159:さっそくあちこちで噂になってます!
■オルテリッヒ 29歳
■Aランク冒険者 パーティー【一心一天】所属
「はあ? 【傲慢】が落ちただと?」
「相手は……やっぱり【女帝】かよ。はぁ」
「おいおい、Cランクの塔で斃せる相手じゃねえぞ。ふざけんな」
「俺は賭けに勝ったから万々歳だ」
今の時期はギルドにFランクの連中が溢れている。各地からやって来る新塔主狙いの新人どもだ。
俺らはそいつらに依頼を出し、プレオープンからバベルジュエルを集めさせ、オープンしてからはバベルジュエルと共に有力な塔の情報を集めている。まぁ毎年のことだ。
今年は去年に比べりゃ大したことはない。
集まるジュエルも少ないし、調べる塔も少しだけ。
【六花】【浄炎】【星】【月】このあたりだな。見込みがありそうなのは。
中でも【六花】は俺らと同じAランクパーティーの【氷槍群刃】シルビアが塔主となったことで話題を集めた。
ヤツはギルドの中でも指折りの魔法剣士。もちろん俺たちもよく知っている。
そいつがどんな塔を創るのか注目していた。期待半分だったが。
しかし蓋を開ければプレオープン1位。ダリア要する【浄炎】を抑えてのトップ。
これにはさすがに驚いたな。いくら冒険者の経験があってもそれが強い塔主になるとは限らねえ。
実際同じように冒険者としての実績を持つ新塔主は今までにもそこそこいるし、それが強い塔を創ることなど稀なのだ。
ところがシルビアはどうやら上手い事やっているらしい。
情報も集めたがなかなかどうしてまともな塔を創っている。
俺らは毎年新塔主の塔を調べているから【六花の塔】が優れているというのは見聞きするだけで分かる。
出来れば【六花】には早く上にあがってもらいてえところだが……まぁ相当先の話だな。
ともかく今は新塔主の塔を狙う者と調べる者とでギルドは大いに賑わっているのだ。
そんな中に突如として一報が入った。
――【
【女帝】に関するあれこれは色々と噂されていた。
年始に【強欲】を斃し、その後の新聞記事で書かれた内容から「次は【傲慢】を狙うんじゃないか」って具合にな。
余興好きな連中は賭けを始め、どうやら俺のメンバーもその恩恵を受けたらしい。
しかし狙うと言って斃せるもんじゃねえ。あの【傲慢の塔】はな。
俺たちだって何度も挑んでいるから分かる。
あの塔は創りこそ『城』を意識しすぎているから簡単なんだが、配置されている魔物がエグすぎる。
数と質で殺しにくるからな。今までどれだけあの塔で死んだかも分からねえ。
それをいくら話題の【女帝】一派だとは言えまさか斃すなんてな……ちょっと信じられねえよ。
しばらくはこの話題でギルドは盛り上がるに違いねえ。
【女帝】一派の塔に挑むヤツも増えるはずだ。
……今一度調べさせるかな。こいつらいつAランクに上がってもおかしくねえし。
■セリオ・ヒッツベル 23歳
■第499期 Cランク【審判の塔】塔主
――ピロン
『神様通信
本日行われた
【傲慢の塔】【死屍の塔】【雨林の塔】【砂塵の塔】【猫髭の塔】が消えました! 以上お知らせでした! 神様より』
「なっ……! 本当にやったのか!」
突然の一報に思わず玉座から立ち上がった。
【女帝】と【傲慢】の確執というのはある程度分かっていたものだ。
新年祭での様子、そしてバベル新聞の記事、そこから読み取れるものは確かにある。
とは言え相手が悪すぎる。Cランクの【強欲】も格上に思えたが【傲慢】など格上どころの騒ぎではない。
同じ同盟の【死屍】が相手とて厳しいはずなのだ。CとBの差は大きく、そしてBとAの差はさらに大きい。
一体なにをどうすれば勝てるというのか……僕にはさっぱり分からない。
「……ミリアはどう見る?」
「メイドが戦力の中心には違いないと思いますが……さすがにそれだけでは【傲慢】は斃せませんね。【強欲】を斃したのですから大悪魔は斃せるということでしょう。しかし他の戦力を考えるとメイドだけでは厳しいものがあります」
だろうね。と言うか僕からすれば大悪魔を斃せるメイドという時点で意味不明なのだが。
「そこに英雄ジータと【輝翼】の
「そうだね。【傲慢】だけでもAランク相応の戦力だ。Sランクやら固有魔物やらどれだけいるかも想像つかない」
「考えられるのは【忍耐】が大天使を眷属化した場合ですが……ダメですね。それでも足りません」
【女帝】側も思っているだろうが当然【傲慢】側も承知しているはず。
つまり大天使は切り札と成り得ない。
じゃあ勝因はどこにある……? ……分からん。
僕のような凡愚には想像もつかないな。
やれやれ、せっかく新塔主たちが入って来たのに今年も話題の中心は【女帝】たちか。
なんとも羨ましくない人気者だな。
■レイチェル・サンデボン 70歳
■第450期 Sランク【世界の塔】塔主
「セラ、勝ったそうですよ」
「良かった! そうですか、あぁ、それは本当に良かったです」
「うふふ、随分と心配していたようですね」
「それはそうですよ。今までの相手とは強さの桁が違いますし」
そうですね。まぁ心配していたのは私も同じですけれどね。
とりあえずは一安心。
前々から【傲慢の塔】と戦うというのは聞いていましたから多少の情報提供はしました。
しかしそれだけで勝てるほど甘い相手ではない。
おそらく策略を練り、連携を深め、それでもギリギリの戦いになったことでしょう。
いくらエメリーさんがいても楽に勝てたということはないはずです。
Aランク以上の塔というのは、それ以下の塔と比べて″地力″が違います。
塔の構成を堅牢にし、配置する魔物の数と質を揃え、それで尚且つ限定スキルを得られるほどのTPがすでにある。それがAランク。
それを打ち破るには同等の戦力か、それを上回る策が必要であり、そこで上回ったとしても最終的には敵の限定スキルとの『運勝負』になります。
いくら警戒していてもどうにもならないスキルだってあるわけですからね。
そうした諸々を潜り抜けねば勝利は掴み取れない。
だからAランクの塔は滅多に
まあ【傲慢】もそう思っていたからこそ仕掛けたのでしょうけれどね。
ともかく祝辞のお手紙を書きましょう。また詳細も教えてもらいましょうか。
ああ、せっかくならばお茶に誘うのもいいですね。
……いえ、その前にちゃんと確認しておくべきですか。
……何かが間違ってエメリーさんが亡くなったりしていなければ良いのですが……。
■ドナテア 42歳
■第484期 Bランク【色欲の塔】塔主
「おいおいおい、プリエルノーラ! 【女帝】が【傲慢】をヤったようだよ!」
「まーじか! ひゃひゃひゃ! こりゃ大騒ぎだね! 面白くなってきた!」
ったく呑気なもんだね、この魔女は。
しかし噂は本当だったってわけだ。【女帝】は【傲慢】を狙ってると。
まぁ全く現実味のない噂だったけどね。誰だって【女帝】が【傲慢】を斃せるなんて思っちゃいないさ。
思ってるのは能天気なバベリオの民くらいなもんだろう。少なくとも塔主じゃいないだろうね。
ところが残念なことに現実味のない噂は現実に起こっちまったわけだ。
何がどうなればそれが可能になるのかあたしにはさっぱり分からないよ。
ただ一つ幸運なことがあるとすれば――
「あの時ダンスパーティーを断っておいて正解だねえ! ひゃひゃひゃ!」
それだね。【強欲】を【傲慢】の予行練習と見ていたならば、その直前にこっちに来ていた申請もその可能性が高い。
まずあたしの【色欲の塔】が狙われ、それがダメだったから【強欲の塔】にした。
Aランクの【傲慢の塔】が本命ならばBランクの【色欲】だろうがCランクの【強欲】だろうが構わないと。そういうこった。
はぁ、こりゃお断りしておいて正解だ。
あたしは今後も関わらないよ。絶対に
……まさか
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