359:獣人同盟が動き始めました!
■ズゥリア 31歳
■第490期 Cランク【熱線の塔】塔主 獅子獣人
【
はじめに【輝翼】から来て、その次は【忍耐】だ。
正直、受けちまうべきかと相当悩んだ。特に【輝翼】はな。
ヤツらはとにかく目立ち、とにかく人気がある。ついでに言えばTPも豊富だろうし魔物だって選び放題だ。
俺じゃなくたって狙いたいヤツらは多いだろうし、戦えるんなら戦いてえさ。
ただここ二年の戦歴を見るだけでも常軌を逸した強さを持っていると分かる。
ランクやランキングじゃ計れない何かがあるはずだ。
だからこそ戦いたい気持ちを抑え、俺は渋々却下をした。
その後、【輝翼】がBランクの【隠者】を斃したことで一応は自分を納得させた。
ああ、やっぱり受理しなくて正解だったなと。
【隠者】なんか俺の何倍も強いだろうし、やはり【輝翼】はそれを打ち破るほどの力を持っているってことだ。
……まぁ【隠者】は俺の四年も後輩なんだけどな。それでも強いってのは知ってたから。
『じゃあヤツらのことは放っておくってコトっすか? 勿体なくないっすか?』
『個人的にはヤツらに一泡吹かせたいんですけどね』
画面をつなぐのは【息吹の塔】のガウアハルと【鬼面の塔】のゾル。共にDランクだ。
俺たちは獣人同士の三塔同盟を結んでいる。
ガウアハルは誰よりも野心が強い。それは獣人として素晴らしい才能だと思う。
上を目指す、力を求めるってのはバベルの塔主としても必須のものだしな。
ただ若干バカなのが玉に瑕だ。勢いだけで突っ走りそうになるのを俺が止めたなんてことも一度や二度じゃない。
そんなガウアハルが【
価値がありすぎてお宝にでも見えているのだろう。
まぁそのお宝を手に入れる前にどれだけ苦労するのかって話なんだが。
ゾルは別の意味で【
こいつは500期のプレオープンで6位。百人もいた新塔主の中で堂々たる成績を収めた。
しかし世間の目は上位四塔、【赤】【女帝】【忍耐】【輝翼】に注がれた。
さらには500期の中で最弱の獣人塔主である【世沸者】まで引き入れた。ゾルより断然弱かった狐のノノアがあっという間に追い抜いたのだ。
今じゃ「500期と言えば【
これにはさすがに同情しちまう。ゾルじゃなくても怒るだろう。
「一泡吹かせるっても
『かぁーっ! そう言っていっつもチャンスを逃してんすよ。指咥えて待ってるだけじゃあっと言う間にヤツらははるか上っすよ』
こいつは……だったら何をどうすれば勝てるのか説明してみろってんだ。
いつも根拠のない自信でイキってるだけだからな。
そんなに言うなら勝手に挑んで来いとでも言いたくなってくる。
『俺としちゃ、まず【六花】からかと思います。削りつつ力をつけて、次は【世沸者】か【輝翼】に』
「【六花】とそれ以外の差が大きすぎじゃねえか?」
『そしたら別の塔でも潰しますよ。じゃないととてもヤツらを潰すなんて出来ない。こっちから仕掛けないと永遠に野放しのままですから』
『おおっ! いいぞ、ゾル! 俺も賛成だ! 一緒にぶっ殺そうぜ!』
ったくこいつらは……。
こりゃもう俺がいくら止めても無駄だな。
まぁいい。こいつらが【六花】と戦うってんなら俺はその様子を観戦できる。
だったら俺の勝率も高まるはずだ。確実にチャンスになるだろう。
仮に【六花】が負けても俺たちが同盟として名を挙げることになるしな。どっちに転んでも美味い。
せいぜい頑張ってもらうか。俺はただ応援させてもらうぜ。同盟としてな。
■シルビア・アイスエッジ 23歳
■第501期 Dランク【六花の塔】塔主
「――という感じで二塔同時に申請が来たのですが」
『珍しいですわね。まぁありがたく享受すべきだとは思いますけれど……【熱線】はどうするのですかね。高みの見物のつもりでしょうか』
突然の一報に驚いたのは、【輝翼】対【隠者】戦から十日ほど経った頃のこと。
【息吹の塔】と【鬼面の塔】という二塔が私に対して
二塔は共にDランク。それぞれ七年目の141位と三年目の198位。
Cランクの【熱線の塔】と三塔同盟を組んでおり、三塔全て獣人塔主となっている。獣人同士の結束というわけだな。
【鬼面の塔】に関してはアデル様がよく存じていた。
何せ同期のプレオープン6位。【赤】【女帝】【忍耐】【輝翼】【正義】【鬼面】の順だという。そう聞くととんでもなく強く感じるが、現状は198位ということで大差がついている感は否めない。
とは言え、獣人塔主の既出の塔で6位という成績はアデル様にとっても異常に高いと感じるほど。
おそらくまともな塔構成と討伐に拘った結果に加え、人気が上位五塔に集中したことなどが原因なのではないかと推測している。
逆に言えば、それくらいしか思いつかない、のだそうだ。
『三塔同盟で二塔だけ仕掛けて来るってのもおかしな話やな。【熱線】が手下を使って下調べでもさせとるんか?』
『それで「はい調べます」ってなりますか? 弱みを握っているとか、精神操作してるとか……』
『げ、限定スキルで同盟の塔に仕掛けさせてるってことですか……? そんなのありえますかね……』
『まぁファムで調べてみるしかあるまい。どちらにせよ受けるんじゃろ?』
「そうですね。皆さんのほうで問題なければ受けようかと思っています」
三塔同盟で二塔同時申請というのが引っ掛かっていたからな。
誰だって怪訝に思うポイントだ。しかしそこがクリアできるのであれば受理するべきだと思っている。
私とてTPは欲しいし、少なくとも以前に戦った【黄砂の塔】よりも安全だろうからな。
「しかし二塔同時に申請された場合、受理の仕方はどうするのです?」
『片方受けて
『二塔目に逃げられる前にってことやな。どっちを先にするかはシルビアちゃんの好みでいいと思うけど』
なるほどな。一塔目と戦っての様子だろうな。
魔物の補充や塔構成の変更があるかもしれん。それはその時の様子か。
「ちなみにどちらの塔がおすすめなどありますか?」
『Dランクの塔など全く調べておらんからのう。今からファムで調べる感じじゃが』
『【息吹】は風属性の鳥や飛竜などがいますわ。
【鬼面】はオーガ系が主力。他にも亜人や巨人がいるでしょう。
『さすがアデルさんですね……』
本当だ。全ての塔の情報を暗記しているのかこのお人は。つくづく天才だと思う。
しかしそう聞くと、単純に攻略するなら【鬼面の塔】が簡単そうに思えるが、やはり
一方で【息吹の塔】の
問題は飛竜か。
とは言えDランク141位でSランク固有魔物の飛竜を召喚しているとも思えん。いてもAランク固有魔物ではないだろうか。
私の塔にはSランクの魔物がまだいない。
いや、召喚しようとTPを溜めている段階なのだが、仮に無理して召喚しても攻撃陣には使えないし、であるならばと小柄なAランクを優先してしまっているのだ。
小柄なSランクもいるにはいるのだがな……クロセル(A)の上位種でヘル(S)という悪魔が。
ただそれを召喚するならフェンリル(A)を二体召喚したいだとか、【黄砂】の報酬の【天翔皇ホルス(★A)】を召喚したいだとか、考えてしまうのだ。
いつまでも先延ばしにするのも何だし、そういった意味では今回はいい機会かもしれない。
相手の塔は【鬼面】【息吹】、そしておそらく【熱線】も視野に入るだろう。
その塔を斃す為の戦力を用意する。まずはそれを優先して召喚してみるか。配置などは後回しだ。
「では、準備を整えフッツィル殿の調査が終わり次第、申請を受理しようと思います。フッツィル殿、お手数ですがよろしくお願いします」
『うむ、任せておけ』
何ともありがたい環境だ。
この同盟にいることがどれほど恵まれていることか、他者には伝わるまい。
何としてもご恩返しをしなければな。その為にも私は【六花の塔】を強くしなければ――。
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