39:三体目の眷属魔物です!
そんな話をアデルさんとしていると、どうやら模擬戦も一段落したようです。
エメリーさんとジータさんが帰ってきました。
「お疲れさまです、エメリーさん」
「ありがとうございます、お嬢様」
「エメリーさん、わたくしからもお礼を。ジータに稽古つけて頂き感謝ですわ」
「ありがとうございます。しかし特訓となっているのはわたくしも同じですので」
「エメリーさんから見て、ジータはどうですの?」
「そうですね……」
エメリーさんは少し考える仕草をしてアデルさんに答えます。
「前回よりも動けているのは間違いないでしょう。わたくしの速度に慣れた部分もあるとは思いますが、吸収する素質が高いのではないでしょうか」
「それは僥倖ですわね」
「そりゃどーも。はぁ……人ってのぁ、死んでも尚、成長できるもんなんだなぁ……三回目にして初めて知ったぞ」
半分愚痴、半分嬉しいといった感じでジータさんがそう言います。
おそらくレベルどうこうじゃない『成長』ってことなんでしょうね。
たった二回の模擬戦でそれを実感できるほどのものがあった。それを感じられるほどエメリーさんの力量があったということなのでしょう。
「主よ、またメンテ頼めるか? 俺の自慢の剣がこの
「模擬剣とかではダメですの? なにも真剣を使わなくてもよろしいのに」
「俺とか
「にしても本当にアダマンタイト製ですのよね、その剣。エメリーさんの剣はミスリルではございませんでしたっけ」
「それこそ技量の差だよ。自信なくすわ、ホント」
ジータさんの特大剣はアダマンタイト製だそうです。
過去、英雄の歴史と共に握られていた伝説の武器と呼べるほどの業物。
アダマンタイトはミスリル以上の硬さと重量を誇ります。加工できる鍛冶師も限られるほど。
魔法との親和性が高いミスリルとは逆に、親和性が全くないという欠点はありますが――魔法による強化や加工ができないということ――それでもミスリルの上位素材に違いありません。
それをミスリル製のロングソードで勝ってしまうエメリーさん。
おまけにまだアデルさんたちには言ってないですけど、ミスリル武器ってエメリーさんにとっては『予備武器』でしかないんですよね。
その上に【魔竜武器】があって、さらに上に主武器の【魔剣】があるんですから。
それを知った時にどういう反応になるのか……少し怖い気もします。
ああ、そうだ。メンテのことに関しても聞かなければ。
自戦力の武器や防具をちゃんと整備しておくというのも塔主の大事な仕事です。
なにせ日々、配下である魔物が侵入者と戦っているわけですからね。
もちろん斃されれば装備している武器も消えてしまうので整備の必要もないと言えばないのですが、ダメージ目的でなく討伐目的で配置した魔物――例えばボスや眷属――の武器はちゃんと整備しておくべきです。
TPで武器を調達してそれを装備させたりも出来ますからね。そうした武器は大事に扱うべきでしょう。
で、私の塔の場合ですが、そういった武器を持っている魔物がほとんどいません。
ヴィクトリアさんとパトラさんが持っているのはエメリーさんからお借りしている【魔竜槍】と【魔竜短剣】です。
そして整備もエメリーさんご自身で研いだり磨いたりと毎日やっているのです。
しかしエメリーさんは鍛治師ではありません。定期的に本職の方に見てもらったほうがいいとは相談されているのです。
「アデルさんはやっぱりバベルの鍛冶師にお願いしているのですか?」
「そうですわね。まとめて依頼できますし、対応も確実ですから」
バベルは専属契約の鍛冶師をたくさん抱えているそうです。
塔主はバベルの職員さんにメンテをお願いすると、そうした鍛冶師に回されるわけですね。
依頼するのも受け取るのもバベル内で済むので、塔主はそこにメンテ依頼するのが普通らしいです。
バベリオの街にも鍛冶屋は多いそうです。しかしそういったお店は侵入者の人たちがお客さんになります。
腕はどちらが良いのか分かりませんが、侵入者の人たちの武器を手掛けているお店に、塔主である私たちが依頼するわけにもいきません。
何より塔主の場合、
情報を漏らさないと契約されているバベル専属の鍛冶師に依頼するしかないのです。
しかし、私たちの場合は悩みどころです。
エメリーさんの【魔竜シリーズ】も【魔剣】もこの世界に存在しない武器。
これをメンテに出せば……騒ぎになるのではないでしょうか。
だからどうしたものかと。
「メンテに出したいけど、あまり公にしたくないと言いますか……そういう時はどうすればいいですかね」
「それでしたら職員に渡さず、直接鍛冶師に会って渡すように言えば……って貴女方、まだ秘密になるようなもの持ってますの?」
「アハハ……」
【魔竜シリーズ】の一つくらい見せてもいいのかもしれませんが、あまり見せたくないのも事実。
ここは苦笑いで誤魔化すしかありません。
「はぁ、まあいいですわ。……それほどの武器であれば街で腕の良い職人を見つけるのも手ですわね」
「えっ、街の鍛冶屋さんだと危険では」
「魔法契約すればいいではないですか。情報の漏えいは絶対しないようにと」
「なるほど」
さも魔法契約が当たり前みたいに言いますけど、街娘の私からすれば縁遠いものなんですよ。
アデルさんの場合、さすが大貴族様と言いますか……普段からよく使っていらっしゃったのですかね。
「どうせ近々、街に行こうと思っておりましたの。その時についでに探せばいいですわ」
「えっ、街に行くんですか? 私も?」
「何を言っているのです。メインはシャルロットさんのお洋服ですわよ。少しは【女帝】らしく見えるよう、わたくしがコーディネートして差し上げますわ!」
「えっ、いや、でも」
「ああ、その日は『休塔日』にしなければなりませんわね! 今日のうちに申請しませんと!」
アデルさんは羽扇を閉じてトントンと考察モードに入ってしまいました。こうなってはもう何も言えません。
どうやら私は街にお洋服を買いにいくようです。アデルさんと共に。塔を休みにしてまで。
いやまぁ必要だとは思ってましたけどね、街娘の私には良し悪しも分からないですし、塔を休んでお買い物なんて考えてもいませんでしたし……。
大貴族のアデルさんとお買い物とか……とりあえずお金をいっぱい持っていきましょう。
◆
アデルさんたちと別れ【女帝の塔】に戻ってから、私はエメリーさん、ヴィクトリアさん、パトラさんと話し合いました。
四階層の整備に伴う、魔物の配置についてです。
三階層の蜘蛛系魔物を四階層に。
空いた三階層には火属性に強い魔物を配置するというアデルさんのアドバイス。
また、同時に全体的な魔物の配置を再検討しておこうかと。これは私の考えです。
「私の蜘蛛たちは四階層でも問題ないと思います。ただ罠と魔物の配置の関係性をもう少し詰める必要があるとは思いますが」
「私の子たちの出番がないのが寂しいですわぁ。お客様が五階層に来るのはもう少しかかりそうですしぃ。下の階層に少し置けませんの?」
「お嬢様、火属性に強いとなりますと、どの魔物をお使いになるのですか?」
「ラミアとフォッグスネークを考えています」
ラミアは二階層に一体だけ配置しています。三階層への扉を開く、鍵の番人として。
Dランクの魔物一体ということで、中ボスのようでもあり普通に斃せる魔物でもあると、そういう感じです。
ラミアは尻尾を使った物理攻撃も出来ますが、何気に水魔法も使えます。それほど強くはないですし頻度も多くないですが。
フォッグスネークはラミアの下位にあたる蛇ですね。1.5mくらいの細長い蛇。
霧を発生させ、それに紛れて襲い掛かるといった感じ。罠っぽい魔物ですね。
この二種類を三階層に置こうかと思っています。
ついでに地面には水溜りも多く創っておこうかと。
もともと三階層は【お城にありがちな地下牢獄】のつもりで創ったので、水が溜まっていてもおかしくはないと思うのです。……まぁ三階層なのに地下ってどういうこと? と言われたらアレなんですが。
「なるほど。ということは……ラミアクイーンですか?」
「はい。四体目の眷属を創ってしまおうかと思います」
・フォッグスネーク(Fランク):30TP
・ラミア(Dランク):220TP
・ラミアクイーン(Bランク):3500TP
ラミアクイーンを召喚し、名付けて眷属とすれば計7000TPのはずです。それくらいなら今は大丈夫。
フォッグスネークとラミアも統率できるでしょうし、クイーンの存在価値というのは高い。
【女帝の塔】の強みを活かすならば、やはりクイーンを召喚すべきでしょう。
お三方も賛成して下さったので、さっそく召喚します!
画面を操作すると玉座の前に現れる魔法陣。やはりヴィクトリアさんやパトラさんの時と同じくらいの大きさ。同じくらいの輝きを放ちます。
地面から現れる女性の人型、そして下半身の長い蛇身は蒼い鱗が流れているよう。
ウェーブのかかった水色の髪。女王らしく美しい、しかしどこか愛嬌があるような。怖さと大らかさを感じるお顔です。
「おおっ! 貴女があたしの主なの?」
……随分フランクな女王様ですね。一気に親近感がわきます。
「初めまして。私は【女帝の塔】塔主、シャルロットと申します」
「シャルロット様ねー! あたしはラミアクイーン! よろしく頼むのよ!」
「よろしくお願いします。貴女には【ラージャ】と名付けます」
「わお! いきなり
私の四人目の眷属、ラージャさんが仲間になりました。
いい人そうで安心しました。随分と賑やかになりそうで楽しみです。
=====
名前:ラージャ
種族:ラミアクイーン
職業:シャルロットの眷属
LV:40
筋力:B+
魔力:B
体力:B+
敏捷:C
器用:B-
スキル:水魔法、統率、産卵
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