38:女帝の塔バージョンアップについて相談します!
■シャルロット 15歳
■第500期 Dランク【女帝の塔】塔主
「おおー、初の四階層到達ですね」
「予想以上に三階層で手間取ったようですね。ヴィクトリアのおかげでしょう」
「ありがとうございます。しかし出来ればもう少し戦力を置きたかったのですが……」
「そうなると完全にDランクの域を超えてしまいますわよぉ? 私の五階層などいつ『お客様』が見えるのやら」
エメリーさん、ヴィクトリアさん、パトラさんと画面を見ながらそんな事を話しています。
オープンから三ヶ月が経ちました。塔主となってから四ヶ月ですね。
だから四階層に行ける人も出てくるだろうな、とは思っていましたが予想以上に時間がかかった印象です。
でも一組でも到達すればそこから情報は回るでしょうし、三階層を突破する人たちも増えるでしょう。
本格的に四階層攻略が始まるのもすぐだと思います。
「四階層、どうしましょうかね。いまだに悩んでいるんですけど」
「攻略をさせない。させても時間をかけさせる。という意図でしたら問題ないとは思うのですが」
「エメリーさんのおっしゃる事はもっともですが、あの様子を見る限り、滞在TPも増えないのでは?」
「
今の四階層は
階層全てを使った、アップダウンの激しい一本道。
仮に罠がなかったとしても、普通に歩くだけで数時間かかるでしょう。
パトラさんの言うとおり、それは
時間制限のある中、ひたすら攻めなくてはいけないのですから、そんな階層でも無理矢理押し通らなければなりません。
守るこちらからすれば非常に守りやすい階層だと言えます。
しかし侵入者に対してどうかと言われると話は別。
侵入者は撤退もできますし、対策をして再探索するのが常。
そういった侵入者からTPを稼ぐのが『塔主』としての仕事なわけです。
討伐するか、ダメージを与えるか、長時間滞在させるか、ですね。
しかし今の四階層の仕様ではそれが難しい。すぐに逃げてしまいます。
仮に『大玉対策』をして再探索しても、やっぱり次の罠で逃げ帰るでしょう。
【罠だらけの坂道】というコンセプトは変えたくありませんが――せっかくドロシーさんに創ってもらいましたし――罠の種類と配置に関しては見直す必要がありそうです。
また、魔物に関しても、配置できる魔物が限られるという問題があります。
狭い、戦いづらい、罠だらけ、というのは侵入者に限った話ではなく魔物に当てはまる部分も多い。
現状、小さくて空を飛びつつ魔法を撃てるピクシーや、一階層の家に配置していたアーマービー、ランサービーなどを置いていますが、どれも弱い魔物です。
ちょっかいをかける程度のダメージしか与えられません。
四階層まで上がって来る侵入者に対して討伐など以ての外ですし、ダメージによるTP獲得を狙うのも難しいのです。
「ピクシーではなくフェアリーを主力にしては」
「フェアリーは四階層のボス的な位置ですよね。そうなるとボスも見直す必要があるのでは」
「小柄で飛べる魔物というのも少ないのですねぇ、【女帝の塔】というのは」
坂道主体の階層ですからやっぱり飛べる魔物がいいと思うのですが、元々『飛べる魔物は塔で使いづらい』という固定観念があります。フゥさんのように上手く使うのは難しい。そういう階層でもないですし。
私が召喚可能な中でも、単純に『飛べる魔物』というのならそこそこいるのですけれどね。
例えばハーピィ、ハーピィクイーン、妖精系、グリフォン、ヒポグリフ、ペガサス、ヴァルキリーなどなど。
パトラさんやサキュバス組も一応は蝙蝠っぽい翼を持っていますが、基本的には地に足をつけています。
ハーピィクイーンを召喚してハーピィを主力とするのも考えましたが……ハーピィは上空からの強襲で爪による物理攻撃が主なんですよね。クイーンともなれば風魔法を使えるらしいですが。
そうなると天井も狭くなる四階層では使いづらいのです。
「やっぱり
「TPに余裕はあるのですか?」
「ないこともない、というレベルです」
侵入者増加に伴いTPは沢山入るようになっています。
しかしそれだけ魔物が斃されるということでもありますから、魔物や罠の再配置分のTPは多めに確保しておくべきです。
ましてや四階層は罠のTPが余計にかかるんですよね。
大玉なんて結構コストがかかるんですよ。おそらく【女帝の塔】らしくないということで高めに設定されているのだと思います。
だから余計に罠の運用についても頭を悩ませているわけです。
「うーん、ちょっと相談してみますか」
◆
「なるほど。なかなか面白い階層を創られましたわね」
「ほとんどドロシーさんなんですけどね。あの方は侵入者を嫌がらせる罠の使い方とか本当に巧いんですよ」
「ドワーフならでは、なのですかね。わたくしもご教授願いたいですわ」
バベル一階の【訓練の間】。
30m四方ほどの何もない空間です。完全予約制。
いくつかある部屋の一つを、今日は私とアデルさんとで使わせてもらっています。
実は二回目です。すでに一回、最初の会談のすぐ後に「さっそく模擬戦しようぜ!」的なお手紙がきまして。
ジータさんはそれほどエメリーさんと戦ってみたかったようです。
今も部屋の中央で繰り広げられている高レベルな模擬戦を見つつ、部屋の隅で私はアデルさんとお喋りしているわけです。
「くっ……! なんだそりゃ!」
「一撃に威力を籠めすぎです。振ったあとがおざなりですよ」
「チッ! 反則だろ、異世界のメイドってのはよお! おらあっ!」
「メイドではありません。侍女です」
「ぐはっ!」
エメリーさんはハンデのつもりなのか、二本の腕しか使っていません。
左右にミスリルのロングソードという格好。いつものハルバードを使うまでもないということなのか、ジータさんの特大剣に合わせているのかは分かりません。
でもこうして見ていると……。
「はぁ……英雄ジータが本当に英雄なのか疑わしく思えてきますわね」
主であるアデルさんでさえ、そう見えるようです。私には何も言えません。
でもエメリーさん曰く、ジータさんは間違いなく強者であると。そう言ってました。
『わたくしはこの世界の強者というものを知りません。元の世界と比べようにも装備の質や魔法の使い方、そもそもの戦い方が違うように思います。しかしそれを差し引いても、ジータ様がお強いのは間違いないでしょう。仮に元いた世界の『迷宮組合員』にソロで登録していたとすればAランクは確実でしょうし』
内容はよく分かりませんがエメリーさんの評価が高いのは分かりました。
じゃあジータさんがAランクだとして、エメリーさんは何ランクだったのですか? とお聞きしたら。
『わたくしはソロではなくクランでしたが、SSSランクでした』
とのこと。意味が分かりません。Aの上がSですよね? その上の上ってことですか?
ともかくジータさんにとっては望んでも手に入らない、格上の訓練相手。
エメリーさんにしても『この世界の強者』と戦うのは非常に意義があるといいます。
もちろん私やアデルさんにとっても
まぁ私は見ているだけですけど。
アデルさんは剣も魔法もすごいらしいので、私が訓練相手になるわけもありませんし。私<付与魔法>だけですから。
「話を戻しまして、召喚できる手札が少ないのであれば、それに見合う階層にするか、それとも罠を主体にして魔物での討伐を諦めるか……と考えるのが普通だと思いますわ」
「ですよね……。でも勿体ないと言いますか、なんとなくピンとこない感じがしているのです」
せっかくドロシーさんが創ってくれた階層ですし、
かといって罠主体というのは【忍耐の塔】そのままという感じですし、うちにはクイーンもいるわけで、やはり魔物の出番を多くしたいという思いもあります。
「ならばいっその事、魔物の配置を見直しては?」
「四階層のですか?」
「いえ、一階層から三階層も含めてです。わたくしが思うに、四階層に合うのは三階層の蜘蛛系ではないかと」
アデルさんが仰るには、坂道で狭い通路ばかりの階層だからといって、『小さくて飛べる魔物』と決めつけるのはよくない。
むしろ人面蜘蛛やアラクネがそういった階層で活きるのではと。
たしかに蜘蛛は壁でも登れますし、アラクネも糸を使って立体的な動きをしています。坂道だからといって戦いにくいということもないかも。
四階層を蜘蛛系の魔物主体とし、三階層に別の魔物を配置するほうがいいのでは、と仰るのです。
「わたくしとしては火属性に強い魔物を置くべきだと愚考しますわ。【女帝の塔】は一階層、二階層がウッドソルジャー、ウッドナイト、三階層が人面蜘蛛とアラクネと、主体となる魔物がどれも火属性に弱い。その情報はすでに誰もが持っていることでしょう」
「……はい」
「【女帝の塔】の弱点は火属性だ――そう考えているのは侵入者だけではございません。塔主もそう思っているはずです。秘匿しておくならそれでも構いませんが、
火に強い魔物……となれば、あの『クイーン』系統ですかね。
残り一体の眷属を使っていいものか、みんなで相談しましょう。
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