めると疲れたって言うか、死んだような顔って言うか、実際に何度も死んだ子もいるみたいだけどね……』
100人のうち半数以上がそんな顔ですわね。どれだけバベルジュエルを失ったのでしょうか。
まぁプレオープンという事で塔主の懐に痛手はないようですが、実際に死ぬほどの攻撃を受けたのでしょうから、そっちの痛手は大変なものでしょう。
一度でも『死』を味わえば心が折れてもおかしくない。
しかし侵入者は次から次へとやってくる。
守りたくても守る設備も魔物もおらず、プレオープン期間は塔の改装もできない。
死の螺旋から逃れる事はできないのです。プレオープン……なんとも残酷なイベントですわね。
これでちゃんとオープンを迎えられる新塔主が何人いるのでしょうか。
塔主は自分で
あっという間に侵入者に攻略されて、一月後には100人のうちどれほど残っていることやら。
『まあ、一週間後にはオープンだからさ、誰かに協力を求めたり、仲間をつくったり、教えを乞うとか……あっ、そうだ! プレオープンが終わったから【同盟】も解禁だからね! あとで
同盟――メリットはありますが悩みどころですわね。
先輩塔主の中にはメルセドウ王国の者もおりますから、同盟を結ばずとも協力体制にはあります。
同盟相手とは
入れば安全かもしれませんが、わたくしがいずれ斃したい相手だったとすると同盟に入らない方が良いでしょう。
『あと待ちに待った
侵入者がいる状態では行えないという事でしょう。
『新塔主のみんなに言っておくのはこれくらいかな。うーん、何かあったら
それとランクアップの発表だよ! えっと新塔主のみんなの為に言っておくと、これはTPの取得数とか、侵入者の撃破率とか、塔の戦力状況とか、僕の印象とか全部ひっくるめて決めているよ! で、まずAランクになったのが――』
上位の方々から順に発表されるようですわね。呼ばれた方の画面を見ると、どなたも嬉しそうなお顔です。
ランクが上がれば階層も増えますし、一階層当たりの大きさも広く高くなります。
その分、取得TPも増えますし、塔の構成を考える余地が与えられると。
わたくしもさっさとFランクなど卒業して【赤の塔】を成長させたいものですわ。
さて、今回のプレオープンで評価に繋がったのかどうか……。
『続いて新塔主のみんなだね! FからEに上がったのが七人! Dに上がったのが二人いるよ! すごいね!』
『おお』
『まずはEランクの七人ね! 【忍耐の塔】のドロシーちゃん! 【輝翼の塔】のフッツィルちゃん! 【正義の塔】のラスターくん! 【鬼面の塔】のゾルくん! 【毒針の塔】のベナンちゃん! 【水艶の塔】のフローラちゃん! 【墳墓の塔】のガデスくん! 以上!』
……ん? という事はつまり?
『最後にDランクに上がった二人ね! 新塔主なのにDランクとかなかなかないから期待しちゃうよ! まずは【赤の塔】のアデルちゃん!』
よし、と心の中で握り拳です。表情は「当然ですわね」と余裕を見せておきます。羽扇をヒラヒラと。
背後でジータも笑いながら「ははっ! まぁ当然か」と言っています。
ジータの過去の経験というのは塔を創る上で本当に大きかったです。あとで感謝しておきましょう。
『それと【女帝の塔】のシャルロットちゃん! 以上!』
……は? 【女帝の塔】……ですか。
ですので情報は得ているのですが……ちょっと意外ですわね。
と、意外に思っているのはわたくしだけではないようで。
『ちょ! ちょっと待ってくれ、神よ!』
『ん? ラスターくんかな? なんだい?』
『【女帝】は塔の構成すらまともに出来ていないと聞く! それなのに俺より上のDランクなんておかしいだろう!』
ニーベルゲン帝国の第三皇子ですわね。あまり評判が良い人物ではありません。まぁそれを言ったら帝国自体、評判は良くないのですけれど。
元より他人の下になるのが嫌いなタイプ。
そこへ来て同じ
しかも塔の構成を全く行わず、
……だからと言って神に異を唱えるのも間違いだと思いますがね。
『んー? おかしくないよ? 取得TPは【赤の塔】に次ぐ二位だし、侵入者の撃破率なんか一位だし、僕の評価とか抜きにしたって単純な数字で【正義の塔】を上回っているんだからさ』
……神の笑顔が輝いていますね。これは煽っているのですね?
わたくしにはそれがいたずらっ子の表情に見えますわ。
『うそだっ! 俺の塔が劣るはずがないっ! 【女帝】なんか
と、わめく皇子も子供みたいですわ。あれで19歳でしたっけ? 帝国も終わっていますわね。
一方でどこぞの街娘であろう【女帝】シャルロット嬢は……ふむ、動揺も見せず冷静・厳格といった面構え。お見事。
これではどちらが皇族か分かりませんわね。
【女帝】の後ろにメイドが立っているので余計にそう見えますわ。
『うーん、弱ったなー、不当じゃないんだけどなー、納得させるにはなー』
なんとわざとらしい棒読みでしょう。明らかに楽しんでいますわね、神様。いい性格していますわ。
『あっ、そうだー! じゃあオープン前だけど特別に、二人でバトっちゃうってのはどうかな! うん、それがいい! 新塔主同士の
せっかくランクアップさせた新塔主同士を戦わせて数を減らすと?
そんな勿体ない事……いえ、これも神の遊びという事ですか。
まぁライバルが減るのはわたくしにとってプラス……ですかね。
『直接戦えばはっきりするでしょ! どうかな、ラスターくん! それともまだバトるのは怖いかな!』
『っ! 怖いわけないだろう! 望む所だ! 俺が本物の
お顔が引きつってますわよ? 第三皇子様。
『うんうんいいね! シャルロットちゃんはどうかな!』
『…………条件があります』
【女帝】は表情を変えずにそう切り出しました。
大したものですわ。本当にただの街娘であれば泣いて嫌がりそうな所、あくまで冷静を貫いています。
『なにかな?』
『まず確認ですが、これは通常の
『そりゃもちろん
『他の塔主の方々が見る、という事もないですね?』
『二人ともまだ同盟組んでないからね! 見るのは僕くらいかな!』
これは聞いておいて正解ですわね。【女帝】もよく頭が回るものです。
オープン前の新塔主の
つまり、お互いの存在を賭けて戦おうと。
さらには情報の漏えいを恐れた。
いずれ塔の情報はバレるものですが、それでも隠せるものなら隠したい。そう思わせるものを持っているという事です。
……やはりあのメイドですかね。
『では条件として
それは勝負をふっかけられた者としてどうなんでしょう……。
①
二つの塔の入口(転移門)が繋がり、互いの戦力が行き来して攻め合います。
早く最上階の
②
同盟同士、複数の塔同士の戦いです。この場合、勝負条件はその時の取り決めによって変わります。
例えば同盟代表者の塔に戦力を集めてから
③
これも
攻撃側は相手の塔に乗り込み
守備側は一定時間の死守か、攻め込んで来た相手戦力の殲滅を狙う。
なぜかと言えば、攻撃側からすると戦場が『相手の塔』となるから。罠も魔物も配備されているわけです。
相手に有利な戦場で、その全てを退け、時間内に
わざわざそれを望むメリットは……。
『はんっ! そりゃ貴様の塔はすっからかんだからな! 防衛などろくに出来まい! いいだろう! 俺の塔で迎え撃ってやる!』
『うん、じゃあいいね! それでいこう! 準備はそんなに必要ないだろうし時間は明日の三の鐘からにしようかな!』
『構わん!』
『ええ、分かりました』
『よーし、じゃあ二人とも明日はよろしくね!』
やれやれ、最初の塔主総会からとんだ事になりましたわね。
とりあえずDランクになれましたし、わたくしは塔を強化いたしましょう。
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