40:休塔日にお出掛けします!
■シャルロット 15歳
■第500期 Dランク【女帝の塔】塔主
「はぁ、せっかくシャルロットさんと仲良くショッピングと思っておりましたのに……まさか子連れで買い物するはめになるとは」
「「だれが子供
休塔日としたその日、朝からバベルの一階で待ち合わせしました。
相変わらず集合の早いアデルさんと、その隣にはジータさんもいます。
アデルさんはいつものように赤いワンピースドレス、赤い羽扇。ジータさんは歴戦の鎧と特大剣を背負っています。
これから塔に挑もうとする冒険者の方々も当然バベルに入っているわけで、すでに注目の的です。
ジータじゃないか! じゃああれが【赤の塔】の塔主か! と。
そんなところへ、私たちも合流しました。四人で。
いえ、一応、アデルさんと外に出掛ける旨をお伝えしたのですよ。同盟のお二人に。
そうしたら「一緒に行く!」と。「こっちも休塔日にするわ!」と。
大丈夫なんでしょうか。いやまぁ塔を休みにするのはよくあることだと聞きますけど。
ドロシーさんはいつもどおり。フゥさんはフードを被っていますね。人前では顔を見せません。
ゼンガーさんはお留守番だそうです。休塔日となったので【輝翼の塔】の妖精たちと存分に戯れているのでしょう。
妖精と追いかけっこするお爺さん……これは危険な香りがします。触れないでおきましょう。
ともかくそういったわけでアデルさんとお二人は初顔合わせなのです。
「自己紹介するまでもありませんわね。お互いお名前はよく知っているでしょう」
「せやな! シャルちゃんとはもう仲いいんやろ? せやったらウチらも仲ようしとかんと!」
「うむ。シャルとだけ付き合って同盟であるわしらを無視するわけにもいくまい?」
「それはまぁそうですわね。では改めて今日はお願いしますわ」
同盟を結んでいる以上、情報は共有しますし、アデルさんのことも私から伝わるかもしれない。
魔法契約で一応は公言できなくなっていますが、それがどこまでの情報を言っているのか微妙ですからね。
こうして会うことでお互いに納得できる部分もあるでしょう。
アデルさんには小声で「ドロシーさんもフゥさんも年上ですよ」とは言っておきました。ハイエルフだとかは言えませんけど。
見た目で言うとアデルさん>私>ドロシーさん>フゥさんという年齢なんですが
実際にはフゥさん>ドロシーさん>アデルさん>私となります。
だからアデルさんが「子連れで買い物」というのも少し分かります。一番子供なのは私ですが。
そんな四人の一歩後ろにエメリーさん。さらに後ろにジータさんがいます。
保護者みたいですね。
すでにジータさんは面倒くさそうな顔をしています。すみません、女子供ばかりで。
「俺、留守番でもいいんだが」
「何を言ってますの。さっさと行きますわよ」
そう言ってアデルさんは先頭で歩き始めました。
いやー目立つ目立つ。もうすでに【女帝】【忍耐】【輝翼】同盟と【赤】がなぜか合流したという
自分で言うのもなんですが、話題性のある第500期のトップ4ですからね。おそらく変な噂が広まるのでしょう。
さて、そんなことを気にしていても仕方ありません。バベリオの街へと繰り出します。
私がバベルの外に出るのは実は三回目です。
最初に暗殺されかけたので怖くもあったのですが、エメリーさんもいることですし大丈夫だろうと、ドロシーさん、フゥさんとお食事に出掛けたのが二回目でした。同盟戦の少し前ですね。
三回目にして初めて、日中の街を歩きます。
いまだに少し怖いです。それに街行く人から熱視線。やはり街でも目立つようで遠くから声援をかけられたりもします。
私って応援される立場なんですよね。冒険者の人たちは何も思わないのでしょうか。
と、私はそんなことを考えているのですが、今日初めてお話する御三方は先ほどからずっと喋りっぱなしです。
人目を気にせずわーわーぎゃーぎゃー賑やかです。仲良くなって何よりですが……注目が増すので自重して欲しいです。
どうやら今日、買い物に至った経緯をアデルさんから聞き出しているようで。
「やっぱり付いてきて正解やん! 完全にシャルちゃん狙いやないか! 渡さへんで! シャルちゃんはウチらのシャルちゃんや!」
「何を言ってますの。わたくしは友人として色々とアドバイスして差し上げようと」
「ホントにそうかのう? あわよくばもっと近づこう。友人より身近な存在に、とでも思っておるのではないか?」
「んなっ! そ、そんなわけっ!」
うわー、アデルさん顔真っ赤ですねー。髪色も羽扇も服も赤いので全身真っ赤。さすが【赤の塔】の塔主様です。
……と、私は他人事のように傍観するしかありません。
「なあ、俺、どっか飲み行っていいか? 姦しい中にいるの辛いんだが」
最後尾のジータさんはげんなりした顔でそう呟きます。
「ジータ、貴方はわたくしの護衛ですのよ?」
「エメリーの姉ちゃんがいるんだから俺別にいらねーだろ」
「せめて鍛冶屋までは一緒に来なさいな。腕が良ければ貴方の剣も見てもらいたいですし」
「あー、まー、そうだよなー」
ジータさんの剣はアダマンタイト製ということで普通の鍛冶屋では本格的なメンテナンスができないそうなんです。
それでもなかば無理矢理お願いしているのが現状らしく、もし市井の鍛冶屋で腕の良い人がいれば、その人にお願いしてもいいんじゃないかと。
そんなわけで一緒に歩いているわけです。ご苦労様です。
私としてはエメリーさんの武器を任せられる人がいればなぁと。
バベル専属の鍛治屋さんがジータさんの剣で悪戦苦闘しているのならば、エメリーさんの武器なんて絶対無理でしょうしね。
なんとか見つけたいところです。
というか、すでに目星はつけているのです。フゥさんが。
ただその人が相応の腕を持っているか、というのは実際に見せてみないと分かりません。
大通りからいくつもの枝道を経由して、鍛治屋街へ。
バベリオは塔に挑む人たちも多いですから鍛冶屋自体は異常と言えるほどの数があるそうです。その中のごく一部がバベル専属なのでしょう。
そういった鍛治屋さんがまとまって軒を連ねるのが鍛治屋街。そこら中からカンコンカンコン聞こえますし、煙突からいくつもの煙が伸びています。
「本当にこっちの道で合ってますの? 鍛治屋街の端も端。路地裏ではないですか」
「うむ、間違いない。バベリオで唯一のドワーフ鍛冶師じゃ。堂々と中心には住めんのじゃろう」
「フッツィルさん、よくご存じですのね。そのような方がいらっしゃるなど、わたくしの情報にもございませんでしたわ」
「たまたまじゃよ。たまたまわしの耳に入ったにすぎぬ」
フゥさん、街中のファムから情報得ていますからね。それで良さげなお店を見つけて一人で行ったりしていたようです。
今回も鍛治屋を探すということを伝えていたので、どうやら見つけてくれていたようで。
素直に助かります。フゥさんの情報収集能力すごすぎです。アデルさんには言えませんけど。
「ここのようじゃ」と辿り着いたのは古ぼけた石造りの建屋でした。廃墟感さえあります。
くたびれた扉の脇には小さな表札で【鍛治 スマイリー】とあります。
一応鍛冶屋さんではあるようです。そのドワーフの方がスマイリーさんとおっしゃるのでしょうか。
フゥさんは臆することなく扉をギギギと開けます。
中は暗めで、カウンターのみ。武器が並んでいたりもしません。
「おーい、店主はおるかー」とフゥさんが奥の部屋に向かって呼びかけます。
おそらくファムに聞いて知っているのでしょう。そこにその人がいると。
「おおう、なんじゃい客か? 珍しいのう」
と出てきたのは耳が垂れて小柄な男性。ひげもじゃでずんぐりした体型はまさしくドワーフといった感じです。
しかし名前とは対照的に随分険しい目つき。全然スマイリーじゃありません。
「んお? 女子供ばっかとかどういう客や。冒険者ちゃうやろ。ってドワーフおるやん。これまた珍しいのう。嬢ちゃんどこの娘や」
「ウチはデノの集落や」
「おお、デノ言うたらザッパ兄んトコやな。知っとるか?」
「ザッパさんかい! よお知っとるで! ウチも近所やし世話になったわ!」
どうやらドロシーさんとは早くも打ち解けたようです。
ドワーフは数が少ないのですが、世界中に村レベルの集落がいくつかあるようです。
そこを飛び出して人間の街に行くドワーフも多少いるようですが、大抵は集落ごとに固まっているようで。
ドロシーさんの故郷とスマイリーさんの故郷はどうやらかなり離れていた様子。
しかしスマイリーさんの鍛治の兄弟子という人がドロシーさんの集落で鍛治師をしていたらしく、そこの繋がりがあったようですね。
話が盛り上がっていて、私たちの出る幕が全くないんですけど……。
「そんで用件は何や。まさかドワーフみつけたから会いに来たとか言うんちゃうやろ」
「ああ、せやせや。おっちゃん、冒険者相手の鍛治しとるんか?」
「いんや、多少組合に卸してるけどな、そういうんはやっとらんな」
「んじゃバベルの専属鍛治なん?」
「はぁ~~~、そうやったらええんやけど……」
それからスマイリーさんが愚痴りはじめました。要約するとこうです。
スマイリーさんの鍛治の師匠というのはドワーフの中でも一番と言われているほど。弟子入りさえも難しいと。
何とか弟子入りし、腕を磨き続けたスマイリーさん。
厳しい師匠から一人前と認めてもらえて、初めて自分のお店を持てる。そういう世界だったと。
スマイリーさんは自分の店をどこに持つかと考えた時、ドワーフの集落を出ることを望んだそうです。
出来れば【無窮都市バベリオ】で店を持ちたい。そして
夢と希望を胸にやって来たのが一年前。
「しかしそう甘くはないっちゅーこっちゃ。いくら腕に自信があってもバベル専属鍛冶師にはなれへんねん」
膨大な数の鍛治師を抱えるバベリオ。
単純に武具を作るだけの鍛治師もいれば、販売も手掛ける鍛冶師もいる。武具でなく日用品を手掛ける鍛冶師もいるそうです。
それはそうですね。バベリオに暮らす人々も多くいるのですから。
その全ては商業組合で統括され、そこで選ばれた一握りの鍛冶師だけが『バベル専属鍛冶師』となるそうです。
つまりは商業組合に大きく貢献し、実績を作る必要がある。
必然的に大商会関連の鍛治師や、大通りに面して冒険者相手の商売ができる――売上のある――鍛冶師が上位になると。
「わしゃ打つだけやから売ったりせえへんし、伝手もなけりゃ金もない。バベル専属なんて夢のまた夢や」
「なるほどなー、そーゆーことかい」
ドロシーさんがうんうん頷いています。
「せやったらちょうどええわ。おっちゃんの夢を叶えたろう!」
「……はあ?」
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