84:世界×女帝お茶会、前半です!



■シャルロット 15歳

■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主



「はぁ~~~緊張しますね」


「何かありましたらフォローしますのでご安心を。お嬢様は凛としてお臨みください」


「分かりました。よろしくお願いします」



 場所はバベル一階『会談の間』。予定の時間よりだいぶ早く入室して待機中です。

 服も髪も、塔主総会並みに気合いをいれてきました。

 私は私らしく。【女帝】として臨まなければなりません。相手が誰であれ――。





『『ええええ!? レイチェルさんからお茶のお誘い!?』』


『ランキング1位……バベルの頂点じゃぞ? それがなぜ新人の小娘に……?』


『ただ戦績が目立っているからというわけではないでしょうね……。滅多にお目に掛かれるお人じゃありませんわよ』



 レイチェルさんからのお手紙を受け取った時、私は相当パニックだったのですが、同盟の皆さんに相談しようとお伝えしたら案の定驚かれました。


 レイチェルさんと言えば知らない人はいない超有名人ですし、Sランクの【世界の塔】はずっとランキング1位をとり続けていると聞きます。


 塔主になって五〇年という実績は過去にも類を見ないそうです。

 まさに生ける伝説。雲の上どころか天の上って感じのお人です。



 お手紙にはただお茶を飲みながらお話したいだけと書いてありました。戦闘意思はないと。

 フゥさんじゃないですけど、何で私みたいな新人を!? と思ってしまいます。



『いや、よお分からんけど行くしかないやん。断れる相手とちゃうし』


『で、ですよね。1位の人を怒らせちゃったらアワワワ……』


『【世界の塔】は魔力が高すぎてファムで探るのは無理じゃ。思惑を調べることもできぬが……』


『レイチェル様ほどのお人が下手な小細工などするはずがありませんわ。やろうと思えば如何様にもできますもの。普通にお会いして普通にお喋りしつつお茶をするしかありませんわよ』



 まあ国王陛下とお茶するよりも敷居は高いと思いますが、とアデルさんに後付けされました。げんなりします。

 しかし皆さんが仰るとおりお断りするわけにもいかず、お誘いをお受けしたのです。はぁ。





 やきもきしながらも心を落ち着かせることしばらく、エメリーさんが私の元を離れ、会談室の扉を開けにいきました。

 私も立たなければ。


――ガチャ



「お待ちしておりました、レイチェル・サンデボン様。どうぞお入り下さい」


「まぁこれはご丁寧に。どうもありがとう」



 入ってきたのは塔主総会で見たまま。気品のある、優しそうなお婆ちゃんといった印象そのままです。

 小柄ですし、とてもランキング1位の絶対王者という風には見えません。

 でも静かな迫力というか、目に見えない凄みみたいなものも感じます。


 そしてレイチェルさんの後ろから入ってきたのは……天使。それも六翼。

 とんでもない美人(美天使?)さんで神々しいことこの上ないです。絶対Sランクですよね、これ。

 まさかこの場に魔物を連れてくるとは思いませんでした。


 しかし表情と姿勢を崩すわけにはいきません。ちゃんとしなければ。



「【女帝の塔】のシャルロットと申します。本日はお誘いいただきましてありがとうございます」


「【世界の塔】のレイチェル・サンデボンです。こちらこそ受けて頂いてありがとうございます。どうぞお掛けになって? 肩肘張らずに楽で結構ですから」


「はい」



 そう笑顔で言われて少し気持ちが楽になりました。私は促されるまま席に着こうとして――







「失礼します。スキルのご使用はご遠慮下さい」







 エメリーさんのその言葉にギョッとしました。え? え? どういうことです?



「ああごめんなさい。人と会う時は使うのが癖になっているのです。これは『人の本質を見抜く』というものではかりごとなどをされていた場合に便利なのです。不快な思いをさせてしまいました」


「お嬢様の本質はいかがでしたか?」


「裏表のない利発な少女、そのままですね。まだ緊張が残っていらっしゃるけれど」



 えっ、エメリーさん、スキル使われたのが分かったんですか?

 って言うか本質を見抜くスキルって、それ【限定スキル】ですか?

 私はよく分からないまま置いてけぼりです。


 エメリーさんはそのままの流れで職員さんからお茶のセットを受け取り、レイチェルさんと私に給仕をします。



「シャルロットさんもごめんなさい。今はもうスキルを切っているので安心して下さい」


「いえ、私のほうは大丈夫です」


「とても優秀な方がお傍にいらっしゃるのね。少し安心しました」


「ええ。紹介します。私の神定英雄サンクリオで侍女でもあります、エメリーです」


「これはご丁寧に。こちらはセラです。侍女というわけではありませんが世話係のようなものです」


「よろしくお願いします」



 そんなご挨拶をしつつ「飲みながらお話しましょう」と言われお茶に口をつけつつ。

 私の頭は「ちゃんと【女帝】っぽくなれてるかなあ」くらいしか考えられません。



「ご活躍はお聞きしています。まだ始めて間もないですし色々と大変でしょうが塔の運営は大丈夫ですか?」


「はい。エメリーや眷属、それに同盟の皆と相談しながら進めております」


「それは良かった。周囲の支えを力とするのは【女帝】の特権です。信頼できるお仲間の助言は必ず貴女の為になりますよ。迷ったり悩んだら周囲に頼ることです」


「分かりました。ありがとうございます」



 すごく説得力があるというか、まるで占いをされているようです。



「眷属といえばクイーンは……ああいけませんね、先に言っておかなければ。今回のお話は私から誰かに漏れることはありません。まぁ話す相手もおりませんがね。それにこの場を盗み聞きするような輩もおりませんのでご安心下さい」



 レイチェルさんは私と、そしてエメリーさんの目を見ながらそう言いました。

 ようは内緒話にしようってことですかね。

 それに盗み聞きもできないって……どういうことですかね。もしされていたら分かるってことでしょうか。

 エメリーさんが何も反応してないのでおそらく大丈夫なんでしょう。



「それで眷属というのはクイーンですか? どの魔物を召喚したのです?」



 私はチラリとエメリーさんを見ます。少し頷きました。喋っても大丈夫だと。

 やっぱりこのお茶会はかなりオープンでいいってことなのでしょう。



「今はアラクネ、サキュバス、ラミア、妖精女王ティターニアの四体です」


「まぁ! もう四体ですか。塔主戦争バトル報酬もあるのでしょうが相当つぎこみましたね。それで塔運営が回っているということはおそらく始めのほうからクイーンを召喚し眷属化までさせ、眷属から配下への指示を徹底させたのですかね」


「よくお分かりですね」



 ヴィクトリアさんを召喚したのはオープン前ですからね。そこから配置している魔物への指示をお願いしています。

 正確にはヴィクトリアさん以上にエメリーさんが指導していますが。



「それに妖精女王ティターニアというのは意外です。Sランクなのでしょう? 【女帝の塔】の固有魔物は【ナイトメアクイーン】と【ドラグーンクイーン】だと思いましたが……」


「ずいぶんとお詳しいですね」


「ええ。先代の【女帝】とは盟友でしたので」


「っ!?」



 レイチェルさんが話し始めます。


 それは今から四〇年ほど前の話。【世界の塔】がまだBランクだった頃。

 レイチェルさんは四人で同盟を結んでいたそうです。


 同盟の中心だったのが、レイチェルさんの親友でもある当時の【女帝の塔】塔主、エルレットさん。

 特に彼女とレイチェルさんは低ランクの頃から共に切磋琢磨して過ごしていたらしいです。



「焦っていたわけではありませんが若さ故に過信した部分もあるでしょう。しかし確かな勝算はありました。同盟の四人が四人とも勝てると見込んでいたのです」



 その同盟戦ストルグは四塔同士。よくある代表者の一塔を使っての交塔戦クロッサー形式だったそうです。

 勝負は順調。相手はこちらを最初から侮っていたし、こちらは勝てる算段をつけていたといいます。


 防衛にも成功し、相手の塔への攻め込みも大ボスを斃して、残るは最上階にいる塔主を斃すのみ――というところで事件がおきました。



 相手の塔主がレイチェルさん陣営の魔物目掛けて突貫し、自爆したというのです。


 さらにレイチェルさんと並んで画面を見つめていたお仲間三人も同時に爆発――。



「は……? な、なんなんですか、それ……」


「眷属を相手に自爆をすると連動してその眷属の塔主をも爆発させるという【限定スキル】です」


「そ、そんな……!」



 いくら限定スキルが強力だとはいえ、自らが死ぬ前提のスキルなんてあるわけない。

 仮にあったとしても高いTPを叩いて取得するわけがない。

 レイチェルさんも当然そう思ったそうです。しかし実際にそれは起きてしまった。

 最期の腹いせのつもりなのか、敵方の塔主はそのスキルを使ってしまった。



「私の眷属はたまたま防衛側にいたので私は無事でした。しかし三人は……」


「……」


「私はそれから同盟を結んでいません。ひたすら孤独に、ひたすら限定スキルに怯えながら今まで生きてきたのです。調べ、対処し、対策し、そうした日々があっての今なのです」



 ――なんて重いのでしょうか。


 塔主としての五〇年は想像を絶するとは思っていましたが、それはあまりに困難な道のり。

 レイチェルさんは、だから今回のお茶会でのお話は誰にも言わないと。それは今も孤独を貫いているから。

 だから誰にも覗かせない。限定スキルを使われようとも対策できているから。


 ――なんて人なのでしょうか。


 ――なんて強く、なんて脆く、なんて悲しい。



 私は自然と溢れる涙を止められませんでした。



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