59:五人の会議は話が弾みます!



■シャルロット 15歳

■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主



『シャルロットさん。貴女、一階層でエメリーさんに戦わせていますの?』



 毎日行われている夜の同盟報告会。

 その中で画面のアデルさんが言いました。



『ええっ!? 何やっとんねん!』


『えっと、その、エメリーさんってすっごくお強いんですよね? と言うか神定英雄サンクリオって一階層で戦っていいものなんですか?』


『ダメではないが普通はせんじゃろ。シャルは侵入者の全てを皆殺しにするつもりか?』


「ち、違いますよっ! そうじゃなくてですね――」



 私は皆さんに説明しました。

 ランクアップしてお城の壁画が消えてしまったから描き直していると。

 以前もエメリーさんがご自分で描いたので今回もお任せしていると。

 ただ日中に描いているので侵入者と鉢合わせることもあり、絡んで来た場合は討伐しているが、こちらから仕掛けることはないと。



『はぁ……エメリーさんの無駄遣いのような気がしますが……すでに市井に情報が流れ始めていますわよ? 神定英雄サンクリオの情報は貴重なのですから、特に戦闘能力に関してはある程度隠して頂きませんと』


「あ、はい。エメリーさんもそれは承知していますので、極力動かずにハルバード一本だけで仕留めるって感じで……」


『まぁある程度はプレオープンでバレておるからのう。本気さえ見せなければ問題はなかろうが……』


『見せてるハルバードって【魔剣】とちゃうやろな!? あれは見せたらアカンで!?』


「は、はい。普通の魔竜斧槍を一本だけです」


『その普通が普通じゃないんじゃが……まぁ魔法を使わなければまだマシかのう』



 ミスリル武器のほうがいいんですかね?

 でも見た目で「ミスリルだ」と分かる武器より「なんの鉱物なんだ!?」となる魔竜斧槍のほうが良さげに思うのですが。

 誰もあれで魔法を放てるとは思わないでしょうし、ましてや異世界の竜素材だなんて分からないでしょう。



『とにかく一階層の外壁に絵を描ききるまでは続くということですわね? 万が一はないでしょうがくれぐれもご用心を』


「はい。……で、アデルさんは市井の情報をどうやって集めているんですか?」


『塔主がバベリオの街民や冒険者と繋がっているケースなどごく普通にありますわよ』



 そう聞いて驚きました。

 塔主と冒険者は敵対する間柄です。それが繋がる……つまり協力関係にあるということですよね。


 アデルさんはメルセドウ王国出身の冒険者とも繋がりがある一方、公爵家の人員を使って街の情報などを集めているらしいです。

 それは自分たちの情報がどれだけ浸透しているかを把握する為と、他の塔の情報を集める為。

 フゥさんみたいな規格外の情報収集能力は別として、特に冒険者は様々な塔の情報を抱えているものだと。それこそ塔主であるこちら以上の情報を。


 なるほど。高ランクの塔主はそうしているものなのですね。

 だからこそ自塔の防衛対策が練れたり、塔主戦争バトルを仕掛けやすくなったりと。



『冒険者ギルドでは【女帝の塔】には死神が出ると今話題のようですわ』


『『うわぁ』』


「し、死神って! エメリーさんはどう見ても侍女ですしただ絵を描いているだけですよ!?」



 全く失礼な話です! エメリーさん、戦う時だって侍女らしくちゃんとご挨拶してますし、服を返り血で汚すような真似もしません! それなのに死神だなんて! ぷんすか!



『まぁ圧倒的な戦闘力と真っ黒なハルバードに気圧されたのでしょう。斧が鎌のようにも見えますし。誇張されている部分もあるでしょうが市井の噂などそんなものですわ』



 アデルさんは平然とそう言います。

 公爵令嬢にして神童とまで言われ続けたアデルさんはさんざん噂されてきたのでしょう。言葉に含蓄があります。



『それよりわたくしが気になっているのは、我々が【赤帝同盟】と呼ばれていることですわ』


「【赤帝同盟】?」



 【赤の塔】と【女帝の塔】の同盟ってことですか?

 いやいやいや、ドロシーさんも、フゥさんも、ノノアさんもいるじゃないですか!

 なんでアデルさんと私だけ象徴みたいになってるんです!?



『ええやん。ウチらはどう呼ばれようがかまへんで』


『そうじゃな。わしらは″その他″扱いがちょうどいい』


『わ、私も問題ないです。私なんて本当におまけみたいなものですし……』


「ダメですよっ! 私たちは五塔同盟なんですから! 二塔同盟じゃないんですっ!」



 その他扱いとかおまけとか、そんなのはダメです!

 同盟にランクとか関係ないですし皆さんの塔だって素晴らしい塔なんですから!

 ちゃんと同列に見てもらわなければ!



『わたくしとシャルロットさんが表立って隠れ蓑にするというのなら理には適っておりますが、わたくしとしてもシャルロットさんと同意見ですわ。それぞれが注目に値する塔だと思いますし、下手に侵入者を抑制する必要もないでしょう』


『せやけど世間的には【赤】と【女帝】が注目されてるやん。どうしたってウチらは″その他″やろ。別に名を売りたいわけとちゃうし』


『ひっそり隠れておきたい気持ちもあるが、ある程度の侵入者数が欲しい気もする。難しいのう。特にノノアのトコなんぞ、もっと多くの侵入者が欲しいところじゃろ』


『え、えっと、それはそれで怖いのですが、そのほうがTP的に運営しやすくなるとも思います、はい……』



 私とアデルさんを隠れ蓑にすれば注目は減る。

 それによるメリットは情報をある程度制限できるということ。限度はあると思いますが。

 侵入者の数が減れば防衛も楽になるでしょうし、塔主戦争バトルでも『隠し手札』として有効に使えます。


 しかし侵入者が少ないということはTP取得も減るというデメリットにつながります。

 御三方は名を売りたいとかランキングで上位になりたいとか、そういう考えはお持ちでないでしょうが――ドロシーさんは少し怪しいですけど――TPが欲しくないということはないでしょう。



 色々と考えはありますがともかくですね――【赤帝同盟】はないでしょう? 仲間外れしているみたいでイヤです!

 何か別の名前で呼んでもらうことはできないのでしょうか。



『でしたらこちらで名前を決めて、それを公表すればよろしいですわ。そうした同盟は他にもありますし』


『あー、なんかシャルちゃんトコに手紙送ってたアゴ貴族が変な同盟の名前つけてたなー』



 【選ばれし精鋭チューズドワン】ですっけ。痛々しい雰囲気がします。

 と言いますかアゴ貴族って……。確かに総会で見た時、とても鋭い感じでしたけど……。


 同盟の名前つけてる人って他にもいるんですね。アデルさんの口ぶりだと。

 でも宝珠オーブにそうした名前を登録する機能などないですし、それを公表するとなると……どうやるんですかね。



『冒険者に情報を流して広めさせるのも手ですが、手っ取り早いのは新聞ですわね』


「新聞?」



 バベリオの街には新聞社というものがあり、そこが発行している『バベル新聞』は塔の情報が満載。

 街民の娯楽の一つにもなっていて、冒険者の方々の情報入手手段にもなっているそうです。

 そこの記者さんが塔主へのインタビューなども行っているらしく、名を広める為の方法として率先的にインタビューを受ける塔主の方もいるらしいです。


 私の後ろにいるエメリーさんが「そういえば」と口に出します。



「毎朝、営業前に転移門の外を掃除している時によくお見掛けしますね。取材がどうとか、一言下さいとか。いつもご挨拶だけして退散しておりますが」



 エメリーさんは侵入者の方々が入る前に転移門の外を掃除して下さっています。

 塔は家と同義であり、その軒先を掃除するのも侍女の務めだと。

 あくまで職務として掃除しているので無駄口は叩かないということなのでしょう。話しかけられても挨拶だけに留めていたそうです。


 じゃあその人に「取材を受けます」と言えばいいのですかね。



『わたくしたちの情報は新聞社としても欲しいはずですわ。インタビューを受けるとなれば取材料もかなり貰えるのではないでしょうか』


『下手な受け答えはできぬぞ。わしらはあまり情報が出回っていないのが強みなのじゃからな』


『お金もなー。そない困ってるわけでもないし』


『わ、私は取材とか恥ずかしいんですが……皆さんにお任せ、は、ダメ、ですよね?』


『名を売りたいとか取材料が欲しいとかは別にいいのです。目的は同盟の名前を周知させることと――情報収集のためのつなぎですわ』


「つなぎ?」



 バベリオで塔の情報を一番持っているのは新聞社だとアデルさんは言います。

 実際に塔に挑んでいる冒険者よりも多くの情報を抱えている。

 それは色々なランクの冒険者だけでなく傭兵や騎士といったギルド外の人、そして噂話を聞く街の人からの情報を集めて記事にしているからだと。


 そこと繋がりを持っておくのは悪いことじゃない。

 あまり多用すればこちらの情報も流すことになりますが、それでも手段を持っておくに越したことはないと、そうアデルさんは提案します。



『まあ我々の同盟の名前がコレコレですよと告げるだけでも新聞社からすれば垂涎の新情報ですからね。必ず記事にするはずです』


『人気があるからのう、【赤の塔】と【女帝の塔】は』


『ウチらの情報は飛ぶように売れるっちゅーことやな』


『ひ、広まるのが早そうですね……』



 となればどう取材を受けるか、どういった情報を流すかはさておき、同盟の名前は決めておいたほうがよいでしょう。

 私たち五人の同盟。

 特徴はやはり多種族ということでしょうから――



『シャルロットさん、お考えのところ申し訳ありませんが、取材にしても記事にしてももう少し先の話ですわよ』


「えっ、そうなんですか?」



 なるべく早めに同盟の名前は周知させたいと思っていたのですが。



『今はスタンピードの件で新聞社も大忙しでしょうからね。記者の方も手がない状態でしょうし』


『『「スタンピード!?」』』



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