358:【隠者の塔】戦決着です!



■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 52歳 ハイエルフ

■第500期 Cランク【輝翼の塔】塔主



 わしは【隠者の塔】の第二陣が来るのを待っておった。

 途中での増援もありえたし、攻撃陣が壊滅したあとも攻めないことには【輝翼の塔】は落とせんのじゃから攻めてくるじゃろうと。元より【隠者の塔】は攻撃寄りじゃしな。


 しかししばらく待っても第二陣が来ない。

 Sランク固有魔物は喪っても悪魔はまだまだいるはずなのに、それでも第二陣が侵入してくることはなかった。


 本当は【輝翼の塔】で限りなく魔物を減らしてから攻めたかったんじゃがなぁ……こうなるとわしが攻めるしかなくなる。



 わしはすぐに攻撃陣を編成した。

 地上部隊はゼンガー爺とフェンリルフィルフのみ。

 飛行部隊はイカロス(★A)を指揮官にフレスベルグ(A)ヴィゾフニル(B)グリフォン(B)ハイフェアリー(C)ステュムパリデス(C)ブライトイーグル(B)スパルナ(C)など、とにかくCランク以上の鳥部隊をかき集めた。


 虎の子の炎貴精サラマンド(A)陸貴精ノーマ(A)天貴精マルト(A)空貴精シルフス(A)まで出しておる。


 それほど出す必要があると思ったし、そうしなければ勝てない相手でもある。

 攻撃陣の壊滅は予想以上に上手くいったが、だからといって【隠者の塔】の攻略がすんなりといくわけがない。


 相手は九年目のBランク、二十神秘アルカナの一塔なんじゃからな。



 先に挙げていた【隠者の塔】と戦う上でのポイントは、まだ全てを考えておく必要がある。


=====

①悪魔の対処

②暗殺の対処

③暗闇階層と奇襲戦術の対処

④ヒュドラの対処

神授宝具アーティファクトの首飾りの対処

=====


 【①悪魔の対処】に関しては今まで通りの戦い方を継続する。要となるのはヴィゾフニル(B)の神聖魔法じゃろうな。


 【②暗殺の対処】というのも残っておる。攻撃陣が壊滅していても、それこそ<影潜り>などで気付かぬうちに侵入されているということもありうる。

 というか、メイズワイズはそれを狙ってわしに【隠者の塔】を攻めるよう仕向けているのではないかと。


 ファムに見張らせているので問題はないと思うが、一応彩鳥シムルグエァリス(★A)に『樹氷雪原』の警戒と、虹竜アイダウェドブリング(★S)に『森奥の広場』の警戒をさせておる。

 最上階の照明部屋も扉は閉まっておるしな。易々とわしの元までは来れんはずじゃが油断はならんな。



 問題はここからじゃ。まず【③暗闇階層と奇襲戦術の対処】。


 うちの斥候はハイフェアリー(C)になるのじゃが、あいにくと<魔力感知>しか使えん。

 <罠察知>持ちはいないし、あとは<危険察知>くらいしか罠の対処はできん。

 まぁ地上部隊がフィルフだけなので頑張って避けてもらうか、いざとなれば回復を頼りに進んでもらうしかない。


 暗闇階層については<照明>で何とかするしかない。鳥は<暗視>持ちが限られるからのう。

 あとは奇襲戦術じゃが……<魔力感知>でどこまで対応できるかのう。


 【隠者】の斥候系魔物は高い敏捷でもって近づき、物理攻撃で仕掛けて来るというのが多いはずじゃ。

 近付く前に気付いて迎撃、というのが理想なのじゃが全てが上手くいくとは思えぬ。

 悪魔などは魔法攻撃もするしな。そうなるとまた対策もしづらい。



 そうして十四階層まで辿り着いたところで最終関門、Sランク固有魔物のヒュドラがお出迎えというわけじゃ。


 おそらく悪魔部隊と徒党を組んで待ち構えているじゃろう。

 こちらにはSランクの魔物すらおらぬ。ヒュドラ一体を斃すだけでもかなり苦戦するじゃろう。

 その上で悪魔部隊と同時に戦うというのは、もう自殺行為と同じじゃ。


 これをどうするか……というのも事前に同盟で話し合っていた。

 【隠者の塔】は攻め落とすのが難しいからこそ完全防衛策で出来る限り削りたかったんじゃからな。

 どの道、厳しい戦いになるのは変わらぬ。やれることをやるしかないわ。





■シャルロット 17歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



 【輝翼の塔】は防衛が強く、攻撃が弱い。

 【隠者の塔】との塔主戦争バトルはそれが色濃く出た戦いだったと思います。


 【隠者の塔】は【影の塔】と同じように斥候系魔物を活かした塔構成と罠配置をしていました。

 ドロシーさんほど罠の使い方が巧いというわけではないと思いますが、九年間で培ったノウハウというのはやはり大きいのだと思います。探索のしづらい塔には違いないと。



 屋内階層ばかりで鳥には不向きですし、暗闇階層もそうです。【輝翼】と相性が悪い。

 そこを速度重視で無理矢理突破していく感じですね。


 罠はフィルフさえ気を付ければ、あとは背中に乗っているゼンガーさんと飛行部隊だけなのでどうにかできます。

 魔物の対処は魔法でどうにかするしかありません。消費がキツイですが。

 塔構成も、現状の細かい修正箇所は分からないまでも以前にファムで調べたことがありますので、大まかには分かります。順路を完璧に、とはいきませんけどね。



 ともかく、そうしてゼンガーさんたちは【隠者の塔】を駆け抜けました。

 後に分かったことですが、どうやら【隠者の塔】は魔物の総数が比較的少なかったようです。

 それもそのはずで、自塔のSランク固有魔物を二体も召喚していますからね。眷属化はどうだか分かりませんが。


 Bランクに上がって一年足らず。いくら二十神秘アルカナが人気があると言ってもSランク固有魔物二体というのは過剰戦力に違いありません。


 【竜翼】とかはCランクでSランク二体を持っていましたが、あれは人気に加えてお金をつぎ込んだ上でのことです。それでも魔物の総数で言えばやはり少ない部類だったでしょうし。

 普通に考えればSを一体か、S一体とA一体。Bランク下位の塔が持つ固有魔物なんてそんなものでしょう。


 ……まぁ私たちが異常だという自覚はあります。

 私だってSランク固有魔物四体で皆さんに散々言われてますしね。やりすぎだと。



 話を戻しますが【隠者】のメイズワイズさんは攻撃陣として送り込んだ部隊に相当力を入れていたと。

 だからSランク固有魔物に加えて高ランクの悪魔なども組み込んでいたわけです。


 もちろん攻撃陣に組み込んでいない魔物もいます。

 【隠者の塔】はゴースト系の魔物も多いですから、例えばルサールカ(A)であるとかスペクター(A)であるとか。

 あとは擬態系の魔物も多いのでミミックファング(A)であるとか。

 まぁそれこそ<魔力感知>や鳥部隊の魔法攻撃が刺さるのですが。



 ともかく【隠者の塔】に残る高ランク悪魔というのは数える程度しか残っておらず、それら全ては十四階層に集められたわけです。Sランク固有魔物のヒュドラと共に。


 ヒュドラは擬態系の魔物のようで、自身の姿を消すと言うか、景色に馴染ませるように変化する魔物でした。

 あの巨体で擬態されても丸わかりじゃないかと思うのですが、それはそれとしても強敵には違いありません。



 敵主力部隊をどうやって斃すのか、事前に私たちでも話し合いました。


 一つは、彩鳥シムルグエァリスを無理矢理連れて行くという案。

 これは以前に【輝翼の塔】で階層移動をさせていたところから着想を得ましたが、さすがに【隠者の塔】の屋内階層が狭すぎるというので断念。洞窟とか迷路とか無理ですしね。


 一つは、ヒュドラに対抗できる魔物を召喚しておくという案。

 【人形の塔】の報酬の【人狼王ガストン(★S)】とかですね。

 しかし活かすためにはウェアウルフ部隊を大量に召喚する必要があるのと、それを置く場所が【輝翼の塔】にないということで却下。


 一つは、十三階層の最終地点を拠点とし、悪魔部隊を釣っての各個撃破。その後、ヒュドラに全軍で仕掛けるという案。

 シルビアさんが【黄砂の塔】でやったような感じですね。

 しかしヒュドラが十三階層への階段に向けてブレスや毒液、酸液を吐かれたら堪ったものではないということで却下。



 最終的に出した結論が――斃さない、という案です。

 悪魔もヒュドラも戦う意味がない。敏捷で勝っているのだから十四階層を通り抜け、さっさと最上階の宝珠オーブを壊そうと。


 もちろん悪魔とヒュドラの足止めは必要ですし、ある程度は正面から戦う必要があります。ヒュドラなんて階段の前に陣取っているわけですからね。


 しかし鳥くらい通るスペースはあるわけですし、抜けてしまえばもう勝ちです。

 数と速度で勝る鳥部隊に、大きなヒュドラと少数の悪魔だけでは完全な対処などできません。



 普通に戦っていればヒュドラと悪魔の圧勝だったと思います。ゼンガーさん一人ではどうにも出来ないでしょうし。

 せめて私の塔の『ダンスホール』のように、決戦場と階段の間に扉がある状態であったら、また話は違ったでしょう。


 でもメイズワイズさんは十四階層をただの大広間にしてしまった。それが敗因だと思います。



 神授宝具アーティファクトの首飾りは最後まで効果が分かりませんでした。警戒はしていたのですが。

 鳥たちが遠距離から魔法で宝珠オーブを砕いてそれで終わりです。

 メイズワイズさんも相当慌てていたようですし、使う暇がなかったのかもしれません。


 終わった時にはフゥさんの攻撃陣も半数近くを喪っていました。ランクの低い鳥ばかりではありますが、苦戦したのは間違いありません。

 Bランクの二十神秘アルカナですからね。さすがに厳しそうでした。



『いやぁ、今回の塔主戦争バトルは色々と勉強になったのう』


『強みも出たけど課題も出たちゅう感じやな。ウチらとしても考えさせられた部分もある』



 例えば斥候の重要さ、怖さ。これは私と【影の塔】の時にも話に出ていましたが、改めて感じたところでしょう。


 【輝翼の塔】はボス部屋なしで最上階まで侵入できる塔ですから(今は扉で塞いでいるらしいですが)そうなると暗殺が怖いですし、フゥさんがやったように無理矢理抜けられるのが怖い。

 となると塔構成から見直す必要があるという結論になるわけです。


 【隠者の塔】の攻略に関しても地上部隊が多ければもっと苦労したはずですしね。

 ちゃんとした斥候部隊は必要になってくるのですよ。これからは特に。

 おそらくフゥさんは【隠者の塔】の魔物を召喚するんじゃないですかね。どう運用するのかは見物ですが。



『個人的には【輝翼の塔】の防衛の仕方が参考になりましたわ。地形と罠、それと油。別のアイテムでもいいかもしれませんけど、そもそも魔物にアイテムを使わせるという発想がありませんでしたからね』


『私が塔に挑んでいる時にもそのような戦術など見た事がありませんでした。TPで得た武器を装備させるというのはあったのかもしれませんが……』


『か、考えてみれば回復薬を持たせて使わせるとの変わりありませんものね……市販のアイテムとか買っておくのもいいかもしれません』



 油まみれにして行動阻害をしつつ、<火魔法>でダメージを与えるというのは【女帝の塔】でやろうとしていたことです。

 今回はフゥさんに提案し使ってもらったわけですが、予想以上の戦果を挙げました。

 フゥさんはそこに橋と風を組み合わせてさらに凶悪にしたのですがね。それでも有効だと分かったのです。


 塔主戦争バトルにおけるアイテムの活用というのは考えにくい戦術だと思います。

 バベルの塔主戦争バトルというものは強い魔物を召喚してぶつけ合うものですし、それが王道でもあります。

 だからこそ意表を突けますし、高ランクの塔が相手でも有効なのではないかと思うのです。


 今度、何か使えそうなアイテムを考えてみるのもいいですね。

 冒険者の方々が使っているものや、何なら日用品でもいいかもしれません。使えそうなら使うべきですから。

 私も今度、街に行った時にでも色々とお店を覗いてみようかな、と考えています。



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