253:ランクアップ直後は悩ましいです!



■アデル・ロージット 18歳

■第500期 Bランク【赤の塔】塔主



『なんか難しくないですか、Bランクの塔って』



 いつもの同盟通信でシャルロットさんがそんなことを仰います。


 Cランクに上がった時に比べて随分と悩んでいらっしゃるご様子。

 あの時よりTPも増え、召喚手札も増え、塔構成の自由度も上がったはずなのに。それでも難しいと悩んでいらっしゃる。


 まぁわたくしも全く同意見なのですがね。


 シャルロットさんのお言葉にホッとしたというのが正直なところです。

 これでシャルロットさんがすんなり運営できていたら少しショックでしたよ。

 わたくしだけ手を拱いていたらどうしたものかと。



『どしたん。大改装しすぎて上手くはまらんかったとか?』


『侵入者が強くなってバランスをとるのが難しいということではないか?』


『それもそうなんですけど、う~~ん、なんと言いますか……言葉で表現するのが難しいです』



 何となくシャルロットさんの仰りたいことは分かります。

 ドロシーさんやフッツィルさんの仰っていることも正解なのでしょうがそれだけではないのですよね。


 理想と現実の隔離と言いますか、塔主と侵入者の思考の相違と言いますか、そこら辺でチグハグになっている印象です。わたくしは。



「シャルロットさん、侵入者が思いのほか攻略しに来ないと思ってらっしゃいます?」


『はい、探索が遅かったり、途中で引き返したりというのが多いですね……』


「一方で塔構成は全然完成していないのですよね。納得できる階層が創れていないと」


『仰るとおりです。一階層にしたって未完成なんですよ。それももどかしいのですが』



 ああ、やはりそうですか。わたくしと全く同じですわね。


 自分の思い描く大改装はできていない。

 じゃあ攻略が捗ってしまうのでは……と思っていたら逆に全く進まない。

 改装を終わらせるためにもTPが欲しいのに、探索が進まないからTPの入りも悪いと。

 TPが入らないから魔物も召喚できないし、改装が滞る……というわけですよね。



「わたくしも偉そうなことは言えないのですが、おそらくですが″Bランク″というものを高く見積もりすぎているんじゃありませんの?」


『私の想像より侵入者の方々が弱いということですか?』


「侵入者どうこうよりも塔のほうですわね。わたくしやシャルロットさんが持っている″Bランクの塔″のイメージが強すぎるのかもしれないと思っていますわ」



 Cランクの塔とBランクの塔では隔絶された″差″があります。それは確か。

 今まで戦った相手を見ても、Bの【風】とCの【甲殻】【暁闇】、Bの【死屍】とCの【雨林】【砂塵】、Bの【青】【霧雨】とCの【宝石】といったようにその差は歴然。


 むしろ、そうした経験があるからこそ「Bランクの塔はこれくらい強くなければならない」と思い込んでしまっている。

 そして「そんなBランクの塔に挑む侵入者はこれくらい強いだろう」と予想して塔構成を決めている。


 それが結果として「こちらの思い描くBランクの塔」と「一般的なBランクの塔」の差を生み出してしまっているのではないでしょうか。



 確かにCランクの塔とBランクの塔では戦力差が大きく違いましたし、「Bランクの塔は限定スキルを持っている」「Bランクの塔以上はファムで探りづらい」など一線を画すイメージがあります。


 それはそれで正しいのですが、では本当にCランクとBランクが全く違うのかと言うとそんなことはないはずです。

 Cランク上位とBランク下位に差はないだろうと。



『あー、【強欲の塔】とかCランク94位やったけど、普通にBランク上位でもおかしくないもんなぁ』


『高ランク魔物の数だけで言えばBランクの【力の塔】より上じゃろう』


『そ、そう聞くとなんかおかしいですね……ランクってなんなんでしょうね……』



 神様はランクアップ条件に戦力やTP取得数、侵入者の撃破率など多くの要素に加えて神様の印象で決めていると仰っていました。おそらくそこには塔主歴といったことも含まれるのでしょう。


 シャルロットさんたちが斃した時【力の塔】は確か十五年目とかだったはずです。

 一方で【強欲の塔】は三年目。そういったことも関係しているはずです。

 まぁ【強欲の塔】に関してはシャルロットさんが斃していなければBランクに上がっていたでしょうけれどね。


 ですのでCランクとBランクの差は確かにあるのですが、わたくしたちの想像よりもその差は小さい……というのがわたくしなりの結論です。



『じゃあ下方修正したほうがいいんですかね。塔構成とか戦力とか』


「わたくしもそれを考えましたが……やめましたわ。自分の思い描くBランクの塔を創るべきだと思いましたので」


『おお、アデルちゃんらしいなー』


「Bランクの塔と言いましてもピンキリですし、わたくしの塔がBランク上位相当と言うのであればそれで構わないと。侵入者の方々がそれに合わせてくださいと、そういうスタンスに決めましたわ」



 Bランクの塔というのは三十以上もあり、Aランクに行くには十年前後を要すると言われているほど、皆さん燻り続けているのです。


 結果、三十の中でも格差が生まれ、Bランク上位と下位とでは難易度が大きく異なるのではないでしょうか。

 そしてわたくしたちは【青】【霧雨】といった上位のイメージを強く持ってしまっていると。



 侵入者のほうも当然ピンキリでしょうし、Cランクの侵入者がBランク下位の塔に入ることはあっても上位の塔に入ることなどほとんどないはずです。


 今はわたくしたちの塔がランクアップしたばかりで、そうした侵入者の″ふるい分け″が出来ていない。

 だからこそ探索の遅さが目立ったり、撤退が多かったりするのだと思います。



『冒険者目線で言わせて頂きますと、CランクとBランクでは危機管理能力が全く違うはずですので、その差が探索にも表れているのではないでしょうか』


『そうなのですか、シルビアさん』


『私見ですが、Cランク冒険者は無鉄砲な面が目立つと感じます。それがBランクとなると斥候を含め戦力がある程度揃っていますので、危険と判断した時に撤退するか打ちあうか、そうした判断が明確になるものだと思っています』


『なるほど……』


『塔に慣れる速度もBランクのほうが早いでしょうから、困難と思われても問題ないのではと……すみません、生意気な口を』



 塔に慣れる、ですか。シルビアさんらしいご意見ですわね。

 こちらがいくら難易度の高い塔を創ってもいつかは攻略が進む。

 それはCランク侵入者よりも早く適応するだろうと……なるほど。為になりますわ。



「いえ、シルビアさんの意見は貴重ですわよ。非常に助かりますわ」


『恐縮です』


『私もありがとうございます、シルビアさんにアデルさんも。でもそうですよね、私も焦っていたのかもしれません。もうちょっと長い目で見ようと思います』



 せっかくBランクに上がったのですし未完成とはいえ大改装を行った。

 にも拘わらず結果が出ない、予想を下回るというのは焦って当然だと思います。わたくしも同じですし。


 しかし本来の塔運営というのはこういうものなのでしょうね。

 なかなか思うように運営できないからこそ一つのランクを上げるのに何年も掛かるのでしょうし。


 わたくしたちは順調に来すぎていたのですわ。


 じっくり腰を据えて悩みながら徐々に改善し、塔を発展させていく。

 これもまた経験なのではないでしょうか。



『ちなみにシャルちゃん、差し当たって一番気にしてるのはどこなん?』


『そうですね……鳥、ですかね。塔のほうで言えば』


「鳥?」


『一階層にしても五階層にしてもD~Cランクくらいの飛行系魔物が足りないんですよ。ハーピィとかハイフェアリーくらいしかいませんし』



 【女帝の塔】は一階層にハーピィ(D)を追加してフェアリー(E)と共に空から攻撃を仕掛けるようにしたらしいですわね。

 難易度を上げる手段としてはとてもいいと思います。帝都の地形も活用できますし。


 そして五階層は六階層とつなげて『森』にしたそうですわね。ユニコーン(B)の放牧場のような感じで。

 ペガサス(C)やヒポグリフ(C)も飛ばす予定とのことで階層を高くしたそうですが、今はまだその高さを活かしきれていないと。

 そもそも魔物の数が少ないそうですがね。まだ仕方ない部分もあります。



 確かに森を飛び回れるような小柄な鳥がいれば『森』も有効に使えそうですわね。

 今はせっかくの『森』がもったいなく感じているということでしょう。



『ご、【傲慢】同盟の報酬とか【魔術師】同盟の報酬とかではダメなのですか……?』


『ステュムバリデス(C)、ヴィゾフニル(B)、クラウドクロウ(D)、ファントムイーグル(B)……結構リストには残っておるからのう』


『それだと皆さんだって使いたいでしょうし、それに一階層や五階層で使い潰すような真似をしたらすぐに召喚可能数の上限になっちゃいますよ』



 まぁそうですわよね。

 ステュムバリデスは【砂塵】の報酬で五十体ほど召喚可能ですが侵入者の多い一階層や五階層に配置するとなればすぐに使い切ってしまいます。

 遠距離攻撃のヒットアンドアウェイを徹底させたとしても長引かせるだけで解決にはなりませんからね。


 わたくしもセイレーンパタパタ部隊のストームイーグル(B)で同じような悩みを抱えています。

 今のところ前線に出さず、上層に控えさせる形をとっていますが、塔主戦争バトルとなれば使い潰すでしょうしね。

 だからこそどの塔も極力自塔戦力を使っているのでしょうけれど。



『やっぱハイフェアリーとかペガサスとかハーピィに頼るしかないんとちゃう? そもそも『森』が【女帝の塔】に見合ってないんやし、それでも使おう思うたら無茶するしかないやん』


『ですよねぇ……まぁ『森』に限らず『海』もあるのでそこの魔物もどうにかしないといけないのですが……』


『【女帝の塔】のセオリーから外した階層か。なかなか考えものじゃのう。わしは面白いと思うが』



 わたくしも賛成ですがね。多様性を持たせて安直な塔構成をやめるというのはメリットがありますし。

 とは言えデメリットは今シャルロットさんが抱えている悩みのとおり。

 なかなか難しいものではありますが塔主としてそういったことに挑戦するのも良いことだと思います。



『んじゃとりあえずどっかの″鳥の塔″か″海の塔″とバトってみたらええやん』


『うわぁ……』


「ドロシーさん、それは極端ですわよ。魔物を召喚するために欲しい魔物を抱えている塔を潰すだなんて……いえ、それはアリかもしれませんわね」


『アデルさん!?』



 そうした目的で塔主戦争バトルをするというのはあながち間違いでもありません。

 固有魔物の召喚権利を求めて塔主戦争バトルを仕掛けるということもあるのですから。


 問題はそうして召喚権利を得ても回数制限があるから恒久的な解決策にならないということですが、一時しのぎと考えれば問題ないでしょう。

 TP不足の解消にもなりますし、それだけでも大改装の完成に近づきます。



 わたくしもちょっと真面目に考えてみましょうかね。

 悩みを抱えているのはシャルロットさんだけではないのですよ。わたくしにだってTPや魔物は必要なのですから。



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