361:【六花の塔】vs【息吹の塔】です!
■シルビア・アイスエッジ 23歳
■第501期 Dランク【六花の塔】塔主
『いや、単にバカなだけじゃな。策を講じているわけではない』
「そうですか……それならばいいのですが」
『こんなのがよく丸六年も生き残っていましたわね。だからまだDランクなのかと言われればそのとおりなのですが』
『ど、同盟の力、ですかねぇ……攻められにくかったとか……』
『魔物はいいんですけどね。なんか残念な気分になります』
私は【息吹】のガウアハルという猫獣人を少々高く見積もり過ぎていたらしい。
Dランクとはいえ七年目の塔主でもあるし、バベルを生き抜いてきたという実績がある。
だから何かしらの策をもって今回の
実際、初手の『転移門待ち伏せ』は三日前に私が見せた策であり、また同じことをされたら堪らんということで意趣返しを図ったものだと思う。それ自体は『対策という名の策』と言える。
私はフッツィル殿からの情報で待ち伏せているのが分かっていたのだが、仮に情報がなくても「おそらく真似してやってくるだろうな」とは思っていた。
少なくともすんなりと転移門をくぐるようなことはしなかっただろう。
だから『対策の対策』も色々と用意はしていたのだが……。
試しにスノーラビット(F)を侵入させただけで、すぐさま魔法の集中砲火が飛んでくる。
兎三匹に対しどれだけ魔力を使ってくれるのだと。
それに対し何かしらのアクションがあると思って身構えてはいたのだが、それでも待ち伏せを続けていたので、同じようにスノーラビットを計五回投入した。どれも全力で魔法を放ってきたので申し訳なくなるほどだ。
そこからやっと動き出した【息吹】の攻撃陣は、私と同じように偵察用の魔物を【六花の塔】に侵入させた。
私はそれを迎撃するような真似はしない。どうぞ好きに入ってくれという感じだ。
今回の【息吹】戦で考えるべきポイントは大きく二つあった。
一つは次の【熱線】戦に向けて、ある程度の情報を与えておくこと。一戦目とは逆の考えだ。
【熱線】からはまだ申請も受けていないからな。逃げられないためにも「【六花】が不利だ」と思わせるような状況を作っておく。
もう一つは【息吹】の魔物対策。
シャルロット殿も仰っていたが、【息吹】の魔物は良いのが揃っている。
獣系、爬虫類系、鳥系、竜系といったところか。風属性の魔物が多いがそれだけではない。
地上、飛行、物理、魔法と揃っており、強いて言えば回復がいないくらいか。
おそらくSランク固有魔物は竜なのだろうが、それもまだ召喚していない。しかし現状の魔物だけ見ても十分に充実していると言える。
私の魔物でも十分に対抗できるとは思っているのだが、制空権は握られるだろうと予測している。
従って敵攻撃陣の殲滅をいきなり狙うというのはやめて、【六花の塔】三~五階層で対処しようと決めた。
そこには「ある程度【熱線】に塔構成を見せておこう」という意図も含まれる。
というわけで敵攻撃陣が一階層『雪道の森』を探索し始めた頃を見計らって、端に寄せて隠していた私の攻撃陣を【息吹の塔】に侵入させた。これで互いに攻略しあう形となる。
ちなみに攻撃陣の面子は前回とほとんど変わらない。
その分、防衛が薄くなるが塔構成と残りの魔物で何とかできるはずだ。
そうして【息吹の塔】を殲滅していく。TP稼ぎは継続だ。
当然、敵攻撃陣の進軍速度のほうが速いのだが、それでも構わん。焦ったら負けだ。
……そう思っていたのだが、どうも様子がおかしい。
【息吹の塔】の殲滅は想定以上に順調で、【六花の塔】の攻略は随分手こずっているようなのだ。
つまり進軍速度にほとんど差が生まれていない。
これでは【熱線】のズゥリアが「【六花の塔】が強すぎる」と思ってしまうではないか。
ある程度は順調に攻略してもらわなければ【熱線】が怖気づいてしまう。と逆に私が焦った。
で、冒頭の会話に戻るのだ。
どうやら【息吹】のガウアハルは想定以上の馬鹿であったと。
なにも初手の一連の対応だけではない。塔主としてメチャクチャすぎたのだ。
まず【息吹の塔】だが、フッツィル殿から情報を頂いた時にも同盟の先達たちから厳しい意見が出ていた。
下層は屋内構成の洞窟、上層は平野というのが基本なのだが、塔構成だけ見ても平凡すぎるというか最初に地形を選択したまま何も弄っていないように見える。
罠の配置も素人だし、魔物は適当にポンポンと置いているだけ。
これは新人塔主がプレオープンで創るような塔だ。
間違っても七年目Dランクの塔主が創る塔ではない。
なぜこんな塔が今まで生き残っていたのかと聞かれれば、答えは「魔物が強いから」しかありえない。
あとは「運良く生き残っていただけ」とも言えるだろうけどな。それは置いておこう。
しかしまだ続きがある。ガウアハルが仮に「塔創りが苦手な塔主」であったとして魔物の力を頼りに生き延びていたとするならば、その運用はどうなのかと。
未熟な塔であっても魔物をちゃんと動かしていれば強い塔にもなりうるからな。
残念なことにガウアハルは魔物の運用までダメダメな馬鹿塔主であった。私にとって誤算以外の何物でもない。
攻撃陣の陣容を見てもリザードキング(A)を指揮官に据えたリザードマン部隊が主力なのだが、寒さにも暑さにも弱いはずなのだ。蛇や蜥蜴もしかり。寒冷系の蛇や蜥蜴もいるのだがリストにいないのか【息吹】の攻撃陣にはいなかった。
斥候も明らかに不足している。ウルフ系の魔物に先行をさせているが、その動かし方も微妙だし、ちゃんとした斥候ができていない。
リザードキングの指揮によるものかと私は思ったのだが、どうやらガウアハルの指示で動かしているらしい、とフッツィル殿が教えてくれた。なぜ指揮官に任せないのだと内心怒鳴った。
一方で【息吹の塔】の防衛に関してだが、どうやら私の攻撃陣が攻め込んできたことに驚いていたようだ。「入口にいなかったじゃないか」と。そんなものどうとでもなるだろうに。
そうして私の攻撃陣を迎え討とうと思ったらしいのだが、防衛に残る眷属は
普通はその二体を使って塔内の魔物に伝達をする。配置を移動させたり、仕掛けるタイミングを決めたり、どの魔物を狙うか共有したりと。
もちろん塔内全ての魔物に伝達するのは不可能なのだが、配下の魔物などを使ってなるべく広く届かせるようにする。
そうでなければ
しかしガウアハルはそれすらしなかった。眷属を伝令に使うという考えがないのか、それとも私の攻撃陣への対処方法が分からなかったのか、それは不明だ。
とにかく【息吹の塔】の防衛は普段から配置されている魔物に全て任された。
つまり、適当な塔構成の上、適当に配置された魔物を適当に当たらせると。
侵入者に対して行っているような迎撃をそのまま
しかも攻撃陣にある程度の主力を割いた状態だ。配置も歯抜けのまま補おうともしない。
何と言うか、空しいと言うか、悲しいと言うか……やるせない気持ちになってくる。
私が毎日心血を注いで運営している塔主という仕事を貶されたような感覚だ。
大きく溜息をついた私にアデル様が声を掛けて下さった。
『とりあえずあの敵攻撃陣で【六花の塔】がどこまで攻略できるかというのは見ておくべきでしょう』
「……そうですね。私も見ておきたいですし【熱線】に見せておかねばなりません」
『あとはもうTPくらいしか価値がありませんわね、あの塔は。まぁじっくり殲滅することですわね』
はぁ……シルバとクロウに速度を遅らせるよう指示をしておくか……。
■ズゥリア 31歳
■第490期 Cランク【熱線の塔】塔主 獅子獣人
まぁ、何と言うか……ガウアハルにしてはよくやったほうじゃねえかな。
【鬼面の塔】のほうがまだ可能性はあったんじゃねえかとは思うが、とりあえず最低限【六花の塔】の力は測れたと見ていいだろう。
まだ防衛側の大ボスの存在が分からねえが、最低でもAランク固有魔物であることは間違いない。
攻撃陣がかなり精強だが、色合いのまるで違う【鬼面】と【息吹】でどちらも同じ陣容だったことを踏まえれば、あれが″基本形″ってことだろうな。
となればAランクの五種――フェンリル、クロセル、スフィンクス、
フェンリルと
あとは飛行系の二体か……まぁこちらも飛行系を当てるしかないだろうな。
だったら大ボスに配置しているマンティコアフレイム(★A)をそのまま当てるか。
これなら飛行系にも寒冷系にも対処できる。一体じゃさすがにきついからサポートは必要だが。
あとは【六花の塔】をどう攻略するかだが、やはり斥候が一番重要になってくる。
特に二、三階層を突破するには最重要と言ってもいいだろう。
それと火属性攻撃と強いて言えば魔法防御だな。それで大体の魔物は対処できる。
そう考えると俺の塔からすればやりやすい相手と言えるんだが……塔構成が巧すぎるんだよな。厳しすぎると言うべきか。
【息吹】の攻撃陣は四階層までしか行けていないが、そこまででもかなり難易度の高さはよく分かった。
侵入者も四階層までしか進んでいないようだが、「そりゃそうだろうな」と思ったよ。この塔は骨が折れる。
一番良いのはマンティコアフレイムを攻撃陣として使うことだが……さすがに防衛の要を動かすわけにはいかねえ。
だったら防衛策をとって敵攻撃陣を潰してから主力全部で攻めるべきか?
もしくは【六花】がやっていたように早期に敵攻撃陣の殲滅を狙うか。
悩ましいな……申請するのはもう少し策を練れてからにすべきか。
連戦としたほうがこちらには有利なんだろうが……いや、さすがにそれは……。
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