53:赤の塔はやっぱり抜きん出てるみたいです!
■サリード 21歳
■Dランク冒険者 パーティー【旋風六花】所属
Dランク冒険者というと、普通の街で言えば『中堅』を指す。俺たちはDランクでも上位なのでベテラン扱いされることもあるだろう。
それが王都の冒険者ギルドとなると、「まだまだ未熟だな」という印象に変わる。中堅扱いされるのはCランクからだ。
なにせ王都レベルになれば高ランクの冒険者が沢山いるわけで。そう見られるのも仕方ないとも思う。
では【無窮都市バベリオ】ならばどうか。
答えは「やっと初心者を卒業できたくらいか」てなもんだ。
上位だろうがDランクには変わりなく、挑める塔はCとDランクだけ。そこに上位も下位もない。
世界中から集まる高ランク冒険者がゴロゴロいるし、他の街では見たこともないAランクやSランクまでいる。
雲の上……いや憧れを抱くのも烏滸がましいほどの強者たち。
それに比べればDランクなんてFランク初心者と大差ないのだろう。
とは言え俺たちも上を目指すのには変わりなく、バベルに挑むからには名高き塔を制覇し名を刻みたいと。そう思うのはランクに関係なく誰もが思っているはずだ。
一歩ずつ前へ。上へ。
今は成長を重ねるしかない。
さて、そんなわけで挑める塔に挑んでいるわけだが、ここで一つ問題だ。
今あるDランクの塔の中で一番難しいのはどこか。
俺たちは【赤の塔】だと思っている。
一番人気があるのは【女帝の塔】だろうが、難しい、強い、難易度が高いとなると【赤の塔】だろうと。賛否両論あるだろうけどな。
そこいらのCランクの塔より難しいと感じるのは【女帝の塔】も同じなのだが、それでも尚、【赤の塔】の方が厳しいと感じてしまう。
理由はいくつかある。
が、大きく違う点は、【赤の塔】が『魔物で殺しに来ている』ということだ。
【女帝の塔】の場合、一階層の魔物は弱く、なるべく塔に引き込んで、徐々に魔物が強くなるという印象。罠も【赤の塔】より多いが『殺しに来ている』という罠は少ない。
それこそEランクの【忍耐の塔】の方が罠だけで見ればよほど極悪だ。まぁ俺たちはランクの都合上挑めない塔なのだが。
ところが【赤の塔】の場合、まず一階層からして『紅葉樹の森』という探索しづらい階層で、そこの主力はレッドキャップなのだ。
ゴブリンという魔物は最弱の呼び声も高いが、一方で多様性がありすぎることでも有名。
普通のゴブリンでも上位種にはゴブリンアーチャーやゴブリンリーダーなどがいるし、魔法を使えるゴブリンメイジなどもいる。その最上位がゴブリンキングだ。
別の上位派生としてホブゴブリンというのがいる。普通の成人男性と体格が同じかそれ以上のゴブリンだ。
ホブゴブリンの中でもリーダー格のヤツがいたりと、これまた多様性に富んでいる。普通のホブゴブリンだってオークより強いだろう。
で、さらに別の上位派生がレッドキャップだ。赤い帽子をかぶり軽装でナイフが主武器。
非常に頭が良いのがゴブリンらしからぬ点で、ゴブリンを雑兵だとするとレッドキャップは遊撃部隊という感じだ。
素早く機敏で『隊』を意識した動きをする。非常に厄介極まりないゴブリンだ。
そんなレッドキャップが見通しの悪い真っ赤な森で襲ってくるのだ。それが【赤の塔】一階の恐ろしさ。【女帝の塔】の一階とは難易度がまるで違う。
しかし階層が森となっている以上、ルートは無限にあるわけで、運が良ければそれほど接敵せずに進むことはできる。
一階層を抜けられた。じゃあ二階はどうかと言えばこれまた難易度が高い。
【赤の塔】の二階層は『レッドクリスタルの洞窟』だ。
洞窟型の迷路というのはよくあるが、それが全面、透明感のある『赤』で覆われているのだ。
これが思っていた以上に探索しづらく、罠を見つけにくいし、出てくる魔物も『赤』なので目の錯覚を起こしやすい。発見が遅れたりする。
その魔物も主力はレッドリザードマン。それも基本的に複数だ。
リザードマンは槍や剣で近接物理攻撃をしてくる魔物だが、レッドリザードマンの場合、それ以外に火のブレスを吐いたりもする。
防御力自体は通常のリザードマン以下らしいが単純に攻撃がつらい。
それが狭い洞窟で群れているとなると、つらいどころの話ではない。
それでも一応、水魔法という弱点が明確である以上、攻略できないことはない。
物理を防ぎつつ、火耐性を上げ、水魔法を使うと。これを念頭に置いておけば【赤の塔】の一階層、二階層は攻略できる。
問題は三階層だ。ここを突破したヤツが未だにいないという難関。
巷では『赤岩石砂漠』と言われている。
足元は赤砂、
赤岩で出来た渓谷の中を歩く感じと言えばいいだろうか。屋外地形だと言うのにルートがある程度決められている。
出てくる魔物はレッドスコーピオン。砂漠特有の魔物だ。
防御も高く、毒持ちで、おまけに地面から奇襲までしてくる。
しかしそこまでならまだ良かったのだ。レッドスコーピオンも水魔法に弱いから今までの戦闘スタイルを貫ける。
だが崖の上からレッドインプという魔物が何匹も襲ってくるのだ。これが痛い。
何が痛いって、素早い上に魔法防御が高いのだ。
今までのように水魔法で斃せばいいというわけにもいかない。
順当に斃せるとすれば素早く動かれても射貫けるほどの腕前を持つ弓使いだろう。
しかしバベルにおいて『弓』は不遇なのだ。
決められた範囲の階層に地形を創る以上、どうしても狭い戦場が多いというのがバベルの常識。
広々とした平野というのはまず見ない。
仮に平野の階層があっても障害物を置いたり丘陵を創ったりして視認しにくくするのが普通だ。
だから弓使いが遠距離から矢で狙う、という場面がほとんどない。
結果、弓使いはバベルに適していない――という判断を誰もがする。
弓使いを入れるくらいなら斥候がナイフでも投げればいい。遠距離は魔法で十分。そう考えるのが通常の思考なのだ。
そして誰もがそんなパーティー構成だからこそこの階層で苦戦する。
ただの下級悪魔なのに。剣が当たれば簡単に斃せるのに。レッドインプとかいう雑魚で足止めをくらう。
空を警戒すれば足元からレッドスコーピオンだ。
魔物を警戒すれば今度は罠だ。
そうして散っていった冒険者は数知れず。
だからこそ未だに三階層までしか探索が進んでいないのだろうし、俺たちが【女帝の塔】より難易度が高いというのもわかるだろう。
【女帝の塔】が一番人気であり、【正義の塔】【力の塔】を斃した実績があり、難易度が相当高いのは理解している。
それでも尚、【赤の塔】の方が難しいだろうと、俺は声を大にして言いたいのだ。
いずれにせよ新塔主の中でも抜きん出た存在には違いない。記念すべき500期だからなのか、それを差し引いても図抜けているというべきか。
もうすぐ後期の塔主総会の時期だ。
そこではまたランクアップなどが行われるらしいが、下手すると【赤の塔】も【女帝の塔】もCランクになりかねない。
オープンから半年でCランクなど快挙以外の何物でもないが、その可能性は十二分にあると踏んでいる。
Cランクならばまだ俺たちにも挑戦権はあるが……いや、俺たちも負けずにランクアップを狙うべきだ。
早くCランク冒険者を名乗れるよう、頑張らないとな。
■アデル・ロージット 17歳
■第500期 Dランク【赤の塔】塔主
最前線は三階層の終盤――『E-6』といったところですか。この分ですと来週には四階層到達者が出るかもしれません。
やっと、ですわね。
まあ、侵入者の方々も存分に苦戦なさったようで、思いの外探索ペースは遅々となっていたようです。
新階層のお披露目というのはいつでも心躍るものです。
「これがわたくしの【赤の塔】です」と誇示するも同じ。
最初のインパクトは大事ですからね。その後の客足にも響きますから。
とは言え、そう簡単に四階層到達者を出すつもりもありません。
侵入者の方々には恐れ、怖れ、畏れて頂かねば。そしてわたくしのTPになって頂きます。
多くの絶望を糧に、わたくしの塔は成長する。――塔主とは死神のようなものですわね。
というわけで日中は侵入者の様子を見ながら色々とチェックをし、営業時間外にまとめて修正するというのを日常としているのです。
まあ、どこの塔主も同じようなものだとは思いますがね。
例えば三階層で言いますと、『B-2』エリアに配置したスコーピオンに全く出番がない。侵入者の通るルートがある程度確立されたようで、階層中を探索するような輩もほとんどいないようです。
ならば『B-3』にずらしておきましょう。そこならばギリギリ接敵するかもしれません。
同じく『A-7』のインプは『B-7』へ移動。『C-4』の罠も無駄ですわね。撤去しましょう。
ああ、一階層と二階層も多少はいじっておいた方いいでしょう。今日も明日も全く同じとするわけにもいきません。
「ジータ、二階層『E-7』のリザードマンですが『E-6』に変えるか『F-7』に変えるかどちらがいいと思います?」
「わっかんねえよ。そんなチマチマ変えたって同じだろ。俺だったら全く気にしねえぞ」
ったく、使えない
戦闘強者からの視点と、過去二度も
魔物が出たら斃せばいい。罠があったら避ければいい。
最終的にはそういう結論になりがちです。ジータは。ある程度の計算はしてくれますがね。
「主が優秀な塔主だってのはこの数ヶ月でよ~く分かった。毎日ここまで細かく修正するヤツなんていねえだろ」
「そんなことないでしょう。貴方だって過去に二人しか見ていないのでは?」
「そうだけどよ。それでも優秀だと思わせるものが主にはあるって話だよ」
「まあ。英雄様にそう言って頂けるとは光栄なことですわね」
「けっ!」
同盟の方々にはわたくしと同じように修正を行っている方もいらっしゃるでしょうし。
シャルロットさんやドロシーさんはやっているでしょうね。
フゥさんはどうでしょう。感覚的な部分もありますから何とも言えません。
ノノアさんは恐怖から逃れる為の義務としてひぃひぃ言いながらやってそうですね。
いくら同盟とは言え、わたくしが彼女たちに負けるわけにはいきません。
だからこそ彼女たち以上にしっかりと塔の運営をしなければ。
例え共に並び歩もうとも覇道を為すのはわたくし一人。
バベルの頂点に立つ為に。今は邁進するだけです。
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