273:前哨戦は暗中模索のようです!



■ファモン・アズール 35歳

■第493期 Bランク【轟雷の塔】塔主



 【氷海の塔】の元へと来た【女帝】からの塔主戦争バトル申請は却下し、それに返答する形で出した同盟戦ストルグの条文。

 それは私たちの用意した罠であり、【女帝】を陥れるための一手であった。


 【女帝】がこちらを潰そうとしているのは明白。

 なぜ私たちを狙ったのかという理由は不明だが、絶対に斃せると思っていたからこそ申請したに違いない。

 実際【女帝】と【空白】【氷海】を比べたら確実な戦力差があるのだろう。それは想像がつく。

 それに加えてBランクに上がったという自信があったのかもしれない。



 しかし私は「ランクアップしたばかりでBランクに順応するのに苦労している」という情報を得ている。

 それはジータが語っていたことだが、【赤の塔】と同じように【女帝の塔】も苦労している風なことを言っていた。


 万全な状態ではないのだ。今の【女帝の塔】は。

 それなのに塔主戦争バトル戦争を仕掛けるというのはどういうことかと考えればある程度の答えは出る。


 つまり「未完成の塔を創るためにTPが欲しい」「未完成の塔でも【空白】や【氷海】には勝てる」と、そう思っているに違いない。

 だからと言って「なぜ私たちを?」という理由は不明なままなのだが、少なくともそうした思考があるのは間違いないだろう。



 【女帝の塔】は私たちが喉から手が出るほどに欲しい商品・・だ。その価値は計り知れない。

 その【女帝】が万全の状態でないのにも関わらずこちらに申請してきた。

 それを何とか利用しものにしようと画策した結果が、あの同盟戦ストルグの条文だった。


 内容はかなり無茶なものにした。

 誰がどう見てもこちらに有利となるようなものだ。


 おそらく【女帝】は問答無用で却下する。「こんな条文を出すくらいなら手を引きますよ」と来るはずだ。


 そうしたら今度はこちらで若干の修正案を用意する。

 それで受理すれば儲け物。それでも却下すればさらに若干の修正案を用意する。

 それを繰り返し【女帝】が「これくらいなら受けてもいいか」と思わせれば私たちの勝ちだ。


 線引きは弁えている。【女帝】が「勝てる」と思っているラインはこちらにとっても「勝てる」と思えるラインのままだ。

 そう錯覚させるための一手。それが先に送り付けた条文であった。



 しかし【女帝】から返って来たのは″問答無用の却下″ではなく「このような条文はどうですか?」という修正案だった。

 私たちの無茶な条文を真に受け、それでも尚、私たちと戦おうという意思を見せていた。


 これには驚いた。

 どれだけ私たちを斃したいのだと。

 それほどの戦闘狂だったのか、だからこそあれほど戦果を挙げ続けたのか、それは分からないが少なくとも私は若干引いた。


 【女帝】の出してきた条文の内容も頭がおかしい。



=====


塔主戦争バトル形式は同盟戦ストルグだが【轟雷の塔】【空白の塔】【氷海の塔】同盟vs【女帝の塔】一塔の変則同盟戦ストルグとする。


・【轟雷】【空白】【氷海】同盟は【女帝の塔】を攻略すれば勝利。【女帝】は相手方の三塔を攻略すれば勝利とする。


・勝敗は塔主戦争バトルに参加する塔に適用され、同盟塔であっても参加しなければ適用されることはない。


塔主戦争バトルの内容は同盟者以外に観戦できない。(神以外)


・神との立ち会いで詳細を決定し、その二日後の二の鐘から勝負を開始し、勝敗がつくまで継続する。


=====



 まず三塔vs一塔の変則同盟戦ストルグを受け入れた。これがおかしい。

 こんなもの真っ先に却下するポイントだ。【女帝】の申請していない私がいきなりしゃしゃり出てきたのだからな。

 それを受け入れたということは即ち「勝てる」と踏んでいるからに違いない。


 万全な状態でないのに?

 仮に【女帝】の戦力がBランク上位相当だとしても、私たち三塔を相手に勝てるものではない。

 Bランクに上がったばかりの私をCランクと同等に見ていたとしても、Cランク上位の三塔を相手に勝てると思うものか?

 その自信はどこから来るのだ。根拠はどこにある。



『Aランクの【傲慢】や【魔術師】と戦ったからこそCランクやBランクを低く見積もりすぎている、ということですかな……』


「諜報型限定スキルでこちらの戦力を掴んでいるという線は……」


『それはないという結論でしたでしょう。まぁ絶対はありませんが可能性は限りなく低い』



 もしこちらの戦力を把握しているのであればその自信も頷ける。

 その方法とはつまり、限定スキルかドミノ殿のような神授宝具アーティファクトになるだろう。


 しかし向こうの同盟で持っている神授宝具アーティファクトは【忍耐】の盾のみ。

 とても諜報できるような代物には見えず、これは考えなくてもいいだろう。


 では諜報型限定スキルか、となったのだがこれも可能性は低い。

 まず二年目で限定スキルを取得できるかという問題があるのだが、スキルの内容と取得TPが塔によって異なる為、取得できないと断定することはできない。


 仮に激安の諜報型限定スキルがあったとしても十万TPは下らないだろうと思われる。どんなに安く見積もってもだ。

 それを取得したからこそ【傲慢】同盟や【魔術師】同盟を斃したのか、とも考えたがそうなると順番がおかしい。


 数々の下剋上をする以前に限定スキルを取得することは無理なのだ。

 その時点で十万TPも使って限定スキルを取得すれば、今度は塔の運営ができなくなる。

 構成も不十分、魔物もろくに召喚できない。そうなればいくら諜報したところで下剋上などありえない。


 Bランクとなった【女帝】や【赤】が限定スキルを持っている可能性はある。

 しかし少なくとも【傲慢】同盟を斃した時に諜報型限定スキルを持っていた可能性は限りなく低い。

 つまり下剋上を為した時に限定スキルは持っておらず、諜報は行っていなかったということだ。


 もしAランクの塔を斃して得た報酬TPで限定スキルを取得したならば、おそらく内政型だろう。

 だからこそTP取得量が上がり、それがランキングやランクアップに繋がっているのではと予想している。



 そうなると「限定スキルなしでどうやってAランクに勝ったのだ」となるわけだが、それは同盟戦ストルグということを利用したのではないかと思っている。


 厳密に言えば【世沸者の塔】だ。武力を必要としない知力の塔。

 これを代表塔にしたか、そこのギミックを流用したか、そういった手段でAランクの塔をハメたと見るべきだろう。

 少なくとも私たちならばそうする。

 相手は貴族なのだから挑発するなり騙すなりすることも可能なはずだ。


 ともかく【女帝】や【赤】が限定スキルを持っている可能性自体が低く、仮に持っていても内政型だろう。

 諜報型は持っていないだろうという結論だ。


 ではこちらの戦力も知らずに三塔vs一塔の同盟戦ストルグを受けたのか、という最初の話に戻るわけだが……答えは出ない。

 考えれば考えるほど【女帝】の思考が読めなくなるという恐ろしさがある。



『おまけに三塔を攻略すると言ってきましたからな……せっかく【轟雷の塔】を代表塔にしておきましたのに』



 向こうからすれば攻略しなければいけない塔が一塔から三塔に増えるわけで、自ら不利にしているような条文修正だ。

 これでは神との立ち会いで「不平等だ」と一蹴されてしまうだろう。

 私たちもそれを恐れたからこそ代表塔を選んでおいたのだ。

「戦力は三塔分だが見てくれはBランクの代表塔、一対一の勝負」となるために。


 自分から梯子を外すような行為。その意図は――



「おそらく防衛戦力の分散が目的でしょうね。【女帝の塔】の防衛は三塔の戦力から守ることに変わりなく、戦力分散された塔を一塔ずつとなれば攻略はしやすくなる」


『三塔の攻略など合計で三十五階層ですぞ? Sランクの塔でさえ全三十階層だというのに。いくら戦力に自信があっても消耗を考えないはずがない』


『回復要員が多いという証拠でしょう。【女帝】のリストで言うならばユニコーン(B)やロイヤルプリースト(B)、最悪ロイヤルビショップ(A)がいてもおかしくありません』



 回復要員で消耗を抑えつつ、一塔ずつ攻略する。

 私からすればそれでも馬鹿げた策に違いないのだが、おそらくそれは間違いないだろう。

 その自信があるからこそ三塔の攻略を自ら提示したということだ。


 そして勝敗の適用を「同盟塔全て」から「塔主戦争バトルに参加した塔」に限定してきた。

 まぁこれは分かりやすい罠だったから修正されて当然だな。


 こちらが【女帝】一塔だけを斃して他の五塔のバベルジュエルをも奪う、という策だが、こんなものは修正されて当然だ。虫の良すぎる話。

 その条文に目を向けさせて「三塔vs一塔」のほうをあまり緩和させないつもりだったのだが……緩和どころか認めてしまったからややこしいのだ。

 おまけに予想しない方向に条文を修正してくる始末。


 さて、これをどうすべきか……。

 【女帝】の出してきた条文は「こちらの優位性を保ったまま」と言えなくもない。

 しかし思いもよらない修正のされ方をしたせいで考えることが増えた。正直嫌な予感もしている。


 このまま受けるのか、再び修正するのか……お二人と相談しなければな。




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