第三章 女帝の塔は味方を増やします!

37:女帝の塔は今日も賑わっています!



■サリード 21歳

■Dランク冒険者 パーティー【旋風六花】所属



「ぐっ……! 早く奥のヤツ片付けろ! もう持たん!」

「任せろ! もうちょっとだ! いける!」

「サリード! 決めろ!」

「おおっ! おりゃあああ!!!」



 最後のアラクネが塔に消えていく。残るのは魔石だ。



「よっしゃああああ!!!」

「やったあああ!!! やっとクリアだ! 長かった!」

「俺たちが最初だろ!? やったぜ!」



 パーティーの皆で喜びを爆発させた。ここまで苦労したからな。喜びもひとしおだ。

 しかも俺たちが最初だ。トップで三階層突破を決めた。

 ここまで来るのに三ヶ月もかかったんだ。これでやっと報われる。



 【女帝の塔】三階層は牢獄エリア。

 全ての壁が檻でできた、見通しの良い階層だ。通路も部屋も全てが見える。


 見えるからこそ危険性が分かったり、逆に隠れた罠を見落としたりと、Dランクの塔としては難関だったと思う。


 出てくる敵も、人面蜘蛛やスライムはまあいいとして、アラクネが本当に厄介だった。

 アラクネ自体はDランクの魔物なので適正とは言える。

 しかし妙に強い。頭がいいと言うか、連携が巧かったり、隙をつくのが巧かったりと苦戦を強いられた。


 おまけに最後の部屋にはアラクネが五体も固まっていたのだ。


 まるでパーティーのように連携してくるアラクネは並みのDランク冒険者に勝てる相手ではない。

 俺たちだってメンバーに火魔法使いがいて、毒対策をしていたから勝てたようなものだ。それでも何度かは撤退したし。



 【女帝の塔】に挑戦するヤツらは本当に多い。最近は特にだ。


 一階層から三階層まで混みあっているのが日常茶飯事だというのに、オープンから三ヶ月も経っていてまだ三階層までしか到達できていなかったというのは異常なのだ。


 普通、これだけの数の挑戦者がいれば、三ヶ月で五階層か六階層まではいける。

 分かってはいたが、やはり【女帝の塔】の難易度は高い。


 とは言え【女帝の塔】がDランクと位置づけられている以上、挑戦できるのも俺たちDランクが上限なのだ。

 おそらくすぐにランクアップするのだろうが、今ならば俺たちがトップ。

 だから今のうちに俺たちが攻略していくしかない。少しずつでも上へ。



「よし、行くか!」

『おお!』



 いつまでも喜んでばかりはいられない。まだ三階層を突破したに過ぎないのだ。

 俺たちは気合いを入れ直して、四階層への階段を上った。前人未踏の階層へ。


 階段を上りきるとすぐに転移魔法陣がある。

 これはどの階層にも最初にあるもので、ここに入れば一階層の入口に行けるのだ。帰還用の転移魔法陣だな。


「あと一階か」そんな呟きが仲間から聞こえた。


 五階層まで行けば『帰還用』ではなく『往復用』の転移魔法陣があるはずだ。

 そこにさえ辿り着ければ、一階層から四階層を無視して五階層から探索を開始できる。



 俺も先輩冒険者から聞いた話だが、塔には『創る上で順守しなければいけないルール』というものがあるらしい。


 例えば『入口から宝珠オーブまでの道を塞いではいけない』とかな。

 扉やボス部屋などのギミックめいた仕掛けは許されるらしいが、完全に隔離して絶対に宝珠オーブに触れないといったことはできなくなっているらしい。


 そういったルールの一つとして『二階以上の各階層には最初に帰還用転移魔法陣を置く必要がある』『Dランク以上の塔の場合、五階層ごとに往復用転移魔法陣を置く必要がある』といったものがあるそうだ。


 俺たちは未だにどの塔も攻略したことはないが、別のDランクの塔の五階には確かに往復用の魔法陣があった。

 おそらく【女帝の塔】にもあるだろう。ないわけがない。

 だからこそ早く四階層を突破したいと、そう思うのだ。



 さて【女帝の塔】の四階層とはどういったものか。

 改めて見回すと……左方向、おそらく外壁沿いに道があり、そこ以外の入口はない。あとは壁だ。

 そこに踏み込むしかないのだが……。



「いや狭いだろこれ」

「三人横並びとか無理だな。剣を振ることを考えれば二人もきついぞ」

「まさかこの狭さの迷路が続くのか……?」



 前人未踏の四階層到達。それだけでも大戦果だ。

 しかしできれば、四階層の情報――どういった構成で、どんな魔物が出るだとか、そういった情報を一緒に報告したい。

 逆にそれがなければ本当の意味で『四階層にいった』とはならないだろう。


 だから狭かろうが警戒しつつ進むしかないのだが……。



「……おまけに上り坂になってんぞ。徐々にだけど」

「だな。探索もしづらいし、戦いづらい。なんと厄介な……」



 ついでに言えば、外壁に沿うように通路になっているから、緩やかな右カーブが延々続いているように見えるのだ。

 見える範囲では徐々に勾配がきつくなっているようにも思える。

 進めば進むほど探索しづらくなるのでは、そんな危険性も感じた。


 罠を警戒しつつなので足並みは遅いが、それでも一応は前へ。


 しかしそんな警戒を余所に、罠もなければ魔物も出てこない。

 100mくらい進んだか。ただ外壁沿いのゆるやかな坂道を上るだけだ。



 と、そこで何やら異音が聞こえた。



 ――ココココ……



「ん? なんだ、敵か?」

「警戒しろ! 何か近づいてる!」



 ――ゴゴゴゴゴゴ……



「前から何か……はあっ!? なんだありゃ!」

「玉!? お、おい、こっち来るぞ!」



 それは正面から転がって来る大きな『玉』だった。転がっているからよく見えないが白っぽい石材だと思う。

 間違いなく固いだろうし、重いだろう。

 そんな狭い通路の幅いっぱい――おそらく直径2~3m――の『玉』が下り坂を利用して迫ってきているのだ。



 ――ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!!



「に、逃げろ!!!」

「うわああああ!!!」



 俺たちは一目散に逃げ出した。下り坂を駆け下りる。

 ちょっと振り返れば迫って来る大玉。それは恐怖以外の何物でもない。

 全速力で走っても徐々に音が近づいてくる。



「魔法陣に駆け込め!!!」



 全員で一斉に飛び込んだ。

 もう大玉はすぐそこまで来ている。早く転移しろ、早く転移しろ、そう念じながら……気が付けば俺たちは一階層にいた。



「「「「はぁ~~~~」」」」



 安堵の溜息と共に座り込む。

 さっきまで四階層到達に浮かれていたのにこの様だ。今ではその先にあった理不尽な仕打ちに立つことさえ億劫になっている。



「なんなんだよこの塔は……」

「あんなの攻略できるヤツいんのか? 無理だろ、どう考えても」

「いや、攻略できない塔ってのはそもそも創れないはずだ。何かしら方法があるはずなんだよ」

「今はなんも考えられねえな。とりあえず帰って飲もうぜ」



 ああそうだ。四階層に到達したのは間違いないんだ。

 ギルドに報告すれば俺たちは一躍『時の人』だろう。チヤホヤされるに違いない。

 他の連中も話を聞きに来るだろうし、そいつらに奢らせて飲み明かしてもいいかもな。


 ま、今日だけは存分に騒ごう。

 四階層のことを考えるのも明日からだ。な!



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