08:プレオープンをなんとか乗り切れました
■オルテリッヒ 28歳
■Aランク冒険者 パーティー【一心一天】所属
「さすがに100人もの新塔主となると集まる情報も膨大だな」
「金は掛かったが、まあ若手への駄賃と考えられる範疇だろう」
「何組か失敗したけどな。全く、無理そうなら引き返せってんだよ」
「無理を通すのは若者の特権だ」
「通した結果が情報不足ってか? たまったもんじゃねえよ」
俺はいきつけの酒場の個室でパーティーメンバーと集まっている。
プレオープン期間が終わり、依頼していた何組かが持ち帰った情報を精査する為だ。
ざっと見ていくと、やはり新塔主らしいありきたりな塔が多い。
塔主になったからといって思考回路は『一般人』のそれだ。熟練の挑戦者からすれば『素人が創った塔』と見られる。
大抵が『迷路』か『連続小部屋』。それも初期設定そのままに順路も変えずに構築しているだけ。
お決まりのように曲がり角の先にゴブリンを一匹置き、罠があっても通路の中央にポツンとある感じ。
塔主として塔を創る事に慣れていないのは分かるが、もう少し考えろよ、と敵側なのに思ってしまう。
まあ、そういった雑多な新塔主はオープン直後に潰されるだろう。
プレオープンで情報を得て、オープンしてからは早い者勝ちだからな。
消される前にこちらが攻め込み消しておく必要がある。
中にはちゃんと『塔』としての特色を出したものもあったようだ。下手なりに考えられていると思えるものもチラホラ。
100人も居ればそういった『塔主としての才』を持つ者が居て当然。
むしろそういった塔の情報を俺たちは欲している。
際立っているのはやはり【赤の塔】だな。
第一階層は【紅葉樹の森】。新塔主のくせにいきなり屋外構成にしやがった。
おまけに出てくる魔物にレッドキャップが居る。これも通常のFランクからすれば強敵どころの騒ぎじゃない。
第一階層からすでにDランクくらいの印象を受ける。
雇った傭兵は第一階層で無理と判断し引き返したらしいが、無茶をして攻め込んだ他のFランクから情報を得たらしい。
一階層の奥にボス部屋はなく、そのまま二階層に上がれる。
その二階層は【レッドクリスタルの水晶洞穴】らしい。レッドリザードマンが現れるとか。
英雄ジータが二階層の奥に居るのか三階層に居るのかは分からない。少なくとも俺たちの得た情報では戦ったヤツは居ないようだ。
無理もない。新塔主のプレオープンにしては鬼畜すぎる。
気になるのは明らかにTPを多く使っているだろうという点だ。
塔の構成にしても魔物の質・数にしても、他の塔に比べて使用TPが多いのは間違いない。
アデル・ロージットは公爵家の人間だからそこから金を引っ張って来ているのか。
はたまた魔法も剣技も得意な『メルセドウの神童』だから、自身の魔力をTPに変えたのか。
英雄ジータの魔力を使ったという線もあるが……たしかジータは近接一辺倒だったはずだ。魔力はそれほどないだろう。
いずれにせよ【赤の塔】がランクアップするのは間違いないし、遠くない将来、Aランクにまで上がれば俺たちが挑戦する事もありうる。
それを斃せればこちらが英雄だ。挑戦する価値はある。
と、そんな【赤の塔】は別格として、他にも気になる塔がある。
まず気にしていた【正義の塔】。ニーベルゲン帝国第三皇子の塔だな。
こちらも金を使って魔物や罠を配置していたようだが、塔の構成自体は素人の域を出ない。
せっかく
一方で
ある意味、【赤の塔】以上に探索しづらい塔に発展するかもしれん。
初出の【輝翼の塔】も
塔主の知恵が回るのか、
少ない手駒を上手く使った印象。一階層の情報しか得られていないほどだ。
それ以外にも有能そうな新塔主がチラホラ。
大多数が素人感丸出しだから余計にそう思うのかもしれないが、例年以上に優秀な新塔主が多いのは確かだろう。
中には全く意味の分からない塔もあるのだが……。
「【女帝の塔】はこれ……どうすんだ?」
「判断のしようもない。分かっているのは『
「塔の構成が皆無とか未だかつてないだろ。どんな素人だって魔物の召喚くらいするぜ?」
「TPの無駄遣いか? もしかして塔主用のスキルに使ったとか……」
依頼していた傭兵団の一つ、五人のうち三人は瞬殺で首を刎ねられたらしい。
逃げ帰って来た二人は怯えきっていて「死神だ! 死神メイドだ!」と騒ぐ始末。
どうやら四本の剣で殺されたらしいが、その動きさえも見えなかったようだ。気付けば殺されていたと。
他の伝手を使って探ってもみたが、どれも同じような内容だ。
しかしメイドが四本の腕で何種類もの武器を巧みに操り
逆に言えば『メイドが強い』と、それしか情報がないわけだが。エメリーという名前を調べても何も出て来ない。
とは言えいくら強くても
魔物も罠も置かず、塔の構成すらせず。
プレオープンだから塔主は殺されても死なないが、死ぬほどの痛みは味わうんだぞ?
分からん。全く理解できん。ある意味今期の【女帝】は厄介な存在だ。
「ま、オープンしてから改めて探るしかあるまい」
「だな。果たしてどこまで上って来るのか興味はあるよ」
■シャルロット 15歳
■第500期 【女帝の塔】塔主
プレオープンの二週間が終わりました。心労でヘトヘトでしたが、エメリーさんのおかげで何とかなりました。
座っている事しか出来ませんでしたけどね。
プレオープン中は塔の構成変更とか出来ませんでしたし。
侵入者は初日が一番多かったですが断続的に来ていたと思います。
やっぱり私が
斃した侵入者は二週間で315人。
得たTPは自然増加や魔力の補充も含めて68,000ほどです。予想よりも多い。
エメリーさん曰く、Fランクの侵入者に混じってDランクほどの力量の人も結構いたそうです。
そういった人から得るTPは多いのでしょう。
で、このTPをもって一週間後のオープンに向けた準備をしなければいけません。
さすがに塔の構成を何もしないというわけにもいきませんし、魔物も召喚しなければ。
「その前に今夜の『塔主総会』を終わらせないといけないのでは?」
「ですね。その準備が先ですか」
今夜はバベルの塔主が一同に会しての『塔主総会』があります。
おそらくこれから本格的にオープンを迎える新塔主のお披露目のようなものだと思います。
そしてそこでは主催である『神』から色々とお言葉を頂ける、と。
私はそこに【女帝】として臨まなければなりません。
【女帝の塔】の新塔主ですよと立派に振る舞う必要があります。
それはエメリーさんの願いでもありますが、私自身の意思でもあります。死んだ両親に顔向けできるように。
「あと、これはお願いなんですが……」
「なんでしょう」
「私も……戦えるようになりたいんです」
この二週間。エメリーさんにだけ戦わせて私は座っているだけというのが歯痒かった。
もちろんエメリーさんの強さは信頼していますし、私があんな風に戦えるだなんて思いません。
でも守られているだけでいいのか。【女帝】としてそれでいいのかと考えてしまいます。
エメリーさんは少し考えたあと「では淑女教育と並行して戦闘訓練も行いましょう」と言ってくれました。
反対されるかも、と少し危惧していたのです。
と言うのも、私は戦闘に関して全く取り柄がなくてですね……。
=====
名前:シャルロット
職業:【女帝の塔】塔主
LV:1
筋力:F
魔力:E-
体力:F
敏捷:F-
器用:F+
スキル:付与魔法
固有スキル:統率
=====
【女帝の塔】の塔主になってから<統率>という固有スキルを得ましたが、他は全くダメダメです。
魔法にしても<付与魔法>しか使えません。
世間的には攻撃魔法や回復魔法が重要視され、地味で効果の分かりにくい<付与魔法>は言わば『ハズレ』扱いなのです。
しかしエメリーさんはこう言います。
「この世界の<付与魔法>の評価は分かりませんが、わたくしからすれば非常に有能な魔法属性に違いありません」
「そうでしょうか……」
「わたくしは物理攻撃が主ですが、攻撃魔法に関しては専用の武器を持っています。回復に関してもポーチにポーション関係が大量に入っていますので急ぎで必要という事はありません」
え……攻撃魔法専用の武器ってなんですか?
ポーションが大量ってなんですか? そのマジックバッグ、武器が大量に入ってるんですよね? ポーションも大量なんですか?
「しかし<付与魔法>……
エメリーさんから必要と言ってもらう。それは名ばかりの『主』である私からすればとても嬉しい事でした。
よし! そうと決まれば私も杖を買うか、TPで調達して……。
「念のため持っていて良かったです。仲間の侍女が造ったものですが宜しければどうぞお使い下さい。【黒曜賢王の杖】と申しまして――」
なんで杖なんか持ってるんですか!? エメリーさん<生活魔法>しか使えないですよね!?
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