360:【六花の塔】vs【鬼面の塔】です!
■シルビア・アイスエッジ 23歳
■第501期 Dランク【六花の塔】塔主
私はまず【鬼面の塔】の申請を受理することにした。
これはフッツィル殿に調べてもらった結果に加え、一塔目を斃した後、すぐさま申請を取り消されるのを恐れたからだ。
【鬼面】のゾルは比較的真面目。そして【息吹】のガウアハルは超好戦的。
ガウアハルならば【鬼面の塔】が消えても怖気づいて申請をとり消すような真似はしないだろうと。それを加味しての選択だ。
私は【鬼面の塔】戦に向けて魔物の召喚を行わなかった。現状の魔物で十分と判断したからだ。
フッツィル殿の情報によると、まずゾルは指揮官となる小型のオーガ種の固有魔物を召喚しているらしい。AランクかSランクかは不明。
主力部隊は当然オーガ(C)オーガジェネラル(B)オーガキング(A)となるわけだな。
他には亜人系や巨人系の魔物。アーマー系の魔物。あとはアラクネ(C)などの蜘蛛系もいるそうだ。
つまりほとんど近接地上部隊に絞られるということだな。
フッツィル殿が斃した【人形の塔】よりは以前にドロシー殿が斃した【打突の塔】に近いらしい。
それに加えて【鬼面の塔】の塔構成まで全て分かったのであれば、何も恐れるものはない。ただ斃すのみだ。
ただ気を付けなくてはならない点もある。
これが三連戦の一戦目だということだ。(【熱線】と戦うかはまだ不明だが)
私の情報をなるべく出さずに斃さなくては次の
かと言って、私の一番の目的であるTP稼ぎを怠るわけにはいかない。出来ることなら殲滅戦が望ましい。
というわけで魔物に関しては躊躇せず、出来うる限りで戦力を投入するものとした。
代わりに情報を与えない手段として「敵攻撃陣を【六花の塔】に入らせない」という策に出た。
――カラァン――カラァン――
『二人とも準備はいいかなー?』
「はい」『はい!』
『じゃあ始めようか!
私は攻撃陣を転移門から離れた『雪道の森』の中に布陣させていた。若干木々で隠れるように。
そして転移門から入って来る敵の攻撃陣。
「撃ちなさい!」と
氷魔法、氷のブレス、神聖魔法、闇魔法、それらはドドドドと転移門を破壊するかの如く。
やがてクロウの「止め!」という声が聞こえるまで続いた。
「
『ガウ』『はい』
敵攻撃陣がある程度こちらに入ってくれて助かったな。これで主力をかなり削れた。
あとは逃げ帰った魔物がどれほどいるか、そいつらが待ち構えているか、それとも塔の奥に逃げ込んだのか。
『全力で退いたようじゃな。指揮官が斃されたのじゃから烏合の衆といったところじゃろ』
「分かりました。ありがとうございます。シルバ、敵は退いたらしいが一応警戒しておけ」
『ガウ』
初手で敵攻撃陣にこちらの攻撃陣をぶつけ壊滅を狙うというのは、シャルロット殿が【強欲の塔】戦で使った手だそうだ。
普通の
攻撃陣は塔を攻略していき、そこに配置している魔物と戦いながら最上階を目指すもの。
だから攻撃陣と攻撃陣が戦うということを想定していないのだ。私もそうだったのだが。
最初はアデル様が言い始めたのだ。塔の情報を与えないためにも敵攻撃陣の早期殲滅を狙うべきだと。
そしてその方法としてシャルロット殿の策が出てきた。それを遠慮なく使わせてもらったというわけだ。
おそらく【鬼面】のゾルにしても驚いただろうし、観戦していると思われる【息吹】のガウアハルも【熱線】のズゥリアにしても同じだろう。
この一手で勝負は決まったようなものだ。
あとは残党処理をしつつ、【鬼面の塔】を殲滅していき、最終的に固有魔物のオーガを斃せばいい。
ああ、一応
フッツィル殿にお願いはしているが、私も何かあった時に備えて警戒はしておこう。
■ズゥリア 31歳
■第490期 Cランク【熱線の塔】塔主 獅子獣人
【鬼面の塔】は驚くほど簡単に負けた。
魔物の質も数も勝っていたのに、結果を見れば大敗だ。
敵は【鬼面の塔】の魔物を各個撃破で殲滅していき、こちらが敵に与えた被害は微々たるもの。
【六花の塔】の調査もすることができず、一方的に蹂躙された。
これが大敗でなくて何だという話だ。
初手で攻撃陣が、もっと言えば眷属のオーガキング(A)部隊がやられたのが痛すぎた。あれで決まったようなものだ。
攻撃陣というのは敵の塔への転移門をくぐり、入口で布陣してから塔の攻略を進めるものだ。
それが布陣する前に総攻撃を受けてしまっては、構えも反撃もできないままただ斃されるしかない。
しかも攻撃しているのは敵攻撃陣。つまり【鬼面の塔】を攻略するつもりで組んだ主力部隊だ。
仮に同じ戦力を持っていたとしても、待ち構えていたほうが有利に決まっている。
転移門の狭さでは一斉に逃げることもできず、背後を撃たれて死ぬだけだ。
ゾルがやるとすれば【鬼将カムゥロイ(★A)】を指揮官にした敵攻撃陣以上の戦力を部隊編成し、どこかでぶつけるべきだっただろう。その足で【六花の塔】に乗り込めばワンチャンあった。
……いや、【六花の塔】の防衛陣にはおそらく固有魔物かSランクの魔物がいるはずだ。そうなるとやはり厳しいか。
【六花】の攻撃陣には最高でAランクの魔物しかいなかった。
あとはクロセル(A)、
総数は百五十ほどいたが、【鬼面の塔】にはその数倍の魔物がいる。質でも量でも勝っていたというのはそういう意味だ。
つまりは塔主の差で負けたと、それに尽きる。
俺から見たって勝ち筋はあった。少なくとも敵攻撃陣を潰すことはできたはずだ。
まぁそれをアドバイスしなかった俺も悪いのだが。将来俺が勝つために″見″に入らせてもらった。許せ。
しかし得られた【六花】の情報が攻撃陣の編成と戦い方だけってのは厳しいもんだ。
出来ればガウアハルにはもうちょっと頑張ってもらって【六花】をある程度削って欲しいもんだが……。
◆
「はあ!? もうやるのかよ!」
ゾルがやられてからわずか三日後、もう【息吹の塔】対【六花の塔】が行われると聞いて俺は驚いた。
まずガウアハルには「【鬼面】があれだけ蹂躙される様を見て、お前よくすぐに申請できたな」と。
ランクも同じ、ランキングだって大して差があるわけじゃねえ。
実力的に近いであろう【鬼面】が手も足も出なかった。それを観戦していて尚、戦おうなんてよく言えるもんだ。
もしかしたら申請自体は先に済ましていたのかもしれねえが、それにしたって【鬼面】戦後に取り消していてもおかしくはない。
まぁガウアハルの性格を考えれば、「意地でも俺がぶっ殺してやる」って躍起になってるに違いない。
どうやってゾルが負けたのか、どうすれば勝てたのか、はたしてそこまで考えているのか……。
ただ【六花】に短期間で連戦をさせるってのはアリだ。
普通、
【六花】にしてみればまず【息吹】の情報を得て、策を練らなきゃならねえ。必要なら塔構成を弄ったり、魔物を追加で召喚もするだろう。
やるからには必ず勝てるように策を講じるのが
それを二~三日で全て終わらせるのは不可能だろう。
たとえ同盟のサポートがあっても塔を弄り魔物に指示するのは塔主なんだからな。どうしたって粗が出る。
その状態で【息吹】とどこまでやれるのか。
【息吹】が勝つなら万々歳。早期に
しかしそれでも【六花】が勝つというのなら、俺はそれこそじっくり観察する必要がある。
おそらく【六花】は三塔同盟の残り一つ、俺の【熱線】を狙って来るだろう。俺もまた同じだ。
戦いは避けられない。だからこそ今回の
そう思って見始めたのだが、まず互いに転移門に入ろうとしない。
敵攻撃陣は入って来ないし、ガウアハルの攻撃陣もまた転移門目掛けていつでも攻撃できるよう布陣をしていた。
【鬼面】戦で見せた初手の総攻撃を警戒し、それをし返してやろうという構えだ。
まぁ俺でもそうする。ガウアハルにしちゃ珍しく頭を使ったな、という印象だ。
【六花の塔】の様子は全く分からないが、おそらく同じように構えてるんじゃ――
――といった所で、転移門に動きがあった。
スノーラビット(F)が三体、ピョコンと転移門をくぐってきたのだ。
それに対して【息吹】の攻撃陣は一斉に魔法を放った。
明らかに過剰な攻撃。兎三匹なんてあっと言う間に消え去った。
おそらく「敵が入ってきたら即座に攻撃する」ように指示をしていたのだろう。それが裏目に出た。
【六花】は兎三匹を犠牲にするだけで、【息吹】の攻撃陣が布陣していることも確認できただろうし、一瞬ではあるがその陣容も確認できたはずだ。
どういった魔物がどれほどの規模で攻め込んで来るのか、その情報は防衛する塔にとって何より有益なものだ。
【六花】は【鬼面】戦に引き続き、またも先手をとった形となる。
じゃあとられたガウアハルはどう返すのか。俺は固唾を飲んで見守った。口出しはしない。
ガウアハルは、【息吹】の攻撃陣は――まだ転移門を警戒し続けていた。
そして再びスノーラビットが入って来る。
それに対して過剰な魔法を放つ。先ほどと全く同じだ。
……はぁ……あいつバカすぎんだろ。
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