83:なんか色々動き出しそうな予感です!
■マグドリオ・ゲーロス 50歳
■第498期 Cランク【強欲の塔】塔主
「やめろ。そこに手は出すなと言ってあるだろう、この腐れヒキガエル」
「
「はんっ、これだからドシロウトは」
儂と言い争っているのはセリという女。儂の
幼さは残るが女性と言っていいだろう。まぁ儂からすれば小娘には違いない。
浅黒い肌に真っ黒の服。濃紺の髪は高い位置で一つに縛ってある。
口が悪く、礼儀も知らない、なんとも生意気な女だ。
儂がまだ幼い頃、大陸東部にその名を轟かせていた盗賊団があった。【黒蓮華】という一味だ。
ラッツェリア公国や隣国メルセドウ王国、また周囲の小国にまでその手を伸ばしていた。
儂の実家は公国一の商会を経営していたことから何度か狙われたこともあったらしい。
しかしいつの間にか【黒蓮華】の動きはぱったりと途絶えた。
捕まったのか、壊滅したのか、解散したのかは分からん。特に気にすることなく、記憶も薄れ、そして四〇年以上が過ぎた。
それがまさか儂がバベルの塔主に選ばれ、【黒蓮華】の頭領が儂の
そしてあの【黒蓮華】の頭領がこんな小娘だったとは思わなかった。
まぁそんな些事より【強欲の塔】という
ともかくそうして塔主となってからは
儂には戦いのことなど分からないが、我がゲーロス商会は公国一。大公以上に金を持っているのは間違いない。
ありあまる金でTPを、魔石を、情報をかき集め、財力をもって侵入者を蹴散らしてきた。
その結果がCランクという現在。まだ道半ばといったところ。
セリに関しても最初こそ侮って見ていたが、やはり
なるほど英雄クラスの隠密とはこういうことかと思ったものだ。
オープン前後は最上階まで侵入者に攻め込まれることもあったが、そのことごとくを影から奇襲して殺していた。
基本的に言う事を聞かない
で、そのセリは【女帝の塔】に手を出すなと言っている。半年も前からずっとだ。
相手はまだ低ランクだったと言うのに。
儂は欲しいものがあれば手に入れないと気が済まない
リストで召喚したい魔物がいればどうにかしてTPを増やそうとするし、儂のリストにいなければ他の塔と
【女帝の塔】がクイーン系統を量産できる塔だということは、過去の歴史から知っている。
半年前の低ランクの時点ではコストの関係で召喚できていなかっただろうが、今の躍進とランキング、そしてCランクということを踏まえれば、すでに二~三体のクイーンがいてもおかしくはない。
これで機を逃し、【女帝】がBランクになってしまった場合、こちらがCランクのままでは
だからこそ同ランクの今がチャンスなのだ。
オープンからわずか八ヶ月での急成長。クイーンを召喚して魔物を工面しているであろうことは確実。しかしまだ塔が安定しているとは言えぬだろう。隙は十分にあるはずだ。
「腐れ煮豚には何を言っても無駄だろうがな、あれをやれ新人だの、やれCランクだの言ってる時点で終わってんだよ。そもそもこっちは【風の塔】にも勝てないだろうに」
「それは【赤の塔】を含めた五塔での
「新人でも五人なら連中に勝てると? 英雄ジータなら【白雷獣】に勝てるってのか? どこまで脳みそお花畑なんだお前は」
どう考えてもあの同盟の一番の戦力は英雄ジータだろう。個人の強さではピカイチのはずだ。
それを軸に戦略を立てたから【風の塔】にも勝ち得たに決まっている。
「んじゃこう言えばいいか? あたしが寝込みを襲ったとしてジータは殺せるかもしれねえ。だがあのメイドは絶対に無理だ。そもそも近づくことすらできねえで殺されるんだよ」
「はぁ、それほどか」
セリにここまで言わせるほどとは。ならば仕方ない。
……ではどうすればクイーンが手に入るか考えるか。儂が諦めるわけがなかろう。
■シャクレイ・アゴディーノ 29歳
■第489期 Aランク【傲慢の塔】塔主
「目障りな獣どもを掃除したことは誉めてやろう」
『平民にしてはなかなかの働きかと』
『然り』『然り』『然り』
私の画面にはいつものごとく【
我らがエルタート王国の誇りある貴族たちだ。
どうやらエルタート王国の民である【女帝の塔】の娘が【風の塔】からなる獣の一派を打ち倒したと。
獣の一派……特に【風】に関しては邪魔な存在であった。
獣の分際でBランクというのも分不相応だったのだが――そもそも神聖なる塔主に選ばれること自体が不敬なのだが――何より
仮にも王の立場でありながら戦場に出て暴虐な振る舞いをするという、いかにも獣らしい王。その名は学院で習う歴史にも載っていた。
即刻殺処分したいところではあったが相手は仮にも王。こちらはエルタート王国貴族という立場がある。
貴族が他国の王族を手にかけるというのも風聞が悪いということで泣く泣く見逃していたのだ。
我らの誇りをたかが獣ごときで汚すわけにはいかない。
そこへもってきて此度の勝利は喜ばしくはある。
「しかしあの娘は未だに同盟として戦っている。穴掘りチビどもとの同盟を解消する気配がない。これは問題だ」
『平民の考えていることは理解できませんな。それが王国民の恥とも分からぬのでしょう』
『然り』『然り』『然り』
亜人もメルセドウ王国の貴族も、本来であれば視界に入れるだけで嫌悪するものだ。言葉を交わすなど考えられないし、ましてや同盟を組むなど呆れてものも言えぬ。
辺境の田舎に住む小娘だからと大目に見てきた部分もあるが……まさか間者ではないだろうな。
いや、だからこそ他国と繋がろうとしているのか? 塔主になったことを切欠に本性を表に出してきたと……。
だとすれば私が出した手紙も早計だったかもしれない。少なからず情報が流れてしまうか。
「あの娘をエルタート王国民と見るのはやめるか」
『敵である、と』
「とりあえず視界に入れないに留めるが……早めに片付けておいたほうが王国にとって良いかもしれぬ」
『おお』
その時はこちらの傭兵にも出番をくれてやろう。
いつもふらふらと遊んでいるようだからな。全く、あの異世界人めが。
■レイチェル・サンデボン 69歳
■第450期 Sランク【世界の塔】塔主
「そうですか。【風の塔】を」
まだオープンしてから一年足らず。
半年でCランクというのは滅多にあることではありません。
同じ同盟の【赤の塔】も同等の活躍を見せていることから、おそらく共に競い合い、協力し合える関係が築けているのでしょう。
しかし生き急ぎすぎです。
勢いというのは若さの特権でしょうがこのまま進めば確実に足元をすくわれる。
まだ彼女はバベルの恐ろしさを知らない。
神が創り出した無窮の営みは、麓にいたままでは理解できぬのです。
ランクが上がり、塔がバベルの頂に近づくにつれ、それは次第に見えてくるでしょう。
そして見えた時に気付いたのではもう遅い。バベルは人の世と隔絶された世界なのですから。
「ちょっとお茶にでも誘ってみましょうか」
「珍しいですね。レイチェル様がお出向きになるとは」
後ろに控えたセラが言います。
私が他の塔主と接触することはないですからね。同盟も組んでおりませんし。
数十年ずっと一人きりの
「やはり【女帝】というのは特別ですか」
「それもあります、が――」
私は背中越しにセラの顔を見ます。
「若者の道標になるのも老人の役目でしょう?」
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