252:新階層にお客さんがやってきました!
■モッダ 25歳
■Cランク冒険者 パーティー【百火霊爛】所属
俺たちが主戦場にしていた【女帝の塔】がBランクに上がった。
予想はしていたが少し残念でもある。
なにせ塔の難易度は上がるだろうし、Bランクパーティーがこぞって挑戦するはずだからな。
今まで【女帝】同盟の躍進っぷりを傍から見ていたBランク冒険者が当事者になったわけだ。待ってましたってなもんだろう。
後発の連中に抜かされるってのはあまり気分のいいもんじゃない。
しかしBランクパーティーには地力で劣っても、今のところ【女帝の塔】のアドバンテージは俺たちの方にある。
塔を攻略するのに経験が一番必要だなんて低ランクのヤツらでも知っている常識だからな。
一月後、二月後にはどうなっているか分からないが、少なくとも今ならば俺たちがBランクパーティーよりも上だろうと。あくまで【女帝の塔】に限ればだが。
だからこそランクが上がろうが、俺たちが【女帝の塔】に挑むのは変わらないと、そういうわけだ。
だが挑むにしても最初に考えることがある。
それは″どの階層から始めるか″という難題だ。
俺たちは【女帝の塔】がCランクの時に六階層まで進んでいる。つまり五階層の往復転移魔法陣が使えるわけだ。
【女帝の塔】がBランクに上がったからといって、その魔法陣が使えなくなるわけではない。
五階層から探索開始できるという権利は持ち続けている。
新たに挑戦し始めるBランクパーティーは当然一階層から探索する。
そして俺たちは五階層から――これもまたアドバンテージの一つに違いない。
しかし、だ……。
「Bランクに上がった【女帝】の五階層って、なんかヤバそうじゃない?」
「難易度をどこまで上げているかだな。森にいたユニコーンが普通に闊歩している可能性もある。十二分にある」
「Bランクの塔の五階層にBランクの魔物がいてもおかしくはないもんね……ちょっと早い気がするけど」
「かといってまた一階層から探索するってのも馬鹿らしくないか? 今までの苦労が水の泡だろ」
「俺も同意見だな。一階層から探索するくらいなら他のCランクの塔に行ったほうがマシだ」
という感じでパーティー内でも話し合った。
結果、まずは五階層を調査探索してみようとなった。
挑戦者が少ないのは確定しているし、挑戦権を持っていて挑まないのは損だと。
新たな発見などがあればギルドで報酬がもらえるかもしれないという狙いもある。
【女帝の塔】がランクアップし営業再開となった朝、早速入ってみれば帝都の街並みが変わっていることに気付く。
「外壁はまだ城しか描かれてねえな。またメイドが描くのか?」
「だったら尚更一階層は探索したくないわね」
「あの時計塔はなんだよ。あんなの建ってなかっただろ」
「ん? おい、あれ、ハーピィじゃねえか? 時計塔から飛んだの」
「うわぁ……やっぱり難易度上げてるのね……」
遠目で見ただけで変化が分かる。
今までにいなかったハーピィが一階層にいるというだけで大事件だ。
【女帝の塔】の低層は″ランクの低すぎる魔物″が多いとして有名だった。Cランクの塔なのにEやFランクの魔物を重用しているとな。
しかし追加したハーピィはDランクだ。
難易度を一段階上げたという何よりの証拠だし、追加したのが飛行戦力というのがまた厭らしい。
ごちゃごちゃした帝都の裏道で屋根の上からハーピィが襲ってくるとなるとCランク並みに危険性がある。
一階層がこの分では大改装でどれだけ弄っていることやら……。
若干不安な気持ちがありつつも、俺たちは帝都へと入っていく群衆を後目に転移魔法陣へと向かった。
転移魔法陣は正常に働き、俺たちは五階層へと飛ばされた……のだと思う。
「は? なんだこりゃ……」
「森……でしょうね……。嫌な予感しかしないわ」
「おい外壁見てみろよ。ここ連結階層だ。二階層分使ってるぜ」
景色が全く違うので本当に五階層なのか不安なのだが、おそらくきっと間違いない。五階層だろう。
五階層と六階層をつなげ広い森を創っているのだ。
【女帝の塔】で森と言えば元五階層のユニコーンを思い出す。
やはり懸念したとおり、ユニコーンと普通に接敵するかもしれないな。
目の前には森の木々しか見えないのだが、一応階段から続く道らしきものはある。森に挟まれた土や原っぱの道。幅は5mほどか。
それが直進した先で左右に分かれているのが見えた。
「とりあえず警戒しながら進むぞ。ヤバくなったらすぐ撤退するからな」
「「「おう」」」
そうして俺たちは道を進み始めた。
左右の森はそこまで密集しているわけではないが見通しが良いというわけでもない。
どちらかと言えば道の突き当りの森のほうが密集しているような気がする。
本当なら森の中を探索すべきなんだろうな。調査目的なら。
こういった地形の場合、通りやすい道には強い魔物や罠が配置されていて、森の中を行ったほうが安全だったりするもんだ。
だから七階層までのルートを確立するなら森の中を調べるべき。
とは言え今日は初探索なので道のほうを見ておかないわけにもいかない。
危険かもしれないが、その危険が何かを知っておく必要がある。
「上も警戒しろよ。鳥とか来るに決まってるし」
「連結階層にしてるんだからね。それこそハーピィとか来るかもね」
「Dランク程度ならまだマシだろ。Bランクのハーピィクイーンがハーピィ連れて来るかもしれねえぞ」
「ありえるのが怖いわ。ここ【女帝の塔】だしね……」
飛んでくる魔物と見通しの悪い左右の森、地面には罠があるかもしれない。
上下左右の警戒を分担しながら俺たちは進んだ。
しかし直進の道で強襲されることはなかった。
やがて道の突き当りとなり左右どちらに進むかという選択に迫られる。
いや、直進して森の中に入るという選択肢もあるが……今日は道のほうを調べるべきだな。
どうやら左右の道は環状に走っているようで、弧を描くカーブの先は見えなくなっている。
これではどちらに行くかの判別もできないということで、俺たちは右側の道を進むことにした。
「ん……? 右から襲撃! ロックアントの群れ!」
「おう!」
右側の道に入ってすぐ、森から魔物が迫って来た。
ロックアントはEランクの雑魚だが【女帝の塔】では新顔のはずだ。森の階層に合わせてきたってことだろう。
十体程度ならば問題ないが……森の中で戦うとなった場合は危険だな。
ここが【女帝の塔】であることを考慮すればクイーンアントの巣がある可能性もある。
となればロックアント十体程度じゃ済まないだろう。
アイアンアント(D)も含めてもっと大量に襲って来てもおかしくはない。
とは言え今いる場所は森の中ではないし、アイアンアントがいるわけでもない。
俺たちは速攻で斃し、警戒を続ける。
そうした慎重な心構えが功を奏したのかもしれない――すぐにその音に気付けたのだから。
――ラッ…………ラッ…………
――カラッ…………カラッ…………
――パカラッ…………パカラッ…………
「!? 蹄の音! ユニコーンか!?」
「どうする!」
「撤退! 魔法陣まで走れっ!」
まだユニコーンかどうかも分からない。何体いるのかも分からない。
仮にユニコーンであっても一体が相手であれば戦えたはずだ。
しかし俺は撤退を指示した。それは正しい判断だったと思っている。
殿をつとめながらの全力疾走。俺は背後の音に恐怖を感じながらチラリと振り返ってみた。
やはりユニコーンだった。数は一体。それは音で分かっていた。
しかしその背に乗るのは……!
「ヴァルキリー!? ユニコーンに騎乗していやがる!」
「Bランク同士で乗馬かよ! ふざけんな!」
「逃げるわよ! 早く!」
それからは振り返りもせず、一目散に逃げた。
転移魔法陣を使って【女帝の塔】から抜け出した。
ギルドに情報を持ち帰る……が、この程度の情報じゃ売れないだろうな。
さてどうしたものか……皆で話し合わなければならない。
このまま【女帝の塔】を主戦場にしていて大丈夫か、と。
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