42:ようやくお買い物を終えました!



■シャルロット 15歳

■第500期 Dランク【女帝の塔】塔主



「んまぁ! お可愛らしいですわ! こちらはどうですの? んまぁ! これもよろしい!」


「あはは……」



 アデルさんのテンションがおかしなことになっています。

 私は苦笑いしかできません。ただの着せ替え人形です。

 味方は後ろに控えるエメリーさんしかいません。心の支えです。



「お嬢様申し訳ありません。本来であればお嬢様のお召し物はわたくしが侍女として用意すべきなのですが……『オシャレ』といったものに疎く……」



 いつになく歯切れが悪いです。初めて見ますね、こんなエメリーさんは。

 オシャレに疎いというのが唯一の弱点なのでしょうか。


 いやまぁいつも侍女服ですし、それ以外は寝間着くらいしか見たこともないですから、エメリーさんとオシャレというのが結びつかない部分もあります。



「【女帝】に相応しい服装、淑女に相応しい服装といいますと、わたくしも分かりかねます。今後勉強して参りますのでしばらくはご勘弁下さい」


「それはいいんですけど……王侯貴族の方がお近くにいたとか仰っていませんでしたっけ?」


「その者もわたくしと同じ侍女でしたので」


「あ……」



 そうでした。侍女仲間の中に王侯貴族がいらっしゃったということでしたね。

 他にも鍛冶師や錬金術師もいらっしゃったようですし、エメリーさんより力がある人、倍の速度で戦える人もいらしたとか。


 どんな侍女集団ですか。エメリーさんの『ご主人様』だった人ってとんでもない人ですね……。


 ともかくお近くに王侯貴族がいらしても侍女服ばかり着て、普段着など分からないということでしょうかね。



「その者たちが普段着やドレスを着ているのも目にしたこともありますが、何分『この世界の王侯貴族』と差異があります。国が変わるだけで文化や流行が変わりますのに、こと『異世界の貴族らしい服装』となりますと……」


「あー、それはそうですね」



 ここの大陸でも国ごとに文化は違うでしょうし、服装も異なるのだと思います。

 ましてや流行に敏感なのが王侯貴族というもの。その国に合った流行というものがあってもおかしくはない。


 私は貴族を目指しているんじゃなくて、【女帝】や淑女を目指しているので、そこまで考える必要はないかと思うのですが、それでも人目を気にしなければいけないのですよね。


 多種多様な人々から見られ、それでも「【女帝】らしい」「淑女らしい」と思われるようでなければ。


 しかし私にもエメリーさんにもその「基準」めいたものが分かりません。

 ではアデルさんはその基準を持って私用の服を選んでいるのか、という話になるのですが……



「流行? そんなの関係ありませんわ! シャルロットさんがシャルロットさんらしくお可愛らしく、お美しくなる! それを人は『女帝らしい』と思うのですわ! 流行とは合わせるものではない! 作り出すものなのです!」


「は、はぁ」



 なんか力説してます。

 つまりはアデルさんの好みで適当に選んでいるだけということですね? 言い方は悪いですが。

 いえ、私にはそうして選ぶこともできないのでお任せする以外の選択肢もないのですがね。


 ちなみにドロシーさんとフゥさんは、この高級服飾店に入ってすぐ



「ほあーすんごい店やな! でもウチには合わへんな! ちょっと他の店回ってくるわ!」


「わしもそうしようかのう。この店は一般人にはハードルが高い。シャル、がんばるんじゃぞ!」



 と退散していきました。


 今頃、入りやすそうなお洋服屋さんで買い物しているのでしょうか。

 それとも商店や屋台を回っているのでしょうか。

 私も【女帝】でさえなければそっちに行きたいのですが……はぁ。



「シャルロットさん、こっちのドレスにこのネックレスを合わせて見て下さいな。んまぁ! お似合いですわ!」


「いやいやアデルさん、私、普段着みたいなのが欲しいんですけど……こんないかにもお貴族様みたいなドレスなんて着る機会ないですよ」


「なーにを仰っていますの。数か月後には『総会』ですのよ? また歴戦の塔主たちと顔を合わせるのです。そこで甘く見られない為にはドレスアップも必要ですわ!」



 塔主総会は画面だけですし、せいぜい胸から上くらいしか映らないと思うのですが……。


 というか塔主総会、あとちょっとなのですね。半年なんてあっという間です。

 前回はプレオープンが終わってすぐでした。で、ランクアップしたり塔主戦争バトルをするはめになったりと色々あったわけです。


 塔主総会は年に二回。前期と後期に分かれているそうです。

 前期の総会は新塔主の顔見せと、神様からの簡単な説明。それとランクアップに関してでした。


 後期はランクアップもそうですが、成績発表のようなものもあるそうです。

 アデルさん曰く、ランクアップの基準のような総合評価や神様の印象などを加味した成績ではなく、単純に獲得TPの多寡が順位として発表されるとか。


 私としては気にもならないですし意味もない『成績』ではありますが、それを気にしてTP獲得に励もうという塔主の方も多いらしく、この後期の総会を目標に頑張るという人もいらっしゃるようです。


 まぁ塔主もそれぞれですね。成績を『見栄』や『名誉』と捉える人だっているのでしょう。



 成績はともかくランクアップはちょっと気になるんですがね。私は。

 主に『眷属枠』の関係で。

 Cランクになればもう一人眷属を増やす余裕が生まれますし、ラミアクイーンのラージャさんを眷属とした今、私の眷属枠の空きはゼロですから。



「ああ、お顔が映されるのですからヘアアクセサリーやイヤリングも必要ですわね」



 アデルさん……ちょっと自重しませんか? 無理ですか? 無理ですよね……。





「どんだけうとんねん!」


「むぅ、あれほど純朴だったシャルがすっかり貴族かぶれになりおって……」



 ドロシーさんとフゥさんが買い物を終え、高級服飾店で合流しました。

 私の着せ替え人形はまだ続いています。アデルさん、自分の買い物もこんなに時間かけるんでしょうか。

 街娘の私としてはパパッと買って終わりが常なのですが。服なんて着られればいいですし。



「なんですの、貴族かぶれとは! シャルロットさんはすでに立派な【女帝】ですのよ!? 貴族どころの騒ぎではありませんわ! 常日頃からきちんとした身なりを心掛けなければいけません!」



 ええ、まぁ仰りたいことはよく分かります。私も【女帝】としての自覚を持つべきですし。

 エメリーさんをチラ見してもうんうんと頷いています。アデルさんの意見に共感しているのでしょう。

 おそらく今後、私の身なりについても教育が入るのでしょうね……侍女としての役目なのでしょうし。



 買い物を終える頃にはすでに夕暮れ。結局鍛冶屋さんとお洋服だけで一日潰れました。

 大量に買いこんだ洋服は全てアデルさんが支払ってくれました。



「アデルさん、私の服ですから私が支払います」


「わたくしの我が儘で買ったのですから当然わたくしが支払いますわ。お友達になった記念のプレゼントだとでも思って下さい」



 押し切られるようにそうなったのですが非常に申し訳ないです。とんでもない金額ですし。それをプレゼントだとポンと支払うアデルさんはさすが公爵令嬢様です。


 私も手持ちは多めに持ってきているのですけどね。

 【正義の塔】と【力の塔】からたくさん回収していますし……エメリーさんが。ちょっとした富豪なのですよ。



「貴族のプレゼントとは豪快なものじゃのう。わしはその金で一年暮らせるぞ」


「ウチもや。絶対シャルちゃんの気ぃ引くためやん。アデルちゃんいやらしいわぁ」


「んなっ! なななにを言ってますの! いやらしいことなどないですわよ!」


「もう素直に認めたったらええねん」


「うむ。さっさとわしらの同盟に入れば良かろう。何を意固地になっているのか知らんが」


「そんな簡単に決められるものではないですのよ! 塔主同士の同盟というのは!」



 仲が良ければ同盟を結んで協力し合えばいい。私もドロシーさんもフゥさんも同じスタンスです。


 相談しあい、協力しあい、切磋琢磨する。

 友人の延長線上にあるのが同盟なのだろうと。



 しかしアデルさんの目標はあくまで『バベルの頂点』。


 頂点というものが一つである以上、孤高の存在のまま強くなり続けるというのも手だとは思います。

 だからこそ友人=同盟とはならない。

 それもまた塔主としての考えなのでしょう。



 そんなことを話しながら店を出て大通りを歩きます。

 すでに五の鐘も鳴り、塔の営業時間もすぎました。侵入者の方々がバベルから多く出てくる時間帯ですね。


 このまま帰ると大勢の人たちとバッティングしてしまうということで、夕食も食べて帰ろうという話に。


 ここぞとばかりにフゥさんが行きたかったお店を選びました。当然個室付きのお店です。

 どうやらパンケーキのお店らしく、夕食にはどうかと思いましたが、フルーツが沢山乗っていたりとかなりボリュームがありました。

 紅茶も美味しい。これはまた皆さんで来たいところです。



 そうして時間を空けてバベルに帰るのですが……そこでまた一波乱が待ち受けていたのです。


 楽しい買い物と食事を満喫したせっかくの休塔日。


 まだ一日が終わったわけではないのですね……。



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