85:世界×女帝お茶会、後半です!



■シャルロット 15歳

■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主



「あらあら、泣かせるつもりはなかったのよ、まあまあごめんなさい」


「い、いえっ、すみませっ、ぐすっ」



 颯爽とエメリーさんからハンカチが出てきたのでお借りしつつなんとか涙を止めました。

 レイチェルさんにも申し訳ないです。いきなり泣き出してしまって。

 なんとか平常時にまで戻ったところでお茶会の再開です。



「その、お聞きしていいのか分かりませんが、限定スキルの対策というのはできるのですか?」


「どんなスキルが存在するのかまでは分かりませんので確実とは言えません。結局はその塔主が得られる限定スキルにもよりますので」



 レイチェルさん曰く、スキルというものは大きく三つに分類されると。


 1、周囲の魔力を絶えず使用するタイプ

 2、発動時だけ周囲の魔力を使用するタイプ

 3、全く魔力を使用しないタイプ


 魔法とは体内の魔力を消費するものでスキルは周囲の魔力を消費するもの、だそうです。私ふんわりとしか知りませんでしたが……。

 おそらくヴォルドックさんの<風狼の超覚>は②なのでしょう。そして発動時にファムが反応したと。



「魔力の変化を感じるならば<魔力感知>でもいいですし相応の限定スキルがあればそれでもいいでしょう。周囲の魔力を乱すような魔法かスキルなども有効ですね。それだけで予防になります」


「なるほど」


「問題は③ですが、私の場合は<悪意感知>と限定スキルを併用しています」



 <悪意感知>とは天使や神聖属性に特化した魔物に多いスキルなのだそうです。

 もし良からぬ者が害してこようものならばそのスキルで分かると。このお茶会が覗かれていたらそれも分かるということですかね。覗き、盗み聞きは悪意をもってやるのでしょうし。



 それとレイチェルさんの持っている限定スキル――【世界を見渡す目】というものらしいですが効果も教えてくれました。


 1、自塔の全ての流れが見える

 2、視界に入れた人の本質が見える


 ①は人や魔物、空気や水流、魔力まで見ようと思えば見られると。しかも塔から離れている今も塔の様子が分かるらしいです。


 ②はレイチェルさん曰く、嘘付きを見抜くようなものだと。その人の感情が見えるという感じなのだそうです。それで『本質を見抜く』と仰ったのですね。ただし実際に対面しないとダメらしいですが。


 つまり、誰かがレイチェルさんを害しようと【世界の塔】に乗り込んだり、変なスキルをもって悪さをしようとすれば、塔に入った瞬間に分かるのだとか。

 今こうして塔の外に出ている時は、セラさんのスキルと自分の視界を併用して予防・対策しているのだそうです。なるほど。



「色々と教えて頂いてありがとうございます。でもこんなにお聞きしてしまって、その、よろしかったのですか?」


「仮に貴女から漏れたとしても無駄ですからね。それこそ『塔を消滅させる』とか理不尽な限定スキルがあれば別ですけれどそうなったら防ぎようもないですし」


「ああ、なるほど……」



 ないとは言い切れないのが限定スキルの恐ろしいところ、なんですかね。

 その時は潔く諦めましょうと。



「でもなんでそんな大事なことを私なんかに……」



 少なくともバベルの頂点であるレイチェルさんが、新米塔主の私なんかにしていいお話じゃなかったと思います。

 明らかに過剰なアドバイスに思えて仕方ないのです。

 そう思っていたら、レイチェルさんは少し微笑んで言いました。



「ただの依怙贔屓ですよ」


「えこひいき……?」


「ええ、貴女はエルレットによく似ていますから」



 エルレットさん以来、約四〇年ぶりの【女帝】。それが生まれたと聞いてレイチェルさんは気に掛けてくれていたらしいです。


 そして塔主総会で見てもどことなく雰囲気が似ていると。

 その後、連戦連勝してランクをどんどん上げていく様を見て、同盟のリーダーとして皆を引っ張っていた姿と重なった。

 さらに今日、実際に会ってみたら想像以上に雰囲気が似ていた……ということだそうです。



「やはり【女帝の塔】に選ばれるのはこういう人なのでしょうね。周りがほうっておけなくなると言いますか、周りを笑顔にすると言いますか」


「わ、私には全く自覚がないのですが……」


「自覚などなくていいのです。貴女は貴女らしく真っすぐ進むべき。それに周りは勝手についてきますよ。私はそうしてエルレットについていきましたからね、うふふ」



 貴女は貴女らしく真っすぐ進むべき――そう言われて両親の遺言を思い出しました。



「ですから私の知る限りの【女帝の塔】の知識は貴女に授けようと思います。エルレットから引き継いだ私が――新たな【女帝】に」


「っ……! あ、ありがとうございますっ」


「と言ってもエルレットの【女帝の塔】と貴女の【女帝の塔】では差異もあるようです。固有魔物しかり。ですので参考程度にして下さい。あくまで貴女の塔は貴女の塔ですから」


「はいっ」





 それから時間を忘れて色々なお話をしました。

 私の今までの塔運営だったり、これからの方針、限定スキルに関するアドバイス、魔物の運用、そして同盟の皆のことも。


 今回のお茶会のことを同盟の皆さんにお話してもいいと言われました。


 魔法契約で口止めしましょうかとも言ったのですが、レイチェルさん曰くスキルで盗み聞きされた場合に魔法契約は意味がないし、そもそも盗み聞きされて防ぐ手段が今の私たちにはないのだから無駄だと。

 そう言われてはどうしようもありません。むしろ皆さんで相談しましょう。



 最後にはエメリーさんの話にもなりました。



「しかし貴女はいい神定英雄サンクリオを得ましたね。神様もよく見つけてきたものです」


「はい、本当に感謝しています」



 レイチェルさんはエメリーさんを見て言います。



「貴女もそのままでいて下さい。私を信頼しても信用せず。どうかそのままで」


「っ……ありがとうございます」



 そのまま席を立ち退出する流れになりました。

 部屋を出る前、レイチェルさんは再度エメリーさんに言います。



「それと最後に忠告しておきます。





 ――ノワールには気を付けなさい」





■レイチェル・サンデボン 69歳

■第450期 Sランク【世界の塔】塔主



「予想以上に盛り上がっていらっしゃいましたね」


「ええ、他人とこれほど話すのは久しぶりすぎて。少しは若返った気分ですよ」


「まぁ。ではもっと喋って頂くようシャルロット様にお願いしませんと」


「うふふ」



 しかし思っていた以上に有意義な会談でした。

 シャルロットさんの為人ひととなり、そしてエメリーさんをこの目で見られたことも。



「エメリーさんは素晴らしい武人・・ですね」


「ええ、あれほどの護衛はおりませんよ。敵でなくて良かったです」


「貴女が本気で戦ったらどうです?」


「真っ先に空に逃げますが……はたして逃がしてくれるかどうか」


「うふふ、恐ろしいですね、異世界の神定英雄サンクリオというのは」



 最初に「スキルを使うな」と忠告してきた時、あれは半分脅し文句だったはずです。

 彼女にスキルを使ったかどうかの判断はできていなかった。

 しかし当てずっぽうというわけでもなく、おそらくこちらの雰囲気や気配で察したのでしょう。スキルを使っているかもしれないと。


 さらに忠告と同時に強烈な殺気を飛ばしてきました。これも素晴らしい。


 いきなり「会おう」と言ってきた高ランクの塔主など信用するものではありません。

 何か裏があるだろう。いえ、裏があっても関係ない。害すれば殺すと、そういった意味の警告です。



 彼女にはシャルロットさんの剣となり盾となってもらわねば困ります。

 個人的には盾の役割を重視してもらいたいところですが。


 完璧な護衛であるならば、シャルロットさん以外の人を信用してはいけません。

 それは私も、同盟の皆さんも、そしてこれから出会う全ての人も。

 例えシャルロットさんの為に『信頼』が必要であっても『信用』は危険なのです。


 まあ、無用の心配かもしれませんがね。老人のおせっかいと受け取ってもらいましょう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る