160:シルビアさんも頑張っていたようです!
■シルビア・アイスエッジ 22歳
■第501期 Eランク【六花の塔】塔主
私の【六花の塔】がオープンしてから少し経つ。
プレオープンの成績を受けEランクの塔としてスタートを切ったわけだが、そうなると改装が必要となる。
直径500mの全三階層から、直径600mの全五階層へ。
たった100m、たった二階層分だが新米塔主の私からするととてつもない″大改装″になる。
冒険者だった頃にはFランクやEランクの塔など挑むことがもし可能であれば鼻歌混じりに攻略できただろう。
しかし塔主の立場となった今、それを創る身となれば「なんと困難な塔だろう」と思うわけだ。
攻略するのは簡単でも創るのは難しい。
塔主とは、塔創りとは決して簡単なものではない。そう痛感する日々だ。
幸いにもオープンまで一週間あったし、プレオープンで稼いだTP、そして毎日貯蓄した魔力によるTPもある。
これをもってEランクの塔を創り上げ【六花の塔】を正式にオープンするべく精進した。
もちろん合間にはアデル様のアドバイス――検閲とも言えるが――も入れて頂いた。
そうしてようやくオープンを迎えられたのだ。アデル様には本当に感謝してもしきれない。
元々プレオープン用に創った【六花の塔】は「Fランクの侵入者でもある程度進める」という難易度であったため、一・二階層はほぼそのまま使うことにした。
ただEランクの侵入者も増えるので多少は魔物の質を上げたり、数を揃えたりといったことはしたが。
二階層の『氷の洞窟』も滑る地面を利用した罠を増やしたりといった程度だ。
三・四階層は塔構成の難易度を一段上げる。
というのもTPの関係で強い魔物を揃えることができず、地形や罠に頼るしかないというのが正直な所なのだ。
従って、一階層に似た雪道+吹雪という構成。
三階層に比べて四階層は、より雪が積もり、より吹雪が激しくなるといったものにした。
「単調ですわねぇ。確かに難易度はちょうどいいのですがもう少し工夫と言いますか目玉のような階層が欲しいですわね」
とはアデル様の談。それは私もそう思う。
しかし現状、凝った階層を創れるほどのTPの余裕もなく、ただでさえ魔物不足。
何よりフェンリルの名付けの為にも無駄なTP消費は抑えたいところなのだ。7,000TPは遠すぎる。
「ではオープン直後に
「え……い、いきなり
「ええ、おそらく同期から申請は来ているのではなくて? そこから適当に二つほど潰しましょう。新米Fランクが相手でも二塔あれば10,000か15,000TPくらいは貯まるでしょうし」
随分と簡単に言うが、自分も塔主となったから分かる。
存在の全てを賭けての勝負なのだ。
しかも申請してきているFランクの同期はおそらくプレオープンで地獄を見た者たち。
それらが一矢報いる為か、一発逆転を狙ってか、トップの私を狙っている。死の物狂いで、私の命を――。
普通に考えれば順位が上の私が有利だろう。しかし死を目前にした相手は何をしでかすか分からない恐ろしさがある。
だからこそ
ところがアデル様は「大丈夫だから受けなさい、これも経験だから」と言うのだ。
経験というのは分かるのだが私としてはもう少し塔主というものに慣れてからと考えていたのだが……いや、アデル様は私を信頼して下さっているのだ。これに応えぬわけにはいかない。
ということで、申請が来ている塔をお伝えした。調べるから教えてくれと言われたので。
翌日来た手紙の内容がこれだ。
=====
受けるのは【雄弁の塔】と【鱗皮の塔】にして下さい。順番はどちらが先でも構いません。
【雄弁】はゴブリンが主体、【鱗皮】はリザードマンが主体です。
ボスはせいぜいCランクが一体。何でしたらフェンリルとジャックだけを突っ込ませても大丈夫です。
強いて言えば罠が問題ですが、よくある『曲がり角の先』くらいなのでむしろ順路を教えてくれているようなもの。シルビアさんが画面で指示を出せば問題ないでしょう。
それと思った以上にTPを保有していないようです。二つ潰しても10,000TPに届かないかもしれません。
その際はまた別の塔を選ぶことにしましょう。
=====
このような感じだ。
たった一日で聞いた事もない底辺の塔の情報をこれほど得たというのか……これが【神童】アデル・ロージット様。私はただただ感服するしかない。
ともかくこれだけ有益な情報を得て仕掛けないのもアデル様に無礼だ。
私は早速申請を受理し、まずは【雄弁の塔】と
初めての
一連の流れはアデル様に伺っていたのだが、実際に画面を通して戦況を見守り眷属に指示を出すというのは、私が自分で戦うよりも数倍難しい。
アデル様がフェンリルとジャックを突っ込ませろと仰った意味もよく分かった。
眷属伝達できるのがジャックしかいないのだから、私が画面を見ながら出した指示を受け取る者――つまりジャックは絶対攻撃側に必要なのだ。
そして私からジャックへ、ジャックからフェンリルへと私の指示が伝達される。
これならばAランクのフェンリルを私が動かしているも同じ。
なるほど。
これは確かに経験になる。早めに
まぁ相手には気の毒だがな。私に申請したのが運の尽きだ。あの世で悔やめ。
ともかくそうしたオープン直後の動きもあって、私は順調すぎるスタートを切ることができた。
フェンリルも無事に眷属化できた。Aランクの
ちなみに名前はシルバと言う。白銀の大狼だからシルバだ。私にネーミングセンスなどない。
小耳にはさんだ噂ではやはりと言うべきか【六花の塔】はギルドで注目の的らしい。
元Aランク冒険者、フェンリル、プレオープントップ、そして速攻の二連勝と。我ながら目立つ活躍だと思う。
実際に侵入者の数は衰えることを知らないのだから、やはり噂は事実なのだろう。
アデル様には本当に感謝しかない。
次に送る実家への手紙にもアデル様の素晴らしさを書き並べると共に、ロージット公爵家にもお礼を伝えてもらうとしよう。アデル・ロージットこそ『メルセドウの神童』であると。私は日々その事実に直面しているのだと。
――と、そんな折、またも手紙が送られてきた。今度はどこかと思えば……。
――ピロン
『神様通信
本日行われた
【傲慢の塔】【死屍の塔】【雨林の塔】【砂塵の塔】【猫髭の塔】が消えました! 以上お知らせでした! 神様より』
アデル様、何をしておいでですか……。
いやちょっと待て。待ってくれ。理解が追いつかない。
【傲慢の塔】は私も何度か挑んでいる。その強さ、厳しさはよく知っているのだ。
確か最前線は十三階層だったと思うが私たち【氷槍群刃】が行けたのは十二階層まで。
あそこはとにかく「魔物で殺しに来る塔」だ。一階層からDとCランクの群れ。時にはBランクも混じる。
いくらAランクパーティーでもCランク五体が同時に来られると斃すのには手間が掛かる。
時には手傷を負うこともあるし、魔力を余計に消費することもある。
運が悪ければ事故死もあるだろう。
そうした戦いを何度も繰り返しやっと上階へ、というのをまた繰り返す。
地形で探索を困難にしたり、罠で殺そうとしたり、それももちろんあるにはあるが基本的には魔物が最大の敵なのだ。
私はまだ見ていないがおそらく上層にはAランクやSランクの魔物がいるのだろうし、当然【傲慢の悪魔ルシファー】もいるはず。
さらに
つまりはAランクパーティーをもってしても「攻略不可能な塔」であるのは間違いない。
それをどうやって攻略したと言うのだ、アデル様は……全く想像がつかない。
失礼ながらジータ殿お一人でどうにかできるわけもなく、【女帝】のメイドでもそれは同じことだろう。
そこに【輝翼】の
塔主になった今だからこそ分かることもある。
固有魔物の必要TPや限定スキルの存在など。知ってしまったが故に余計に無理だと感じてしまうのだ。
はぁ……いや、詳細を聞くわけにもいかないか。
何にせよ昨年から続く【
バベリオの民はさぞ楽しんでいることだろう。
私は私らしく、Eランクの塔主として地道にやらせてもらおう。
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