357:フゥさんはいつも通り策を練っています!
■メイズワイズ 24歳
■第494期 Bランク【隠者の塔】塔主
【輝翼の塔】は<
現在の最高到達点は五・六階層の『雪原』。ここまでの詳細な情報は入っている。
で、<
まず一、二階層は『霧の森』。侵入者の間ではここからすでに難しいと噂になっている。
まず森自体がいわゆる『迷いの森』の塔構成になっていて、斥候スキルだけでは対処ができない。
その上で霧がかっているから目視も苦労をすると。
入ってみればその通り……というか聞いていた以上に霧が濃い。これは
木々の上まで霧がかっているから飛んでいる悪魔部隊も察知系スキルを持っている悪魔だけで対応を迫られた。
地上の斥候部隊にとってはなんてことないけど、単純に『迷いの森』で思うように進めない。なんとももどかしい行軍だ。
そうしているうちに魔物が襲ってくる。
自分の庭とばかりに木々の隙間を飛び交い、魔法を放っては逃げていく鳥たち。
飛んでいる悪魔にも森の中から魔法を放たれていた。で、撃っては逃げ、撃っては逃げと……これは素直に運用が上手すぎる。
しかも聞いていた限りだとハイフェアリー(C)スパルナ(C)エアリアルクロウ(D)あたりの魔物が出るはずだったのに、ヴィゾフニル(B)まで出て来る始末。それらが四方八方から襲って来てはヒットアンドアウェイを繰り返して来る。
対悪魔用で配置したに違いない。神聖魔法使いのBランクなんて最序盤で出していい魔物じゃないし。
出来れば無理矢理でも攻撃してヴィゾフニルを斃しておきたかったけど、そうすると地上の斥候部隊が置き去りになってしまう。
だからシュルガット(★S)は隊列を崩さないよう気を付けつつ、防御を固め、遠距離攻撃のみで対処していた。
でも一方的に攻撃されるだけなんだよね。
向こうはどうやって霧の中で感知しているのか、直線的に襲って来て、魔法を撃っては逃げるだけ。
こっちが視認してから迎撃したんじゃ、その時にはもういないんだよ。
結局、地上の斥候部隊が苦労して『迷いの森』を抜けるまで、一方的な展開は続いた。
ある程度はデビルプリースト(B)に治させたけど全部は無理だ。ちまちまと削られる結果となった。
続く三・四階層の『渓谷』。ここは最近改装があったのを侵入者の情報と<
一つは地面から鋭い岩棘が出るようになった。定期的にザクザク出て来るような場所がいくつかある。
もう一つは川を渡るように細い岩の橋を進む場所があるということ。
この橋が結構厄介らしく、高さ10m、長さ30mほどの道を進まなくてはならないようで、落ちれば川の急流で死ぬのだとか。
おそらく河口にあたる壁付近に何かしらの罠が設置されているのだと思う。
流されて、身動き取れずに、どうやっても罠にかかる仕組みなのではないかと……恐ろしいもんを創るよね。
まぁ飛んでいる悪魔部隊には無意味だし、斥候部隊だけ気を付ければ問題はない……と思ってたんだけどね。
まず岩棘が突きだして来る罠だけど、これはもう単純にめんどくさい。
突き刺さってダメージを負うとかはないんだけど、行軍の足が止まるし、そこを狙うようにして鳥が襲ってくる。
それもシルバースワロー(D)とかランクは低いけど速さだけはあるみたいな鳥が油瓶を持って体当たりしてくるんだ。
悪魔部隊が狙われたんだけど、もちろんある程度はヤったよ? でも全部を斃すなんて出来ないし、何回も群れで飛んでくるもんだから、結構な数の悪魔が油まみれになった。
これじゃ翼だって動かしづらいし飛行に支障が出る。
手の込んだ嫌がらせって言うか、TPの無駄使いに思えたけど、それがまさか後の布石になってるなんてその時は思わなかったんだ……。
やがて部隊は三・四階層後半の橋にまで来たんだけど、その橋も油まみれになってた。こんなの情報にない。
地上の斥候部隊は仕方なくそこを歩くしかないんだけど、横殴りの風と足元の油でなかなか思うように進めない。ツルッと落ちる魔物もいた。
悪魔部隊が風よけになったり、何体か掴んで橋を越そうと思ってたんだけど――そこにハイフェアリー(C)の群れがやってきた。
風上から、そして<火魔法>を連発して……。
油まみれの悪魔も、斥候部隊も、何なら橋ごと燃やされた。
魔法防御の高い悪魔も火だるまになればダメージを負ってしまう。……って私は初めて知ったんだけど。
死なないまでも火を消すのに躍起になったり、暴れたりで、部隊は大混乱に見舞われた。
斥候部隊なんか全員が川に落ちた。そいつらの影に隠れていたシャドウアサシンとかも全部だ。丸ごと持っていかれた。
さらに追い打ちをかけるようにガルーダ(A)の群れまで現れる。混乱を静めることを許してくれない。
悪魔部隊に対して神聖魔法を連発され、シュルガットは急いで階段に向かうよう攻撃陣に指示を出した。
この時点で攻撃陣の総数は百前後まで減っていた。
ここまで減らす予定じゃなかったのに……とんでもない策士だったんだな、【輝翼】のフッツィルは。
そうして悪魔部隊だけになった攻撃陣は、五・六階層へと進む。
調べていたとおりの『雪原』……だったのだが……猛吹雪だ。こんなの聞いてない。
地上部隊ならば相当苦しいだろう。雪道に足をとられ、猛吹雪で視界を奪われ、身体を凍えさせながら進むしかない。
でももう飛行部隊しか残ってないんだよ、うちは。
じゃあ楽かと言われると全く楽じゃないんだけど。
鳥部隊のヒットアンドアウェイがまた始まったんだ。
今度はコールドコンドル(C)、ブリーズイーグル(B)、フレスベルグ(A)など氷雪地形に合わせた鳥部隊が四方八方から襲ってくる。
迎撃にと悪魔たちも魔法を撃ちまくりつつ、とにかく前進と先を急いだ。
階層の後半には固有魔物と思われる虹色の大鳥も現れた。
でもそいつも正面から戦いに来るわけじゃない。ヒットアンドアウェイだけをひたすらやってくる。
徹底していた。徹底して削りにきていた。まさかド派手な【
私は甘く見ていたと痛感していた。
【
でも本当はそれどころの騒ぎじゃなかった。偏った塔構成と魔物を巧みに使う策士だった。
これのどこが四番手なのさ! 500期じゃなかったら余裕で1位じゃないか!
どうにかして逃げ込んだ七・八・九階層。すでに魔物も七十体ほどで、魔力も大きく消費していた。
でもこの階層にいるのは飛竜一体だと<
そいつを斃すか、シャドウデーモン(A)に<影潜り>をさせて最上階に行かせれば勝ちだ。
最上階は最上階で玉座の前が森みたいになってたり、そこに精霊とかがいるらしいんだけど<影潜り>で近づいてしまえば問題ない。
竜を斃したシュルガットたちが乗り込んでも同じだ。
だからとりあえず飛竜を何とかしてから――
『ギュアアアァァァアア!!!』
それは悪魔部隊が森の上を飛んでいる時に聞こえた。飛竜の咆哮だった。
警戒、威嚇、すぐにそんな単語が頭に浮かぶが、どうやらそれどころの騒ぎじゃないとすぐに分かった。
シュルガットが眷属伝達で言ってくるのだ。
「えっ!? <影潜り>も<統率>も<付与魔法>も消えた!? 魔法も使えないって!?」
じゃあ何か!? あの咆哮にはスキル無効と魔法無効の効果があるっての!? そんなでたらめな竜がいるの!?
しかも森から何か出てきたし! 何あれ、ヴィゾフニルの群れ!? 森に隠れてたの!? だから<
■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 52歳 ハイエルフ
■第500期 Cランク【輝翼の塔】塔主
「うーむ、想定以上に上手くいきすぎてて怖いのう……」
「素直に喜ぶにはちと早いですな」
一・二階層『霧の森』でのヴィゾフニル投入は多数召喚した一部のヴィゾフニルを七・八・九階層から移動させたものじゃ。
悪魔部隊をどうしても削りたかったからのう。
元よりある程度は回復されると思っておったし、戦果はそこまで見込んでおらぬ。ヴィゾフニルが落とされなかっただけでも大戦果じゃ。
三・四階層『渓谷迷路』はすでに改装自体は終わらせておったが油を使うのは同盟の作戦会議で出たものじゃな。
【女帝の塔】でもやるらしいが【輝翼】でも試して欲しいと。
シルバースワローにTPで購入した油瓶をくくり付け、突貫するように指示をしたのはイカロス(★A)じゃ。
今回はこの階層に配置させておった。表には出さぬがな。
これの戦果が思いの外良かった。油もなかなか侮れんのう。レイチェル殿が言うだけのことはある。
五・六階層『樹氷雪原』は猛吹雪にしたくらいじゃな。天候を設定するのは訳ないし。
いつもこの調子じゃ侵入者なんぞ寄り付かなくなるから
あとは
ここで地上部隊が残っていれば″影″の後始末も含めて
運良く三・四階層で消えてくれたのでお役御免じゃ。あとは【隠者の塔】に攻め込む時に頑張ってもらおう。
そして七・八・九階層『森奥の広場』じゃな。ここはもう
ネクロトレント(★A)も飛行する悪魔には相性が悪いしのう。
それよりも<虹竜の咆哮>が刺さるに違いないと思っておったし。
悪魔は竜に対して相性が良い、これは定説なのじゃが<虹竜の咆哮>はそれを覆す。
<統率>の消えた部隊、<魔法>をかき消す咆哮、そうなれば悪魔の部隊と言えども力は相当失われたと見てよいじゃろ。
さらにヴィゾフニルの神聖魔法が周囲の森から放たれる。
七十体からなる悪魔の群れは確かに恐ろしい。Sランク固有魔物までいるのじゃから厄介なことこの上ない。
しかしこの場においてはさほど危険には思えぬ。
弱体化された状態で、弱点属性の集中砲火に加え、Sランク固有魔物の飛竜と戦わねばならぬからのう。
結果は火を見るより明らかじゃ。
せっかく最上階の『楽園』に照明罠の部屋を用意しといたんじゃがのう……これは出番なしじゃな。
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