356:【輝翼の塔】vs【隠者の塔】始まります!



■メイズワイズ 24歳

■第494期 Bランク【隠者の塔】塔主



 【隠者の塔】は二十神秘アルカナの一塔。その中でも特に″斥候″に寄っている塔だ。

 魔物は斥候系が多い。でも結構バランスがいいほうだとも思う。さすがは二十神秘アルカナだなと。


 神授宝具アーティファクトも【隠者の首飾り】というやつで、これも「存在感をなくす」という斥候めいた代物。

 若干、私への当てつけかとも思ったけど有用なのでありがたく頂いておく。

 これのおかげで街中での調査とか便利だしね。透明人間になったようなもんだ。



 でも一つ欠点なのは、うちの高ランク魔物に装備できないってことだね。サイズが全然合わないから。

 【ミラージュヒュドラ】(★S)は無理だとしてもせめて【隠魔シュルガット】(★S)には付けてもらいたかった。でもこいつは首が太すぎだし手首とかに装備させてみたけど効果ないみたいだし……融通が利かないもんだ。神授宝具アーティファクトってのも。


 シャドウアサシン(C)とかに持たせるのも怖いんで、とりあえず私専用ってことにしている。

 いずれどっかの人型魔物を召喚できればいいね。そうしたら装備させよう。



 あとは限定スキルも、いかにもって感じのラインナップだった。これは非常にありがたい。

 真っ先に取得したのが<隠模写かげもしゃ>って諜報型限定スキル。


 これは「どこかの塔の影の形を画面上に再現する」って効果なんだけど、その塔のあらゆる″影″が画面に描かれるんだよ。


 どこにだって影はつきものだし、壁の位置や、木々、魔物の配置までほとんど分かってしまう。ようは塔構成そのものを模写すると。

 さすがに罠配置までは分からないけど、なんなら影だけで魔物が特定できる場合もあるし、かなり便利なスキルだと思っている。


 ただ欠点もあって、例えば使えるのが一日一回だけであったり、影の濃すぎるところは逆に見づらくなったりと。

 暗闇階層とかね。影がありすぎて模写しても真っ黒になっちゃうみたいな。そういう場合もある。



 というわけで私の【隠者の塔】は「他の塔を非常に落としやすい塔」だという結論なんだよね。

 下調べが出来るし、斥候系魔物で攻略が楽になるし、奇襲や暗殺もしやすいと。防衛よりも攻撃向きなのは間違いない。



 そしてそんな塔をもらい、Bランクにまで力をつけた現在、次はどこの塔を狙おうかなーと思えば、答えは一つしかない。――【彩糸の組紐ブライトブレイド】だと。


 ランクも近く、今最も勢いのある塔。

 わずか三年目にして数々の偉業を為してきた、価値の高すぎる・・・塔だ。もう半分伝説だよね。


 でもいかんせん短期間で力をつけすぎてしまったせいで、仕掛けるタイミングを完全に逸してしまった。

 本当は【女帝】【赤】と狙うべきなんだけど、すでに私の手には負えない。普通に負けると思う。



 じゃあどこにしようかと調べた結果……【輝翼】しかないだろうと。



 まず【忍耐】はない。罠は大丈夫だと思うけど屋内階層ばかりで<隠模写かげもしゃ>が曖昧になる。

 その上【忍耐の天使ウリエル】は私の悪魔部隊の天敵みたいなもんだし、相性的にも良くないのでパス。


 【世沸者】は当然パス。ここと戦おうとする塔主がいることにビックリだ。少なくとも私は謎解きなんかできない。

 【六花】は私が申請したところで確実に却下だろうからパス。ある程度成長してから斃したいと思う。



 【輝翼】の場合は、全てが屋外階層で<隠模写かげもしゃ>がしやすいし、罠も少ないと思われる。


 実質全五階層で攻略が楽。ボス部屋がないからいざとなればシャドウアサシン(C)の<影潜り>で暗殺にいける。などなど狙いやすい要素がてんこ盛りなんだよね。


 デカイ飛竜がいるのは分かってるんだけど、そこはこっちの悪魔部隊をぶつけるしかないかなと。

 あとは神定英雄サンクリオの爺ちゃんか。それこそ暗殺を狙えばいけると思う。



 というわけで私は【輝翼の塔】に塔主戦争バトル申請をした。

 結果は受理。やっぱりこの同盟は一つくらいランクが上って程度じゃあ怖気づかないよね。Aランクとかも斃してるんだから。

 さあ、いっちょやりますかー。





■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 52歳 ハイエルフ

■第500期 Cランク【輝翼の塔】塔主



 【隠者の塔】は昨年Bランクに上がった時にもチェックしたし、シャルが塔主戦争バトル申請した時にもチェックした。

 今となっては闇の魔力が強すぎてファムでも見切れていない部分もあるが、大体の陣容は分かっておる。


 【影の塔】とまでは言わないが、それに近い塔であることは間違いない。

 あっちはBランクのトップで、こっちはランクアップしてまだ半年じゃから当然差はあるが、【隠者の塔】が二十神秘アルカナであることを踏まえればそこまで差はないとも思っておる。



 限定スキルについても大体は掴んでおる。

 他塔の塔構成をおおまかに掴むことの出来るものだとな。画面にその塔の様子が黒く表示されるようじゃ。それはファムで確認した。


 つまりメイズワイズはわしの塔構成を見て「これならば勝てる」と思ったわけじゃ。

 おそらく虹竜アイダウェドブリングの存在も知っていて、それも斃せると。

 確かに【隠者】の悪魔部隊にはSランク固有魔物もおるし、竜が相手ならば勝てると思ったのかもしれぬ。悪魔は竜に相性が良いしな。



 そういったことを踏まえ、わしは色々と考えた。

 同盟の皆とも相談をした。一応クラウディアにも聞いておいた。

 忙しいとは思うがのう。事後報告というわけにもいかんし。


 で、作戦を決めて、申請を受理したと。

 塔主戦争バトル当日、わしは塔構成を少し変更し、そのまま挑んだわけじゃ。

 一応相手の限定スキル対策じゃな。まぁ変更した後に覗かれればバレるんじゃが。



――カラァン――カラァン――



『二人とも準備はいいかなー?』


「うむ」『はい』


『じゃあ始めようか! 交塔戦クロッサー! 【隠者の塔】対【輝翼の塔】! 塔主戦争バトルスタートっ!』



 転移門から入ってくるのは【隠者】の攻撃陣。

 指揮官はやはりSランク固有魔物の悪魔じゃな。そしてシャドウデーモン(A)が率いる悪魔部隊が主力となる。

 そして地上を歩くのは斥候部隊のみ。なんとも極端な陣容じゃな。


 斥候以外は悪魔で賄えるというわけじゃ。物理攻撃・魔法攻撃・回復・壁役・飛行、その全てがCランク以上の悪魔で部隊化されておる。


 【輝翼の塔】は『鳥の塔』だからして飛行系魔物が戦いやすい構成になっておる。その恩恵を敵も受けるわけじゃな。

 そういったこともわしの塔を狙う要因の一つであったのは間違いない。



 【隠者の塔】と戦う上で考えなければならないポイントはいくつかある。


=====

①悪魔の対処

②暗殺の対処

③暗闇階層と奇襲戦術の対処

④ヒュドラの対処

神授宝具アーティファクトの首飾りの対処

=====


 細々したのは他にもあるが、大きくはこの五つ。

 このうち、わしが防衛側として考えるのは①と②じゃな。


 神授宝具アーティファクトが攻撃側の眷属に持たれていたらどうしようかとも思っておったが、とりあえずなさそうで安心した。となれば⑤はメイズワイズと直接相対する時だけ気を付ければいいじゃろう。



 さてまずは【①悪魔の対処】に関してじゃが、これはもう神聖魔法をぶつけるしかない。

 闇以外の属性魔法も一応は効くがそもそも悪魔は魔法防御が高いのじゃ。飛行する悪魔に物理攻撃というのも無謀じゃし、順当に考えるならば神聖魔法一択となる。


 これでうちに天使がいれば楽なんじゃがのう、残念ながら変態爺しかおらん。

 となればガルーダ(A)やヴィゾフニル(B)に頑張ってもらうしかないということで召喚は多めにしておいた。

 ヴィゾフニルあたりは序盤から仕掛けさせようかと思っておる。



 次に【②暗殺の対処】じゃが、おそらく【隠者】は【影】と同じようなことをしてくると思っておる。

 <影潜り>が出来るシャドウアサシン(C)もいるし、シャドウデーモン(A)や指揮官の固有魔物が<影潜り>を持っていてもおかしくはない。


 指揮官が潜ればすぐに分かるが、影に潜んだ状態で侵入してくることも考えられたので、そこはファムに調べてもらった。

 ターニア様ほどの<魔力察知>ができぬファムであっても、さすがに影に接触するほど近づけば分かるわけじゃ。

 案の定、いくつかの影に別の魔物の反応もあったらしいのでそこは用心しておこう。


 一応対応策としてシャルが使っていた照明罠の部屋も用意しておいた。

 明かりをつけるだけの設備なら罠の少ない【輝翼の塔】であってもさすがにあるからのう。居住エリアに照明は使っとるわけじゃし。

 それも込みで【②暗殺の対処】というところじゃな。



 単純に地上の斥候部隊を削るというのは特に問題がないと思っておる。

 普段の塔運営の延長線じゃしな。塔構成と魔物だけで対処はできると。

 だから地上で気を付けるべきは″影″だけじゃ。空の問題に比べれば大したことはない。


 さて、そういったことを踏まえてわしがどう戦うのかと言えば、もちろん完全防衛策じゃな。

 最近はお決まりのような感じじゃが、【人形の塔】戦で実践しておいて良かったと思う。

 本来は【隠者の塔】のような相手に用いるべき戦術じゃからな。



 言うまでもなく【隠者の塔】は格上であり、防衛よりも攻撃に重きを置いている。

 対して『鳥の塔』である【輝翼の塔】は敏捷と魔法攻撃が強みで、物理攻撃と防御力が弱い。


 正面から戦ってしまっては力負けをするし、攻撃陣に割く戦力もない。

 というわけで完全防衛策しかないんじゃよな。どう考えても。


 こればかりは同盟の皆も、クラウディアも同意しておった。「守るしかないですよね」と。

 どう守るか、というと色々考える所も多いのじゃが、基本方針としては防衛に徹する以外にない。



 今回はわしも殲滅戦などする余裕などないぞ。緻密で神経を使う戦いを長時間行うことになる。

 我慢比べじゃな。果たしてメイズワイズはわし以上に我慢強いかのう。


 五十年を隔離され続けたハイエルフに勝てるものか、勝負してみようではないか。



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