41:さすがはドワーフ鍛冶屋さんです!



■シャルロット 15歳

■第500期 Dランク【女帝の塔】塔主



「えっ? は? 嬢ちゃん塔主なんか!? え、そっちも? そっちも? 塔主が四人!? はあ? そっちの二人は神定英雄サンクリオなんかい!? ジータってあの英雄ジータ!? ホンマか! それにメイd「侍女です」お、おおう、侍女の姉ちゃんも四本腕ってどういうことやねん! どんな神定英雄サンクリオやねん!」



 スマイリーさんはバベル専属鍛冶師になって塔主の持つ神授宝具アーティファクトが見たかった。

 神から賜った武具。決して人の身では造れないそれを、自分の目で見、自分の手で扱ってみたいと。


 これでスマイリーさんが冒険者相手の鍛治を主としている人であれば、私たちも依頼する気が起きなかったかもしれません。スマイリーさんのお客さんにとっての『敵』ですからね。私たちは。


 しかしそうでないとすれば、普通の街民と変わらない。


 塔主に対する印象は『敵』ではなく『英雄譚の主人公』のようなものになります。……私は拒否したいのですが。



 ともかく私たちがメンテナンスを依頼するには問題ないだろうと、まずは私たちのことを説明しました。

 塔主が四人、神定英雄サンクリオが二人ですと。


 まー驚いていましたね。こんな場末の鍛治屋に塔主が来るはずない、そんな頭があったようです。


 人との接点があまりない故か、はたまたスマイリーさんがここに引き籠っているのか分かりませんが、エメリーさんやジータさんのこともご存じなかったようで。

 まぁジータさんは歴史的な英雄ですから名前はご存じだったようですが。



「ウチは神授宝具アーティファクトやってんけど、おっちゃんの腕が良さそうなら今度もってくるわ」


「ほ、ほんまか! 頼む! まじで頼むで!」


「今日はこっちの武器がメンテできるかって相談に来たんや。ジータさん、ええか?」


「おう。親父、こいつはいけるかい?」


「おお、ジータの剣をまさかこの目で…………ん? アダマンタイトか」



 感激の表情が一気に『職人の目』になりました。雰囲気が全然違いますね。



「なるほど、こりゃバベル専属鍛治でもキツイな。アダマンタイトの比率が今の時代と違いすぎるわ」


「そうなのか?」


「おおよ。今はアダマンタイトの産出自体も減って、それを扱う技術も昔に比べりゃ廃れとんねん。せやから今市場に出てるアダマンタイト製武具って言うてもアダマンタイト六割、白金四割の合金なんや。それでも一般的には『アダマンタイト製武具』と言われとる」



 付け加えると『炉』も昔とは違うそうです。

 アダマンタイトは最硬の金属。それを熔かすにも相応の炉が必要だったとのこと。

 アダマンタイトが産出不足となった今、供給は減り、鍛冶屋さんの炉もせいぜいがミスリルなどに合わせた性能のものが主流なのだとか。



「だがこいつぁアダマンタイト八割か九割ってとこやな。最小限の『つなぎ』で白金を使うとるだけや。見事なもんやで。昔はこないな剣も打てたんやなあ……まあ、英雄に持たせる武器やから特別なのかもしれへんけど」


「そんでメンテはできるのか?」


「任せとき! こちとらドワーフやで! アダマンタイトなんか嫌というほど扱ったからな! お安い御用や!」


『おお』



 どうやらスマイリーさんの師匠は「アダマンタイトを打てなけりゃ一人前とは認めねえ」という人だったらしく、卒業試験のような感じでひたすらアダマンタイトを打っては熔かし、打っては熔かしとやっていたそうです。


 そうしてやっと認められ、バベリオに来ても神授宝具アーティファクトを整備するつもりだったので、炉にも拘っているとか。


 神授宝具アーティファクトならば見知らぬ金属を使っていてもおかしくはない。

 ならば炉も高性能に越したことはないと。



 ともかく大丈夫そうで一安心。

 アデルさんも喜んでいたようですが、一方でやはり情報の漏えいが気になる。魔法契約はしておこうという話になりました。

 スマイリーさんに喋る気がなくても、お酒の場で喋るとか、脅されて喋るとかあるかもしれませんし、そこはスマイリーさんも納得していたようです。


 そんなやりとりを後目に、私はエメリーさんと小声で話します。



「どうします? 私たちも頼んじゃいますか?」


「同じように魔法契約を結べば問題ないかと。とりあえず【魔竜斧槍】だけでいいとは思いますが」


「アレはさすがに……出せないですよね」



 魔剣グラシャラボラス――エメリーさんのメイン武器です。

 どれだけ固い魔物を斬っても整備する必要がないほど頑丈ではあるそうで、エメリーさんの普段の手入れでも問題ないとは聞いています。


 それでも本職の方に見てもらいたい気持ちもありますが……間違って魔力を籠めるとスマイリーさん、死んじゃいますしね。


 魔竜シリーズにしても異世界の技術ですから……どうなんでしょう。とりあえず見せてみます。



「私の方の武器も整備できるか見てもらえますか?」


「おっ、そっちの神定英雄サンクリオのメイd「侍女です」……侍女さんの武器か」


「これなんですが」



 と、エメリーさんは一本の【魔竜斧槍】をカウンターに乗せました。

 途端にスマイリーさんの目が険しくなります。「こ、こいつぁ……」と眺めるだけ。手に持つのも怖そうです。



「なんですの? この黒いハルバードは……」


「お、おい、エメリー姉ちゃんの武器はミスリルじゃねえのか!?」



 初めて見るアデルさんも怪訝な表情。

 ジータさんとの模擬戦では情報の秘匿もあってミスリル武器しか使っていませんでしたからね。

 まぁアデルさんとも魔法契約を結んでいるので問題はないのですが。



「これは【炎岩竜】という竜の素材で造られておりまして」


「「「竜!?」」」


「ええ。それと中央の魔石に関しては魔法を放てるように組み込まれております。魔法名を詠唱しなければ問題ありません」


「「「魔法!?」」」


「それと同じものが計四本となります」ドサドサドサ


「「「ちょ!?」」」



 そこからの説明には時間を要しました。

 異世界の竜の素材を使い、異世界の技術で造られた武器。

 単純に強度だけでもアダマンタイト以上になるそうです。


 魔法を放てる仕組みなどは、さすがにエメリーさんでも分からないそうで説明できませんでしたが、とにかくこの世界にとって『未知の武器』であることは間違いありません。



 スマイリーさんは「是非ともやらせてくれ」と真剣な表情で頼み込んできました。

 ちゃんとした整備ができるかどうかは分からない。それでもやらせて欲しいと。


 もちろん快諾です。よろしくお願いしますと私も頼みました。魔法契約はもちろん必要ですけど。


 スマイリーさんの整備ができるようなら、ヴィクトリアさんやパトラさんが持っている【魔竜シリーズ】の武器や、他の武器もまとめてお願いしてもいいかもしれません。

 まぁ【魔剣】は無理でしょうけどね。



 武器はそのままお預けして、後日、スマイリーさんがバベルへと運んでくれることとなりました。

 数日間はエメリーさんもジータさんも武器がない状態ですけれど、最上階にまで上って来るような侵入者もいないでしょうしね。問題ないと思います。

 エメリーさんに関しては【魔竜斧槍】以外の武器を使えばいいだけですし。


 鍛治屋さんを出て、また私たちは歩き始めました。



「フゥさん、ドロシーさん、ありがとうございました。お二人が一緒で助かりました」


「なあに構わん。わしのトコの武器ももしかすると頼むかもしれんしのう」


「ウチもや。整備だけやのうて普通に世間話にでも来るかもしれんわ」



 フゥさんが見つけて、ドロシーさんの執り成しがあったからスムーズに進みましたからね。

 やっぱりお二人はいつも助けてくれます。



「エメリー姉ちゃんよ、あんなすげえ武器持ってたんだな。さすが異世界産っつーかなんつーか」


「他にも色々とあるのですがね。今回はあれだけです」


「まじかよ」


「はぁ……シャルロットさん、貴女のところはやっぱり色々とおかしいですわ」


「アハハ……」



 苦笑いしかできません。おかしいと言われてもだいたいエメリーさんが原因のものばかりだと思いますけど。

 この世界の常識を持っていると驚き疲れちゃうんですよね。分かります。私はもうけっこう慣れました。



 それから私たちは大通り付近にまで戻ってきました。


 ここでジータさんは「もういいだろ? 俺飲みいくわ」と離脱。アデルさんは溜息で送り出します。

 護衛はエメリーさんだけですね。フゥさんもアデルさんも相当戦えるようですけど。



 女五人となったのでまずはお昼ご飯を食べようと。これまたフゥさんの案内で個室のあるレストランへ。

 アデルさんも一緒だからでしょうか、高級な感じです。


 さすがに大衆食堂というわけにはいきませんよね。私はたまに行ってみたくなります。【女帝】となった今では縁遠いですが。



 お食事が終わったらお洋服屋さんですね。



「服屋の良し悪しはわしには分からん。さすがに案内できぬぞ」


「お任せください。わたくしの方で予約済みですわ。シャルロットさんを立派な【女帝】にして差し上げます」


「おおー、アデルちゃん気合い入っとるで!」


「ちゃんって……まあいいですわ」



 私は付いて行くことしかできないのですが、お任せしましょう。

 【女帝】らしい服って……私には全然分かりませんし。



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